今に至るメモリーは、神を打倒する可能性の期待へ
「これまで」の話は終わった。
そして「これから」の話が必要となる。
「記録された映像はここまでじゃな。最後については、おぬしもおおよそ予想していた通りじゃろう」
「やっぱり、エステナは人間を恨んでる。それも、楽園の人間だけじゃない。世界そのものを……」
最後に見聞きしたのは、エステナ自身の怨嗟の声。スペリアス様も言ってた通りだ。
エステナに人間の区分はできてないのかもしれない。苦痛の中で歪んだ進化の影響かもしれない。
楽園の内外に関係なく、人間全てを敵とするような発言だった。いや、もっと大きな範囲を指し示してたのかも。
――エステナの狙いは楽園どころか世界そのもの。世界の全てを滅ぼすことこそ、覚醒した自我の望みだ。
「ゲンソウを開発した博士も『世界が滅ぶ可能性』こそ危惧したが、よもやそれを行おうとするのがエステナそのものとはな。あれは最早装置どころの騒ぎではない。完全な形となれば、人や世界に対する復讐に歪んだ破壊神じゃ」
「人の手で生まれたゲンソウが……あらゆる枠を超えた神様を作った……。人間は神様になれなかったのに……考えも何もなかった存在が神様に近づいてる……」
今のエステナはより完璧を求めて力を蓄えてる状態。外の世界で語られる神様へ、本当の意味で成り立とうとしてる。
創世装置エステナは、本当の意味で女神エステナへ。でも、それは『世界を守ってくれる神様』なんかじゃない。『世界を終わらせる神様』だ。
「どのような経緯であれ、おぬしは誰よりもエステナに近い存在じゃ。むしろ『もう一人のエステナ』と言っても過言ではない。気を悪くするかもしれんが、そんなおぬしじゃからこそここへ招き入れた」
「……うん、分かってる。私もエステナだからこそ、エステナを止められるのも私だけ。この事実を知った上で、私はあなたにさらに尋ねたい」
楽園の歴史もエステナの今も知ることができた。ここからは目的のため、必要なことを教えてもらいたい。
エステナを止めるため、話の中で気になった部分もあった。脅威を事前に察知して、対抗するための力は世界に眠ってる。
「博士さんは『ゲンソウを打ち砕くゲンソウ』や『楽園へ辿り着く手段』があるって言ってた。私はそれが知りたい。エスカぺ村のみんなの願いだけじゃない。この世界の未来のためにも、私はエステナを倒す。たとえ、私自身もエステナであっても」
「その言葉が偽りでないことは図るまでもないか。ただ、一つに関してはすでにおぬしも手にしておる。『ゲンソウを打ち砕くゲンソウ』の力じゃ」
「ふえ? 私、ゲンソウを打ち砕くなんて――あっ」
「心当たりはあるじゃろう? そう、理刀流の剣技じゃ。あれも時の流れで詳細は消えておるようじゃが、元々は博士の遺した技巧。おぬしの母も可能性そのものは見出しておったようじゃぞ」
楽園へ対抗できる力の一つは、よく考えると私も覚えのあるものだった。
スペリアス様から教わった理刀流。旅の中で昇華された今ならば、魔法の理さえ破壊できる。
魔法だって元はゲンソウから生まれたもの。まさにゲンソウを斬り砕ける力だ。
スペリアス様もそれに気づいたからこそ、私に理刀流を教え込んだのだろう。
「ただ、ワシに記録されておるのは先程まででのう。おぬしの理刀流については今どの程度のレベルかは分からぬのじゃ」
「旅の中でさらに成長はさせた。でも、これで足りるかは不安。あなたなら理刀流も教えられるの?」
「ああ、可能じゃ。理刀流については、形のあるものではない技術じゃ。ワシにもこの空間内でなら伝授はできよう」
「なら、教えてほしい。私はもっと強くなりたい。エステナを倒し、楽園を破壊するため。大好きなこの世界を守るため」
理刀流については、おそらくまだまだ発展途上。スペリアス様の授業やフューティ姉ちゃんにもらった書物だけでは不十分。
これだけ長い時間に期待を込めて残されてたんだ。きっと私の知らない先だってある。
何より、剣術はより高みを目指してこそ。強さと心を磨き続けることが大事だって、スペリアス様にも教わった。
「……よかろう。ならば、ワシが相手をして稽古としよう。この姿のまま、直接な。ここでなら技も最大限に振るえるじゃろうて」
「ふ、ふえ!? スペリアス様の姿で!? か、刀も取り出して――って!? し、しかも二刀流!?」
ただ、流石に待ってほしい話もある。これまで解説してくれた偽物のスペリアス様は、突然二本の刀を召喚して両手へ握ってくる。
その佇まいはどこかスアリさんが見せたものに近い。この人は博士さんの託したい気持ちそのものと言ってもいいから、理刀流に関しても二刀流に至るまで全て把握してるということか。
そんな人が稽古をつけてくれるのはありがたいけど、わざわざスペリアス様の姿でやらないでほしい。これではやりにくくて仕方ない。
――姿だけだとしても、私なんかがスペリアス様と渡り合える気がしない。
「ゲンソウの力とは『願望を実現する』ことにこそある。理刀流は『ゲンソウを超えるという願望』をもとに作られた剣技じゃ。それ即ち、どんな障壁も困難も――果ては本来の上下関係さえも超える。おぬしが『母には勝てない』という理も超えねば、理刀流の真の意味は成り立たぬ。……己の理をここで超えるためにも、この姿のワシを打ち倒す意味はある」
「私に……スペリアス様を超えてほしいってこと……?」
「左様じゃ。それぐらいの覚悟はできて当然。エステナを斬り伏せる理刀流とは、ワシを倒した先にこそある」
だけど、これで怖気てたら目指すべき願いには届かない。
エステナへ挑むことは神へ挑むということ。スペリアス様というお母さんよりさらに上。
偽物のスペリアス様もこちらの考えを読んだのか、忠告しながら二刀流の構えを続けてくる。
きっと、この人だって私に託したいはずなんだ。これまで長い時間、ずっと待ち望んでた機会でもある。
――今ここに、想いは一つへと重なってる。やりにくくても、無駄にすることはできない。
「ッ……! やる……! やってみせる……!」
今は魔剣のツギル兄ちゃんもいない。腰に携えてるのは、本物のスペリアス様から授かった刀だけ。
小細工なしで、純粋な技が求められる勝負。理刀流をさらに昇華させる土俵は出来上がってる。
――本気でスペリアス様を超える気持ちがないと、掴みたい未来は掴めない。
「……では、良いな? おぬしの心が生み出した障壁さえ超えてみせよ。ワシという幻さえ超えずして、神を超えることなどできぬと知れ! ミラリアァァアア!!」
本物ではない。ミラリアの記憶に眠る幻影。
最強の師匠にして、最愛の母。それが次なる障壁だ。




