箱舟を求めし少女は、海賊の本拠地へ
新章「ロードレオ海賊団決戦編」
ポートファイブから始まり、ついにここまでやって来た。
イルフの里で情報を手に入れて、本物の箱舟がある場所は分かった。そこを目指し、再びゼロラージャさんの背中に乗って空の旅。
かなりの距離があるけど、ドラゴンの姿をしたゼロラージャさんなら辿り着く分には問題ない。乗り心地にも慣れてきたし、実に快適な旅路と言えよう。
「……にしても、嫌な予感しかしない。ロード岩流島って、ロードレオ海賊団の気配がビンビン」
【よりにもよって、このタイミングであいつらの影なんて……。なんでこんなところにまで出てくるんだよ……】
ただ、目指すべ場所に思うところは多々ある。イルフ人の長老様も同じように思ってたらしいけど、名前に『ロード』って入るところからロードレオ海賊団の関与を疑わずにはいられない。
箱舟は博士さんが生きてたカラクリの時代に作られたってことからも濃厚。むしろ、一度考え出すとそうとしか思えない。
「我は人世の組織には疎い。そのロードレオ海賊団なる者達は、魔王軍よりも恐ろしいと申すか?」
「……下手すれば。恐ろしさだけで考えれば、多分向こうが上」
「長は魔王の我以上とでも?」
「……船長のレオパルさんの方が恐ろしい。ゼロラージャさんとは方向性が違うけど」
「……我も地味に傷つくぞ。王と言えども、魔物を統べし魔王ぞ。それ以上に恐ろしい人間など、本当に人間であるか?」
「……多分」
正直、私の中では魔王軍よりロードレオ海賊団の方が怖い。怖いというかヤバい。
純粋な能力もサイボーグといったカラクリのおかげで確かに高いんだけど、流石にゼロラージャさんを含む魔王軍よりは下。強さだけ見れば。
――何より恐ろしいのは船長レオパルさんの変態性。あれの前ではどんな強さも霞んで見える。
【ま、まあ、戦いになったら流石にこっちが勝てるだろう。連中が箱舟への道のりを邪魔するなら、それこそ蹴散らして――】
「今からその考えは良くない。ロードレオ海賊団だって、一応はお話の出来る相手。話し合いで解決を目指すのが最優先。……実際にできるかは別として」
「何やら、ミラリアの様子も普段らしからぬぞ。とはいえ、ウヌがそういう方針なら我も従おう。我では与り知らぬ未知の人間故な」
とりあえず、方針としてはこれまでと同じで。今回は完全にこっちがお邪魔する側だし、いきなりの粗相はダメ。ツギル兄ちゃんがそうしたくなる気持ちも分かるけど。
サイボーグだって人間の枠組み。ゼロラージャさんも同意してくれるし、まずはお話から始めて歩み寄ろう。できる自信がないけど。
――着く前からこんなので大丈夫かな? 相手が相手だけに不安が頂点。
「……見えてきたぞ。あの島こそ、イルフの長も語っていたロード岩流島ぞ」
「まん丸としたドーム状の建物が真ん中に……。浮島に似てる」
【あの形からしても、古代の人間との関与は強そうだ。……これでロードレオ海賊団までいたら本当にお約束か】
結構な時間お空を飛んだけど、目的となるロード岩流島も見えてきた。島自体は普通だけど、中央の建物からはエデン文明の気配がプンプン。
ゼロラージャさんも高度を落として着地に入り、さらなる全容も見えてくる。何やら、海岸にたくさんの船が集まってるのも見える。
その帆に目を向ければ、変に印象深くなってしまった眼帯猫さんのバッテンマーク。もうこれだけで脳裏にあのどうしようもない変態の顔が浮かんでくる。
そして、実際に着地してみれば――
「ッ!? お、お前は!? もう何度目かも覚えてない剣客小娘でヤンスか!?」
「さ、さっき、ドラゴンに乗って――って、仮面の大男しかいないでゴンス?」
「い、いきなり何でアリンスか!? どうやってここまで来たのかも含めて、意味が分からないでアリンス!」
「……ハァ。やっぱりいた」
【ため息をつくな。余計に気疲れする】
――完全に予想通りの展開。これがツギル兄ちゃんの言ってたお約束というものか。どうしてもため息が漏れちゃう。
大勢の下っ端ロードレオメンバーの先陣で声を飛ばすのは、もはや見知った変な語尾幹部トリオ。向こうも当然私のことは一発で見抜き、警戒するようにライフルを構えてくる。
ゼロラージャさんがドラゴンから人型に戻ったことで動揺もしてるけど、この辺りの動きは的確か。
「久しぶり。警戒してるけど、今日はお話のためにここへ来た。正直、ロードレオ海賊団は目当てじゃない」
「いきなり現れて、随分な言いようでヤンスね!」
「ここはロードレオ海賊団が本拠地、ロード岩流島! それを知っての狼藉でゴンスか!?」
「お前が出てくると、いつもロクなことがないでアリンス! 人様の敷地へ勝手に土足で入るなでアリンス!」
「……靴、脱いだ方がいい?」
【そういう意味じゃない。思考が逃げようとしてないか?】
ただ、最初の一手はまず話し合い。確かにいきなり勝手は無礼だけど、こっちだって事情が事情だ。
ついつい靴を脱いで変にやり過ごそうとしちゃうけど、やり過ごしては意味がない。ここに眠る目的のものを手にしないと、はるばる辿り着いた意味がない。
「レオパルさんやトラキロさんはいないの? あなた達では話を聞いてもらうのに不十分。ここはロードレオ海賊団でもトップクラスで――」
「だったら、オレの出番ってェことかァ。騒ぎを聞きつけて来てみれば、下っ端じゃァどうにもならねェのは確かかァ。……テメェら、焦んなよォ。武器も下ろせェ」
こっちも警戒するからか、ついつい高圧的な口調になっちゃう。いけないとはいえ、後方からさらに警戒すべき相手だって出てきてしまう。
グラサンにほぼ半裸のパワフルルック。普通に見えるその肉体には、サイボーグとしての挑戦力が詰め込まれた人。
アホ毛にもピリピリプレッシャーだけど、この人クラスが出てこないと話が進まないのも事実。こっちとしても都合がいい。
「わざわざミラリアちゃんから出向いてくれるとはなァ。それだけ焦るような話でも持ってきたかァ?」
「久しぶり、副船長のトラキロさん。スーサイドからも無事逃げ出せたようで何より」
やはり登場! トランキーロ! あっせんなよ!




