◇ロード岩流島喧嘩祭りⅣ
Aランクパーティーリーダーはレオパルの手により、新しい世界の扉を開きました。
三人揃ってポーズを決め、三人ともが同じ衣装を身に纏った元Aランクパーティーの面々。リーダーさんまでヒラヒラの女性用衣装だ。
別に恥ずかしがることもなく、むしろかつてのように自らが率先して前へ出てくる。髪の毛も伸ばして衣装に合わせた容姿にしてて、おまけにかなり似合ってる。
――これ、レオパルさんの仕業だよね? あの人、今度は何したの?
「色々あって、レオパル船長が新たに侍らせたニャンニャンパラダイスのニューカマーでアリンス! レオパル船長好みの衣装と調教――色々な指導もあって、今ではロードレオでも屈指の忠誠心を持った三人でアリンス!」
「……そう。色々あったんだ」
なお、詳しい話は聞けなかったし、聞こうとも思わなかった。とりあえず『色々あった』で締めくくろう。
女の子大好きなレオパルさんが男のリーダーさんをこんな風にしたこととか、考察し出したらキリがない。こんなことで時間もかけたくない。
――今回は真面目だと思ってても、裏では相変わらずなレオパルさんだ。
「さあ、行くぞ! アホ毛の剣士! 俺らをポートファイブの時と同じと思うな!」
「勝てはしないだろうけど、こっちだって引けない理由があるのよ!」
「レオパル様のためにも頑張るしー! 少しでも削ってやるしー!」
「……向かってくるなら相手する。気を抜いてもいられない」
元Aランクパーティー三人組についても、私の相手をする気満々だ。
もう冒険者じゃなくなって、実力についてもお互いの開きは把握してる。それでも挑んでくるのは、曲がりなりにもレオパルさんへの忠誠心からか。
ならば、私もその気持ちに応えよう。なんだか予想外の試練が出てきたけど、引けない理由があるのは私だって同じだ。
そんなわけで、腰を落として魔剣を構えて――
【ちょぉ待てぇ!? なんでウチのマイスイートキャッツが前線に出とるんや!? 怪我したら大変やないかい!?】
「あっ、レオパルさんの声だ」
【またさっきの箱みたいなのがあるな。こっちの様子も把握できてるらしい】
――準備をしてたら、周囲に響き渡るレオパルさんの特徴的な口調の声。口調だけで一発理解できるってなんだか便利。
ただ、どこか焦ったり怒ったりしてる感じも聞き取れる。姿は見えないままだけど、どこかで身悶えしてそうだ。
【おい、コラ! マイスイートキャッツは戦力に換算すんなて言うとるやろ!? なんでミラリアちゃんの相手しに出てきとんねん!?】
「ああ、いや……この三人がレオパル船長のためにどうしてもって言うもんでアリンして……」
【そういうのは気持ちだけでええねん! ウチはマイスイートキャッツに傷ついてほしゅうない! 幹部のお前が止めへんでどないすんねん!?】
「そ、そうは言いますがレオパル様! お、俺だってあなたと過ごした熱い夜を思うと、どうしても……!」
【気持ちは嬉しい! せやけど、ミラリアちゃんが並々ならへん強敵なんは知っとるやろ!? ああ、もう! 面倒なことになってもうたでぇえ!?】
どうにも、レオパルさんとしては元Aランクパーティーに傷ついてほしくないみたい。それだけ三人のことが大事ってことなのだろう。
わざわざ専用の船まで用意してたぐらいだし、スペリアス様にとっての私やツギル兄ちゃんに近いのかも。微妙に違う気もするけど。
――元リーダーさんが頬を赤らめて語ってた内容については流しておく。多分、こっちも穢れそうな内容だ。
【なんや、せっかくの喧嘩祭りがグダグダやないかい! こないなったら……トラキロォオ! トラキロォォオオ!! まずはマイスイートキャッツを安全に退避やでぇぇええ!!】
「……へェい」
ガシャンッ!
「なっ!? 鉄格子が!?」
「こ、これじゃ、私らが戦えない……!?」
「レ、レオパル様~! ちょっと残念だし~!」
「……あれ? これ、俺も動けなくなったでアリンスか?」
はたしてここからどうするつもりか分かんなくなってると、レオパルさんの嘆願の叫びと共に突如鉄格子が下りてくる。
それにより、現なんとかキャッツの三人組は実質閉じ込められた形。ついでにアリンスな幹部も。
とりあえずはこれで戦う必要もなくなった。レオパルさんの願いでもあるし、私もこれでいいと思う。
【トラキロォ! 後はお前で締めくくれや! グダグダな幕切れなんざ、ウチは望まへんでぇええ!!】
「分かりましたから、残りのことは任せてくだせェ。……にしても、なんだかんだでミラリアちゃんはここまで辿り着いたかァ。まったくタフに成長したもんだぜェ」
「タフさをトラキロさんに褒められてもコメントしづらい」
【やっぱり追いついてきたか……】
そして、こんな真似をしたのはレオパルさんの命令で動いたトラキロさんだ。ツギル兄ちゃん同様にそんな気はしてたけど、本当にあの鉄球振り子を食らってここまで追いついてきちゃった。
タフさだけなら魔王も超える。レパス王子やカーダイスさんとは別ベクトルでとんでもない。
鉄格子を下ろしたレバーから手を放し、まだまだ大丈夫そうに歩み寄ってくる。
「こんなことなら、事前に喧嘩祭りの予行練習ぐらいしておくべきだったかァ。ぶっつけ本番はキツいなァ」
「そうしておけば、トラキロさんが変な巻き添えを食らうこともなかったと思う」
【お前達って、真面目にやろうとすると失敗する呪いでもかかってるのか? なんでここまで空回りできるんだよ……】
「反論の余地もねェよォ。……とはいえ、ここで一度仕切り直しだァ。レオパル船長も言ってた通り、後はオレ一人で請け負うぜェ」
色々と言いたいことはまだまだあるけど、ここからはトラキロさん一人だけが立ち塞がって来ることだけは理解した。
もうそこだけ理解できればいいだろう。トラキロさんもまだ戦えそうだし、なんだかんだで一番強い。最後の壁としては相応しい。
――あそこまで悲惨な空回りに巻き込まれて、どうしてまだ動けるのかはツッコまないでおく。もう疲れた。
「ちょいと場所変えるかァ。オレについてきてくれェ」
「それがいい。私も変な気分だし、最後ぐらいはキチンと戦いたい」
グダグダにはなっても、これがレオパルさんへ至る最後の試練だ。最後ぐらいはキリッとシャキッと決めたい。
場所にしたって、鉄格子の向こうでギャーギャー騒がれる場所は嫌。以前のレオパルさんが用意した船の底みたく、もっと相応しい場所を――
「先に飯にするぜェ。オレも変に疲れて一息入れてェし、気持ちも切り替えてェしよォ」
「……トラキロさん?」
【……多分、相当疲れてるんだ。今は何も問い詰めてやるな】
TA! TA! KA! E!




