◆追憶影スペリアス
VS 追憶影スペリアス
本物ではなく、あくまでメモリーが生んだ偽物。理刀流の先を見せるための番人。
まどろみの中で衝突するのは、姿だけならば親と子同士。
これまでの淡々とした説明口調と違い、スペリアス様も気合がこもったような声を上げてくる。
ただ、この人は命ある自我とかじゃない。姿も含めて、世界や私の記憶に眠る幻影でしかない。
今だって『私に理刀流を教え込む』って目的のためだけに動いてる。振りかざされた二刀は、無情のままに襲い掛かって来る。
ガキィィインッ!
「くっ……!?」
「ほう。魔剣でなくとも耐えるか。技については純粋におぬしの体に刻まれておるようじゃのう。安心したわい」
咄嗟に腰の刀を使って鞘によるガード。二刀を私の頭上で食い止め、お互いに顔を見合わせ言葉も交わす。
ここに魔剣という生きた刀は持ち込めない。持ってるのはスペリアス様の形見である刀だけ。
確かに純粋な技量なら、魔剣でなくても私の力で発揮できる。でも、全力には程遠い。
――クンッ! ボォウン!
「ほれ、呆けてばかりもいられんぞ? ワシも稽古をつける以上、おぬしへ全力で叩き込まねばな。どれだけ荒々しい稽古になったとしてもじゃ」
「円の動き!? 捌き技!? 火炎魔法まで纏わせて!?」
ただ、魔法が絡むと話は別。私個人は魔法が使えない。
これまでの理刀流にしても、ツギル兄ちゃんという魔剣があってこそ成立したもの。魔剣なしでは理刀流に限度が見える。
対して、偽物のスペリアス様は魔法まで使える。しかも私では使えない二刀流スタイルも含めてだ。
「押されるばかりか? 外の世界では通用したのかもしれぬが、これからおぬしが相手にするのはエステナ――楽園を創りし神じゃ。この程度のことで敵うはずもなかろう?」
「くぅ……!?」
二刀流自体の動きも実に鮮やか。かつて少しだけ見たスアリさんのもの同様、流れるような剣捌きで舞いながらも隙がない。
攻撃が次から次へ流れてくるから、必死に回避と防御に徹し続けるしかない。それでもどんどんと後方へ押されてしまう。
回避には縮地が使える。ガードだけならいつも鞘でやってるから魔剣でなくても問題ない。ただ、できることはそこまで。
居合による魔法発動なんてできない。攻撃に関しては手数が大幅に限られる。
そんなことは関係なしに、スペリアス様の二刀は猛攻を続けてくる。
――このままじゃダメなのだけは事実。魔剣なしでもやれる限りやるしかない。
クンッ――キィインッ!
「ようやく抜刀したか。居合の太刀筋は見事なものじゃな。……とはいえ、攻め手が単調じゃ。一刀しかないとはいえ、もう少し考えてもらわんとのう」
ザシュンッ!
「あぐぅ!? き、斬られた……!?」
思い切って反撃の居合一閃。だけど、スペリアス様はすぐさま左手の刀でガードしてくる。
それどころか、ガードに意識が向いた隙を突いて右手の刀による一閃。間合いを考え、逆手に持ち替える動きまで見せてくる。
魔法の有無による差だけでなく、技量に関しても向こうが上。魔剣がないと、私はここまでダメダメなのか。
「ハァ、ハァ……! それが二刀による理刀流……! 理刀流の本当の真髄……!?」
「息を切らすのも早くはないか? この空間は現実と空想の狭間にある。諦めぬ限り、限界が訪れることなど……ない!」
思わず距離を置き、本能的に息を切らしてしまう圧迫感。それにも構わず、スペリアス様は縮地で距離を縮めてくる。
力の差は歴然で、向こうは私より技が一段階も二段階も上。同じ流派の剣術を扱うとなれば、純粋な技量が勝負を分ける。
――いや、それ以上の理由が私を追い詰める理由にある。
「何をしておる? さっきの居合で打ち止めか? ワシを超えられなくば、エステナなど夢のまた夢ぞ?」
「ス、スペリアス様を……超えて……!」
相手の姿はスペリアス様そのもの。もちろん、あくまで見た目を『スペリアス様の姿で代用してる』ってことは理解してる。
理解した上でも、どうしても脳裏から離れない。こうして向かい合ってると、スペリアス様と修行してる錯覚さえ起こす。
――それどころか、さっきの光景も含めて蘇る懐かしい思い出。それらが私の動きを鈍らせる。
「さあ、超えるのじゃ! この姿はただの幻影! 追憶から取り出したる影! そんな影さえ斬れぬならば、真に斬るべき相手には何も届かぬ!」
お互いに理解してる。理刀流ってのは、過去のゲンソウを――欲深き願望を斬り砕くために作られた、新たなるゲンソウ。
お母さんという絶対的な壁を超えられないなら、エステナだって超えられるはずがない。そんなことはもう何度も頭の中に浮かべ、遮る鎖を断ち切ろうともしてる。
私は本物のスペリアス様から託された。楽園もエステナも食い止めて、私も愛するこの世界を守ってほしいって。
眼前で挑むのはただの影。どれだけ姿を似せても偽物なことは、本人だって語ってる通り。
――だから、本当なら迷う必要なんてない。
クンッ――ガシィ!!
「むっ!? 縮地で踏み込んで――いや、居合すら放たぬだと? おぬし、何をしておるのじゃ?」
だけど、私にはどうしてもできない。せっかく隙を突いて縮地で懐まで入れたはずなのに、腰の刀には手すら触れさせてない。
代わりに触れるのは、眼前で二刀をかざした偽物のスペリアス様。隙を突いて私がやったのは、その体へ両手でしがみつくことのみ。
――もうダメだ。勝つとか負ける以前の話だ。
「お願い! もう止めて! たとえ幻影だとしても……私にスペリアス様を……お母さんを斬らせないでぇぇええ!!」
これまで多くを斬り伏せたミラリアにも、斬れないものは存在する。




