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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
遥かなる記憶を託す島
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◆追憶影スペリアスⅡ

ミラリアの完全敗北。

そもそも、戦うことすらできはしない。

「……何を申すかと思えば。おぬしはエステナに挑むのではないのか? ワシを超える意味が分からぬか?」

「挑む! エステナは倒す! あなたを超える意味だって理解してる! でも……できない! 全部理解しててもできない! う、うああぁぁぁ!!」


 そもそも、刀を抜く時点で迷いがこみ上げてばかりでいた。切っ先が確かな剣閃を描ける気配すらない。

 どれだけ頭で理解したとしても、本能が押し止めてくる。魔剣の有無に関わらず、まともに戦えるはずすらなかった。


 ――私には幻影のスペリアス様でさえも斬れない。


「スペリアス様ぁ……! わ、私……今でもあなたのことをお母さんだと思ってる……! 偽物でも、姿だけでも……あなたを斬ることなんてできるはずない! 大切なお母さんの姿に……刃を向けるなんてこと……!」

「……そうか。それがおぬしの答えなのじゃな。ワシも所詮は人々の歴史と記憶を蓄えたメモリーに過ぎない。人のように進化することもできなければ、人の心を理解するにも不十分じゃったか」


 この勝負は完全に私の負け。稽古とか以前に戦うことさえ無理。

 どれだけ意気込もうと、スペリアス様の姿が私の心も動きも食い止める。幻影だろうと関係なく、しがみついて泣きじゃぐることしかできない。


 私はずっと、スペリアス様にこうしたかった。昔みたいに叱られても、あの懐かしい記憶の中のように触れたい。甘えたい。

 結局、私って弱いままだ。魔剣があっても結果は同じだったろうし、これではエステナに挑めるはずもない。

 それでも『挑まなきゃ』って気持ちが消えることもない。心の中はグチャグチャだ。




「……安心せよ、ミラリア。形は違ったが、おぬしは確かに大切なものを手にしておると理解できた。もはや、ワシが余計な手を加える必要もないほどにのう」

「ス、スペリアス……様……?」




 せっかく理刀流を教えてくれるはずだったのに、その期待さえ打ち砕いた結末。なのに、偽物のスペリアス様は満足そうに声を零してくる。

 手に持ってた二刀を消し、私の頭をアホ毛ごとクシャクシャ撫でてくれる。本物のスペリアス様とは手つきが違うけど、感じられる優しさは近い。

 ガッカリさせちゃったはずなのに、どうしてこんな優しくしてくれるの? 私、この人の期待を裏切ったよね?


「理刀流を追求することは、確かにエステナへ対抗する力にもなろう。じゃが、ただ求めるだけでは楽園の歴史と変わらぬ。……おぬしには紛れもない『人の心』がある。『母を超えなきゃいけない』と『母を斬りたくない』という、一見矛盾した感情。じゃが、人間とは本来そういうものじゃ。葛藤の中で苦しみ、先にある必要な選択を追い求める。……これがおぬしの選択ならば、責めることなどありはしない」

「葛藤……選択……。それが……人間」


 思い返せば、旅の中でもそういったことはあった。フューティ姉ちゃんを助け出そうとしたことや、魔王軍との戦いに身を置いたことなど。

 後悔の果ての葛藤。それらの経験を踏まえた選択。これまでとはまた違うけど、理解しても違う選択をするのだって人間。


 ――理解さえ超えた(ことわり)こそ、人間の姿なんだって聞こえる。


「これからおぬしが挑むのは、人を捨てた人が創りし歪んだ神じゃ。それに対抗できるのは、純粋な人間をおいてほかならぬのじゃろう。おぬしが魔法を不得手とするのも、ゲンソウという濁りのない『誰よりも純粋な原初の人間』を示しているのかもしれん。……仮説じゃが、そう信じたくもなる」

「私はいわば、本体のエステナに捨てられたもう一人のエステナ。なのにエステナに対抗できるなんて不思議。……理刀流のさらなる境地には辿り着けなかったけど、あなたのおかげで勇気をもらえた。ありがとう」

「勇気……か。それこそが技より必要なものでもあるのじゃろう。人としての心こそ、人の創り出した歪んだ(ことわり)を打ち砕けるとワシも信じておる」


 結局、技については習得できずじまい。でも、自分の気持ちも含めた人間の感情を学べた気がする。

 私の旅は学びの旅だった。そして、学びは進化へと繋がる。

 過度の苦痛によって進化したエステナへ対抗するには、何より私も進化することが大事。


 ――人間として神へ挑む。心構えは整った。


「となれば、ワシが後伝えるべきは楽園へ辿り着く方法か」

「それも大事。ゼロラージャさんの話だと、楽園は守りの力で簡単には近づけない。それも乗り越えられる方法ってある?」

「あるとも。ゲンソウを開発した博士も、そのためのとっておきを世界へ保管しておいてくれた。ただ、長き時の流れどころか、世界はゲンソウで地殻さえ変動しておる。正確な場所はワシでさえ掴めぬ」

「むう……それは困った。でも、ヒントにはなるかも。分かることを教えてほしい」


 もう一つ必要なのは、楽園へ辿り着くための手段。守りを固められているならば、最初みたいに泳いで歩いてとはいかない。

 ゼロラージャさんが飛んでいくだけでも無理みたいだし、ここでも博士さんの残した力が頼りになる。

 ただ、偽物のスペリアス様にもこっちは把握できてない部分があるみたい。とはいえ、世界のどこかにあるならそれでいい。

 ものが何かだけでも分かれば探すこともできる。




「ここで語ってもよいが、おぬしには心強い仲間もおるのじゃろう。ならば、ワシもその者達のもとへ向かって説明しよう。この戦いについても、是非最後まで記録したい」

「ふえ? それって、外に出るってこと? でも、あなたは外に出れな――あうぅ!?」




 教えてはくれるみたいだけど、ここじゃなくて外でしたいみたい。だけど、この人って外に出れるのかな?

 今の私って、リアルな夢を見てるような状態。偽物のスペリアス様はその夢の登場人物で、現実に形は持ってないはず。

 そう思ってると、暗かった周囲が眩い光で包まれる。感覚で理解できるけど、これってこの夢が終わりを告げてるんだ。




 ――今から現実へ戻るけど、この人はどうやって現実に顕在するつもりだろう?

偽スペリアス様、何をどうするつもりよ?

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