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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
遥かなる記憶を託す島
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闇へ対抗する存在は、必要な進化の道筋から

苦痛に抗うのは生命の道理。転生した世界はさらなる進化へと誘われる。

「闇瘴が溢れる時代であっても、人や生命の進化は適応するものじゃ。いつしか人々の中から、闇瘴を浄化できる力を持った者も生まれた」


 映された光景に見えるのは、フューティ姉ちゃんと同じような聖女の格好をした女の人。人々から頭を下げて頼み込まれ、その言葉に応じて動きを見せる。

 私も『聖女は闇瘴を浄化できる凄い人』って認識でしかなかったけど、そうなったのは長い歴史で必要な進化だったから。闇瘴に対抗できるよう、人間も形を合わせて生きていった。


【おお! 流石は聖女様だ! 闇瘴から我らをお救いくださる!】

【聖女様こそ、古の文献に記された女神エステナの使者! 女神エステナと聖女様に感謝を!】


 闇瘴を浄化する聖女様を見て、人々は感嘆の声を上げている。そしてその中で出てくるのは、神として崇められるエステナの名前。

 この時代の人達はもう知るはずがない。エステナの正体が楽園を動かす装置だなんてことは。

 それは私にしたって同じことだった。正体を知らないから、いつの間にか勝手に女神だと思い込んでた。


「楽園から溢れた文献や博士の遺した記録。それらが人々にエステナを『世界を守る女神』だと思わせてしもうた。いつの間にやら、勝手なイメージで銅像まで作られてのう」

「それが私も知る銅像のエステナ……。アホ毛みたいな触角の生えた姿なのか」

「おぬしの出生はワシも理解しておる。随分奇特な運命ではあるが、ここへ辿り着いたことこそワシの求めた可能性の証明じゃ。まあ、今重要なのは姿ではあらぬ。エステナに対する世界の歴史じゃ」


 ちょっぴりアホ毛交じりに話が逸れちゃうけど、スペリアス様の姿は説明を続けてくる。

 そういえば、闇瘴に対抗できる力は聖女様だけじゃない。私が知る限りでももう一人いる。




【魔王様! 闇瘴の濃度が強く、魔王軍にも被害が大きいデス!】

【おのれ、闇瘴め……! 余もあまり長くないというのに……!】


「これは……昔の魔王軍……?」

「魔物は闇瘴と同時に世界へ放たれた存在。二つが強く紐づいたからなのか、魔物は魔物で独自の進化へと至ったのじゃ」




 それこそ、現在はゼロラージャさんが務めてる魔王。これについても人の世とは別に、魔物の中で新たな進化が生まれてた。

 最初に生み出された魔物に知性は感じなかった。でも、魔王軍となったこの時代には知性を持つ人も多い。

 乱された摂理の中で抗う歴史は、あらゆる生命を新たな進化へと誘ったんだ。


【……ゼロラージャを呼べ。次の魔王として、かの者を任命する。転生の儀を行い、余も受け継いだ力や技量を次へ託すぞ。魔王は強くなくては、闇瘴にも人世にも飲み込まれる……!】


 転生魔竜といった力についても、歴代の魔王の中で必要な進化だった。必要なことだから、それができるように命は繋がり成長した。

 この世界に完全に不要なものなんてないんだ。成り立った傍には確かな理由がある。それこそが進化。


 ――楽園はそういった『必要であるもの』さえも吐き捨ててしまった。外の世界をゴミ捨て場扱いしてたのに、そのゴミの中から今の綺麗な世界が生まれたんだ。


「……皮肉。楽園がゴミと思ったものが、世界に命を耕す肥料になるなんて」

「世界は意図せずしてバランスが保たれる。この未来は博士とて予想できたものではなかったのう。……ただ、楽園のその後は相変わらずと言うべきか。博士も危惧した可能性は、この地からでも観測できた」


 こうした歴史は魅力的だけど、楽園にそんなことは関係ない。闇瘴は今の時代に至るまで溢れ続けてるし、脅威として残り続けてる。

 少しだけその様子も記録として残ってるのか、再度場面を切り替えて私にも見せてくれる。




【エステナ。楽園も世代交代が必要となった。寿命を迎えた者を安らかに眠らせてくれ】

【エステナ。新たな子供を作るにも苦痛を伴う。その苦痛も請け負ってくれ】

【エステナ。いっそ生命の循環も変えてくれ。わざわざ次の世代を作るのも面倒だ】




 そこに映るのは、淡々とエステナという装置へお願いする楽園の住人の姿。内容にしても、あまりに自分勝手極まりない。

 楽園は進化を続ける外の世界から隔絶され、ひたすら苦痛から逃れる道しか進まなかった。いや『進んでる』って言葉も相応しくない。

 恐ろしさを通り越し、憐れにも見えてしまう。この人達にはもう、考えて次へ繋ぐ力さえ残ってない。

 生命の(ことわり)さえも拒み、どんどんと進化のレールから外れてしまう。それを可能とするエステナがいるから、簡単にそっちへ逃げてしまう。


 ――こんなのは人の生きる道じゃない。外の世界を知ったスペリアス様が、楽園を忌むようになったのも理解できる。


「もうどれほどの年月が過ぎたことか。それでも楽園は方針を変えず、エステナに蓄積された苦痛さえ意に介さない。博士も予想した怠惰の歴史は、今に至るまで続いておる」

「……凄く愚か。人間は逃げるばかりじゃ生きられない。楽園は……全てから逃げすぎた」

「よもや、おぬしのような存在にまで言われるとはのう。……そして、ここからの話も重要じゃ。人々が学習することなくエステナへ溜め込んだ苦痛は、誰も予想できるはずのなかった一つの結末を導いてしまったのじゃ」


 一緒に楽園のその後を見ながらも、語り合う中で見える現在の脅威。それこそ、私も本物のスペリアス様から聞かされた世界を滅ぼす可能性。

 楽園の人々は学習しなかったけど、それに代わるように学習した存在がある。苦痛という進化の要因が蓄積して、本来ならありえないことさえ起こってしまった。




#痛い――やめて――助けて――もう、嫌――#




 エステナから溢れたかすかな声こそがその証明。

 楽園の人々ではなく、放棄された苦痛からエステナが学習してしまった。


 ――そして、自我が生まれた。

放棄された進化から、とうとうそれは生まれてしまった。

非生命体のはずなのに、その枠組みさえも超えた新たな自我――エステナ。

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