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その少女、野盗を退治する

とりあえず、相手は「野球」じゃなくて「野盗」です。

 思わずツギル兄ちゃんに指摘されちゃったけど、確か『野球』はボールを使った競技だった。間違えた。

 眼下の街道にいるのは『野盗』の方。馬車を囲んで盗みを働こうとしてる。野球と全然違う。


【やっぱり夜も近くて人のいない街道だと、野盗の被害も多いのか。かなり豪華な馬車だし、ある意味で狙い目か】

「馬車の人達、困惑してそう。かわいそう。……助けに入る」

【いいのか? ミラリアだって追われてる身だ。下手に目立つのは避けるべきだろ?】

「そうだけど、見過ごすのはもっとよくない。スペリアス様だって『盗みをする悪い奴は懲らしめろ』って言ってた」

【まあ、そう言うと思ったよ。ミラリアなら問題なさそうな相手だが、気を抜くんじゃないぞ?】

「うん、分かってる」


 ディストール王国では一応勇者だったし、悪いことをしてる人は見逃しちゃいけない。勇者の証はもう捨てちゃったけど。

 とりあえず、このままにはしておけない。スペリアス様の教えだってある。

 魔剣を携えて森にある少し高い崖を飛びおり、まずは野盗達の前へと躍り出る。


「あなた達、馬車を襲ってる。それは悪いこと。野盗をやめて」

「な、なんだこのガキは!? 急に姿を見せやがって!?」

「み、見慣れない小娘だな……。まさか最近噂に聞く、ロードレオの人間が横やりに来たか?」

「馬鹿! ロードレオは海賊だろ! ここは陸地だ!」

「それにこいつ、俺達に『野盗をやめろ』とか言ってるぞ! 今時、旅人が正義の味方か!?」

「世間知らずの馬鹿な小娘ってことか! 構わねえ! こいつの身ぐるみも剥いじまえ!」


 野盗の人数は五人。全員が剣や棍棒を持った私より大きな男の人達。なんだか私の登場に驚きつつ、それでも武器を構えて敵意を見せてくる。

 それはいいんだけど、チラッと言ってた『ロードレオ』って何だろう? また初めての言葉が出てきた。

 やはり世界は広い。まだまだ私の知らないことに溢れてる。


「ボーッとしてんじゃねえぞ! その首、刈り取ってやるよぉお!」

「……いけない。初めての体験と言葉に考察してしまった。今優先すべきはあなた達の相手。斬り捨て御免」



 スパンッ!



「え、ええ!? お、俺のサーベルが斬れたぁぁあ!?」


 知らないことは気になるけど、今の状況とは関係ない。そのせいで先手を許して一人目に剣で斬りかかられたのは失態だ。

 とはいえ、動き自体は遅い。私も見てから反応し、居合でサーベルとかいう剣を斬ってしまえるぐらいには余裕。

 サーベルなんて剣は初めてだけど、強度は全然大したことない。魔剣に比べれば枝みたいなものだ。


「サーベルを斬るとか嘘だろ!? このガキ、何者だ!?」

「元ディストール王国の勇者。魔女スペリアス様の弟子」

【……ミラリア。お前はお尋ね者なんだ。名乗る奴がいるか?】

「あっ、そうだった。ごめん、野盗さん。今のは忘れて」

「な、何の話をしてやがんだ!? 余裕ぶった態度をとりやがって……!」

「構わねえ! やっちまえ!」


 ただ、余裕を見せ過ぎるのもよろしくない。うっかり身元を喋っちゃったけど、野盗にはハッキリ聞こえてなかった模様。助かった。

 向こうも一斉に剣や棍棒で襲い掛かって来たし、こっちもさっさと斬り捨て御免で終わらせよう。



 スパンッ! スパンッ! スパパンッ!



「こ、棍棒まで真っ二つに!? どうなってんだ!?」

「鞘に納めた剣なのに、どうやってあの速度で斬ってんだ!?」


 どうやら野盗達に居合や鞘走りの原理は分かってないらしく、向かってきたところをカウンターで武器破壊されて驚き戸惑っている。

 まあ、居合についてもエデン文明の一つだ。私が外界のことを知らないように、その逆もまた然りということだろう。


 ――実のところ、私も鞘走りはよく分かんない。感覚でやってる。


「とにかく、これであなた達はもう戦えない。おとなしく引き下がることをオススメする。……これ以上私と戦えば、今度は斬撃が体に刻まれることになる」

「ひ、ひいぃ!? ダメだ! とても敵わねえ!」

「に、逃げるぞ! 野郎ども! せっかくよさげな馬車を襲えたってのによぉ!?」


 ここまで追い込んでしまえば、後はちょっと脅せば無事解決。野盗達は慌てふためきながら逃げていった。

 脅すのも悪いことだけど、これ以上無益な戦いを続けるよりはマシ。こうして外の世界を旅する以上、トラブルもあれば自分で判断する場面も増えてくるのか。

 そんな時こそ、スペリアス様の教えを思い出そう。再会できた時、私が未熟なままでは余計に悲しませる。


「……それにしても、魔剣の魔力を使わずに終わっちゃった。ツギル兄ちゃん、出番なし」

【別に出番がないならないで構わないさ。そこもわきまえて使い分け、過剰に振るう暴力とはしない。それができてれば、俺からは言うこともないさ】


 せっかく魔剣ツギルニーチャン(仮名)の力を見せれると思ったのに、結局私の居合術だけで全部終わってしまった。野盗が弱すぎるのがいけない。

 とはいえ、無理に見せる力でもない。そこはツギル兄ちゃんも言ってる通り、魔剣も剣術もただの暴力で終わらせはしない。


 それにしても、ご飯の途中で野盗を退治したからお腹が減った。

 早く焚火のところに戻って、保存肉の続きをカジカジして――




「さっきの剣術に……『元ディストール王国勇者』という発言? あ、あの! 待っていただけませんか!?」




 ――そう思って立ち去ろうとすると、襲われていた馬車の方から誰かが声をかけてきた。

 女の人みたいだけど、まさか私の迂闊発言を聞かれてた? だとしたら、どうすればいいのだろうか?


 斬り捨てて口封じ? いや、それは流石に物騒すぎる。

 賄賂で買収? いや、そんなお金はない。そもそも、私自身がお金の扱いにまだ慣れてない。


 いったい、何が適切なのだろうか? 助けて、ツギル兄ちゃん――




「あなたはもしや、ミラリア様ではありませんか!?」

「え……? もしかして……フューティ様?」

まさかの再会。聖女フューティ様。

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