◇ロード岩流島喧嘩祭りⅡ
今度はフレンドリファイアされる側なトラキロ。
運が悪かったんだよ、このサイボーグは。
「……あの人達、何やってるの?」
【どうにも、攻撃が全部トラキロに向いてたみたいだな。……まあ、確かに物陰のミラリアを狙おうとすれば、必然的にトラキロが射線に入るか】
物陰から動けずに万事休すと思ってると、ロードレオによる謎の同士討ちが発生。ただ、ツギル兄ちゃんの言う通り角度が悪かったっぽい。
おかげでこっちは無傷。トラキロさんだけが大ダメージを受け、一人プスプスと煙を出して倒れ込んでる。
「ゲホゲホッ! 馬鹿野郎どもがァ!? こういう時こそ、タイミングが大事だろがァ!?」
「そ、そうは言うでヤンスが……トラキロ副船長の位置取りだってマズいでヤンス……。後、あんたなら『多少は巻き添えにしても大丈夫だろ。サイボーグだし』とも思ったものでヤンして……」
「だからって、全弾オレに誤射するかァ!? そもそも、その考え方自体がおかしいだろがァ! 焦ってんのかァア!?」
これにはトラキロさんもプンプン。煙に包まれながらも起き上がり、部下達に怒号を飛ばすのはもっともだ。
最初に私へ見せた気合はどこへやら。空回りしてると言わざるを得ない。
「……でも、これはチャンス! お先に御免!」
「し、しまったァ!? ミラリアちゃんが先に行っちまうぞォ!?」
「そ、そうはいかないでヤンス! 総員! もう一度アホ毛剣客を狙うでヤンス!」
ドガガガガァァアンッ!!
「あだだだァァア!? だからオレを巻き込むなっつってんだろがァ!? 攻撃やめろォォオ!?」
とはいえ、千載一遇のチャンスとはまさにこのこと。物陰から素早く飛び出し、前方のヤンスな幹部さんを飛び越えようと駆け抜ける。
こっちの狙いは最奥にいるレオパルさんまで辿り着くこと。全員を倒す必要はない。
もちろん再度狙われるけど、一度緩んだ攻撃なら掻い潜る隙は十分。縮地で回避できる。
――後、あえてトラキロさんと同じ射線に入るように動いてみた。あの人の追走も避けたいし、狙い通り私の回避した攻撃に巻き込まれてくれる。
「トラキロさんって、頑丈だけど回避は苦手みたい。避けなくても耐えられるからか」
【部下も理解してるんだろうが、悪い方向に働いてるみたいだな……。トラキロがかわいそうにも思えるが、構ってる時間も惜しい。このまま先へ進むぞ!】
トラキロさんの頑丈さが変な形で仇となり、味方からも巻き添えを食らう始末。とはいえ、戦いにかわいそうも何もない。
剣だろうがガトリングガンだろうが、攻撃を向ければそこは命を削って測り合う世界。まあ死にはしないだろうし、先へ進むことを優先しよう。
――とりあえず、ラッキーだったとは思う。
■
「一難去ってまた一難……!」
【流石にさっきみたいなので終わりじゃないか……!】
ライフルと大砲にトラキロさんのガトリングガンを抜け、弧を描くような通路を駆け抜けた先まで辿り着いた。
途中でもロードレオの攻撃は加わって来たけど、狭い通路だとライフルみたいな武器は悪手みたい。こっちの居合で先手を取り、有利のままに進むことができた。
ただ、この先はまたしても難所。眼前の光景は前にしては、一度立ち止まるしかない。
ビュゥウンッ! ビュゥウンッ!
「な、何これ……!? 大きな振り子……!? たくさんビュンビュン振られてて、当たったら下に真っ逆さま……!?」
「驚いたでゴンスか! ここはロード岩流島名物『鉄球ハンマー振り子の間』でゴンス! いくつもの巨大鉄球が振り子のように飛び交い、当たれば頑丈鉄板床へ転落! ここを抜けない限り、レオパル船長のもとへは辿り着けないでゴンス!」
まさに行く手を遮る鉄球の乱舞。離れた安全な高台から、今度はゴンスな幹部が語りかけてくる。
室内の端ではロードレオの下っ端が絶えず鉄球を押して飛ばしており、ロープで結ばれたそれらが振り子となって暴威を放ってる。
足場は細くて、転落すれば固そうな床へ叩きつけられるおまけつき。転移魔法で抜けようにも先の確認が難しい配置となってる。
これはなんとも考えられたものだ。行く手を遮るには好都合。
――でも、こういうのは決まった場所でしか使えないよね。何だったら壁でも作った方がいいとは思うけど。
「ロードレオによる試練の恐ろしさ、理解したでゴンスか? これこそがロード岩流島喧嘩祭りでゴンス!」
「……成程。これもあくまで私を試すためってことか。だったら望ませてもらう。私の身のこなしを甘く見ないで……!」
とはいえ、完全に塞いで私が辿り着けなくては意味がない。これはあくまでロードレオの挑戦状だ。
この巨大鉄球による振り子に細い足場も、いわば『権利を手にする道の厳しさ』を表現してると言えよう。
ならば挑ませてもらうのみ。振り子の動きを見極め、タイミングを見計ることができれば――
ギュイィィィ――ドッガァァアン!!
「ミラリアちゃんよォオ! 追いついたぜェエ! 右腕を換装すれば、ショートカットだってできんだよォォオ!!」
「ふえっ!? ト、トラキロさん!? もうここまで!?」
【本当にタフさだけは折り紙付きだな!? おまけにあの右腕は、以前に見せたドリルか!?】
――などと考えて駆ける準備をしてると、轟音を立てて貫かれる壁。そこから姿を見せるのは、右腕をドリルへ変更したトラキロさんだ。
ここに至るまで、道は弧を描くように続いてた。だからトラキロさんはドリルを使い、一直線に繋がる道を作ってここまで来たみたい。
少し前に味方の攻撃で黒焦げだったのに、よくぞここまで追いついたものだ。敵ながらアッパレと言えよう。
――ただ、出てきたその位置はマズいかも。
「ト、トラキロ副船長!? そこにいたらマズいでゴンスよ!?」
「あァ? マズいって何が――」
バッコォォオンッ!!
「ピンボォォオル!?」
だって、振り子の鉄球がまともにぶつかる位置だもん。
えっと……あの……トラキロさん?




