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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
始まりの村と追及の王国
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その少女、聖域で考える

ツギル兄ちゃんタクシーにより、ミラリアが一人で考えるために選んだ場所。

「着いた。ここはいつ来ても静か」


 ツギル兄ちゃんの転移魔法で送ってもらったのは、村の奥地にある洞窟の中。ここは出入口とかないから、転移魔法が使える人じゃないと案内できない。

 そんなに広くはないけど、私の眼前にはあるものがある。かなり古そうなお社だ。

 このお社はエスカぺ村でも重要な場所とされていて、巫女さんもよく手入れのために立ち寄っている。


 ――そして何より、私はこの場所でスペリアス様に拾われた。


「ここの境内に赤ん坊の私がいたって聞いた。捨てられたにしても、奇妙なところに捨ててくれたものだ」


 だからここは私にとって、ある意味で生まれ故郷。といっても、全部スペリアス様から聞かされた話だけど。

 本当の両親の顔なんて知らない。本当はどこで生まれたのかも知らない。

 私の世界はこの村にしかない。だからなのか、本で読んだ外の世界を余計に知りたくもなる。

 別に私の本当の両親を探したいとかじゃない。本当の生まれを明白にしたいとかではない。


 ――家族についてはスペリアス様とツギル兄ちゃんがいる。喧嘩はしても、ずっと一緒に育ったことが大事。今更本当の親なんて興味もない。


「でも、この場所自体は落ち着く。御神刀もここに祀られてたし、とっても不思議な場所」


 腰に携えていた御神刀を抜き、軽く素振りしてみる。洞窟内に反響する空気を裂く音が、独特なメロディーとなって響き渡る。

 元々はお社で祀られていた剣だけに、相性みたいなものがあるのだろう。多分。


 お社のことは巫女さんも『エスカぺ村でも最も神聖で大事な場所』と述べ、御神刀については鍛冶屋さんが『エスカぺ村の将来を祈って鍛え上げた』と言ってた。

 お社と御神刀、ここで拾われた私。全部この洞窟内で関係性がある。このことには何か意味があるのだろうか?


 スペリアス様も私に御神刀を託す時に『これを正しく使えるようになることが終着点』って話してた。

 その話を思い出すと、まだ私が外の世界へ出ることが許されてないのは『正しく使いこなせてない』ということだろうか?

 個人的には使えてるつもりでも、スペリアス様の基準が分からない。


「……でも、私は大人にならないといけない。今はみんなの話を聞いて、スペリアス様も納得できるだけの剣術を身に着ける」


 それでもこの場所に来ると、落ち着いて物事を考え直すことができた。

 きっと外の世界というのは、村を結界で守らないといけないほど恐ろしい世界なのだ。御神刀を使っても結界に打ち負ける私では、まだまだ未熟ということだろう。

 ある意味、あの結界を打ち破れれば私は一人前ということか。それだけの腕前になるまでは、スペリアス様の言葉に従おう。


 ――私一人で旅できるかの許可はまた別としても。


「……よし。答え、決まった。ツギル兄ちゃん、迎えに来てくれないかな?」


 意外と早く気持ちもまとまり、かえって迎えを待つ時間ができてしまった。私だけではこの洞窟から抜けられないので、転移魔法が使えるツギル兄ちゃんを待つしかない。

 こんなことなら、せめて転移魔法だけでも習得しておくべきだった。もっとも、私は魔法の才能が絶望的である。

 どこにいった、私の魔法センス。もしもお社のあたりに隠れてるなら、恥ずかしがらずに出てきてほしい。



 ガゴォ ガゴォ



「……物音? 何かいる?」


 そうやって冗談半分にお社の周りをグルグルしてると、奇妙な音が洞窟内に響き渡る。

 まるで岩石が転がるようだけど、近いだけで全然違う。むしろ、人が石でできた靴でも履いて歩いてるって感じの音。

 お社の裏手から聞こえるけど、私以外の誰かが来てて――




「グオォォォオ!!」

「ッ!? な、何これ? 石でできた……巨大な人……?」




 ――と思ったけど、私も知らない人がそこに立ってた。

 エスカぺ村の人ならば私は全員知ってる。全身が石でできた3mぐらいの大きな人なんていない。この人はエスカぺ村の人じゃない。


「教えてほしい。あなたは誰? どうしてここにいるの?」

「グオォ! オオオォ!」

「……人の質問に答えない。それはいけないこと。喚きながら私に襲い掛かる。これも乱暴的でいけない」


 この人が誰なのかは分からない。まるでこっちの言葉も通用しない。

 質問に答えるどころか、その大きな手で私を掴もうと襲い掛かってくる。

 もしかして、魔物か何かだろうか? どっちにしても、この場所にいる理由は分からないけど。


 ――でも、身の危険が出た以上は戦うしかない。凄く大きな相手だけど、私に負ける気などない。


「パワーはあるみたい。だけど、動き自体は遅い。私を捕えることなんてできない」


 幸い、この洞窟自体は結構広い。お社に被害が及ばないように距離をとり、岩石巨人(とりあえず命名)を誘導する。

 狙いは完全に私。こっちが逃げれば短絡的に追ってくる。でも遅い。

 こっちは普段からツギル兄ちゃんとの追いかけっこで鍛えてる。そんな蚊が止まるような動きでは、私のスピードにはついてこれない。


「グオオオォ!!」

「諦める様子はない。だったら、痛い思いをしてもらう。先に手を出したのはそっち。覚悟してほしい」


 とはいえ、このまま暴れられたら洞窟が崩れるかも。そうなったらお社も私もペシャンコだ。

 見た感じ体は全部石みたいだし、それなら私の居合で両断できる。

 岩石巨人が何者かは知らないけど、まずはお豆腐のようにスライスして――


「ガグオォォオオ!!」



 キィィィイ



「ッ!? これ、魔法陣!? それにこの術式って、まさか……!?」


 ――そう考えてたら、岩石巨人の思わぬアクション。パワー馬鹿だと思ってたのに、魔法まで使えるなんて予想外。

 私と岩石巨人を含む一帯に展開されてるけど、別に攻撃魔法とかじゃない。魔法の種類に関しては、ツギル兄ちゃんのものを見て覚えてる。

 ただ、問題はどうしてこの魔法陣を展開したのかだ。とりあえず、岩石巨人がここにいる理由には納得もできた。




 ――こいつが使うのは転移魔法。ツギル兄ちゃんと同じものだ。

舞台は何処かへ。

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