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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
遥かなる記憶を託す島
391/503

そして少女は、追放された者達の未来へ

それこそ、この物語の主役の生い立ち。

 憤慨するように言葉を放つと、エステナ本体からセアレド・エゴ同様に黒い塊が解き放たれる。

 これもまた、エステナから零れ落ちた片鱗なのだろう。ただ、目的については大きく異なる点がある。


 ――今度はエステナが邪魔になった『世界を守る命令』を含んだものだ。


「ワシはこの地より、ずっとエステナを観察しておった。あの時分離した自我についても注視し、その動向を探っておった。エステナにとって最も重要と言えるプログラムを含んだ自我なら尚更じゃ」

「でもこの自我って……? セアレド・エゴの後ってことは……?」


 説明を受けながら映された自我の行方を追うと、私もよく知る地形が見えてくる。

 周囲を山々に囲まれ、深い森の中に作られた集落。遠目からでも懐かしさを感じるその場所へ、生み出された自我は落とされていく。



 シュゥゥウ



【ふえぇ……オギャァア! オギャァア!】

【な、何だ!? お社の中に赤ん坊が!?】

【しかも、闇の中から出てこなかったか!? こ、この赤ん坊はまさか……!?】

【エステナか!? セアレド・エゴと同じく、エステナが生み出したのか!?】

【こ、この触覚のような髪の毛は……!? もしや、エステナはさらに学習して人の姿まで……!?】


 最終的に辿り着いたのは、まさしく予想通りの場所。エスカぺ村にあるお社だ。

 懐かしいエスカぺ村のみんなは闇の中から姿を見せた赤ん坊を見て、大慌てした様子を見せてる。中には怯えてる人だっている。


 ――アホ毛を見ても間違いない。この赤ん坊こそが私だ。


【オギャァア! オギャァア!】

【ど、どうする……!? やっぱり、封印するべきなのか……!?】

【み、見た目は本当に赤ん坊だが、セアレド・エゴの前例がある以上――】

【おぬしら、待つのじゃ。……事情がどうあれ、赤子に聞かせる話でもないじゃろう】


 泣き喚く私へ、エスカぺ村のみんなが怯えるのも無理はない。セアレド・エゴと同じ存在が姿を見せれば、封印の話だって出てくる。

 そんなみんなを制して姿を見せるのは、銀髪をした綺麗な魔女。私が知る姿のままだし、みんなを従えるオーラからも間違いない。

 当時の本物のスペリアス様だ。


【ふ、ふえぇ……オギャァァア!】

【おお、よしよし。いきなり妙なことを口走られ、怖い思いをしたのじゃろう。どれ、赤子はこうやってあやせば良いのかのう?】

【ふ、ふえぇ……? キャッ! キャッ!】

【ハハハ! 明るく笑っておる! アホ毛まで元気に跳ねるものじゃ! エステナから生まれ出でようとも、本当に人間の赤子のようじゃ! ……決めたぞ。この子はワシが育てる】


 お社の前に現れた赤ん坊の私を、スペリアス様は優しく抱き上げてあやしてくれる。うろ覚えの知識ながらも愛情を持って接してくれてることが、その手つきからでも分かる。

 しかも村のみんなへ向き直りながら、私を育てると宣言。みんなも困惑しながら言葉を返していく。


【し、しかし、スペリアス様。その赤ん坊はエステナの……?】

【だから何じゃ? おぬしらは人間の姿をした赤子を、セアレド・エゴと同じように封印できると言うのか? ワシはできぬ。……何より、これは啓示かもしれん。エステナを今の姿へ変えたのは、楽園に住んでたワシらの罪じゃ。エステナから生まれた子を育てることも、贖罪の一つかもしれん。セアレド・エゴのようなことを続けたくもない】

【そ、そうかもしれませんが……我々にできるでしょうか? 単純に赤ん坊を育てること自体、経験どころかまともな知識も……】

【……それでも、ワシは育てたいのじゃ。イルフ人の賢者にも協力を求めよう。かの者達ならば、ワシらよりも生命に関する知識は豊富じゃ】


 反論が出てこようとも、スペリアス様の決意は固い。意地でも私を育てようという決意はみんなにも伝わり、手探りの中での子育てが始まっていく。

 そのために必要なこともみんなで用意し、イルフ人の賢者についてもエスカぺ村へと招集された。


 ――そこからの光景は流れるように素早くも、私の心に直接響くものばかり。


【この子の名はミラリアじゃ。そして、おぬしの名はツギル。今日からミラリアは妹で、ツギルはお兄ちゃんになるのじゃ】

【ミラリア、いもーと。ぼく、おにーちゃん】

【人間の子供をモデルとしたデプトロイドの肉体を用意しましたが、このツクモも生まれたばかりで幼いです。おそらく、まだ自分がツクモであることも理解してないかと……】

【……それでもよいのじゃ、エフェイルよ。母代わりのワシ一人より、兄という存在がいた方がミラリアも喜ぶじゃろう。何より、ツギルにもミラリアにも『人間の兄妹』として育ってほしいものじゃ】


 私にミラリアという名前が与えられ、ツギルというお兄ちゃんもエフェイルさんによって招かれた。

 それぞれ生い立ちに関係なく、あくまで『人間の兄妹』として育てられた。


【ツギルにはいざという時、オデがタタラエッジで鍛えた御神刀に宿ってもらうど。……そのことの説明も控えるど?】

【……今はまだ控えてくれ、ドワルフ。ミラリアとツギルに背負わせるには早過ぎるじゃろう】

【闇瘴については、私がイルフの巫女として浄化できます。私だって、この二人には平穏の中で生きてほしいですから】

【その気持ちは同感だど。できることならば、御神刀や理刀流の出番もない平和な時代が続いてくれれば……】


 ドワルフさんも含め、村のみんなは私やツギル兄ちゃんが背負ってるものを理解してた。でも、本気でそれを望んではいなかった。

 きっと、それは私とツギル兄ちゃんのことが大事だったからか。


【すーぺーしゃま。つーにーたん】

【おお、見よ! 皆の者よ! ついにミラリアが一人で立ち上がったぞ! 今にも歩きそうじゃ!】

【や、やった! 頑張れ! ミラリア!】

【ほら! ツギルも応援してやるんだ! ミラリアも呼んでるぞ!】

【うん! ミラリア、がんばれ!】


 私では覚えてない幼い頃の記憶。


【スペリアスしゃま、なにするの?】

【今日は祭りを開こうと思ってのう。今宵は食べて踊って騒ぐのじゃ】

【たべる、すき。おどり、どんなの?】

【……そういえば、ワシも踊りを考えておらんかったか。まあ、適当にこんな感じで――エスカぺ音頭ということで】


 薄っすらとなら覚えてる記憶。


【……おい、ミラリア。どうして剣の修行で、我が家が真っ二つになるんだ】

【……加減を間違えた】

【そもそもの矛先も間違えてるだろ?】

【……ごめんなさい。ツギル兄ちゃん】

【スペリアス様にも謝れ。いいな?】

【……うん】


 それなりに成長した頃の怒られた記憶。


【スペリアス様! ツギル兄ちゃん! 凄い魚、釣れた! 牙が凄くてゴツゴツ大きい!】

【いや!? それ、ワニじゃないか!? 魚じゃないぞ!?】

【ハハハ! これは大漁じゃのう! この大きさのワニとなれば、村のみんなで食べ合うとしよう! 大金星のミラリアには、一番美味な足肉で決まりじゃな!】

【一番美味しいの!? 楽しみ! 食べたい!】


 家族みんなで釣りを楽しんだ記憶。


【ミラリア! 今日は一緒に薪割をしてくれないか!?】

【なら、休憩用にお茶でも用意するかのう】

【あれ? ミラリアってさっき、スペリアス様が探してなかったか?】

【おいお~い? また怒られてたりするのか~? ミラリア~?】


 村のみんなが構ってくれた記憶。

 最初の警戒などとっくになくなり、冗談も交えて私へ接してくれてた。


 ――それら全ての思い出が、懐かしいなんて言葉では言い表せない。




「う……うあぁぁ……ああぁぁぁ! みんな……ありがとう! ごめんなさい! 私のために……こんなに……! うあぁぁぁ……!ごめんなさいぃ……! 今まで本当に……ありがとぉ……! うあぁぁぁん!」




 昔の記憶が再び巡ると、私の涙は止まらない。何もない空間で泣き崩れつつ、口から出る言葉は感謝と謝罪。言いたい言葉をそのまま口にすることしかできない。

 私はエスカぺ村のみんなにとって、恐れられて封印されてもいい存在だった。なのに、ここまで大きくなるまで育ててくれた。

 エスカぺ村が滅ぶ原因を作った私を許してほしいとは言わない。後悔も大きくなるけど、確実に言えることがある。




 ――私は人間として、愛されて育ったんだ。

ミラリアはエスカぺ村で、間違いなく人間として育てられていた。

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