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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
遥かなる記憶を託す島
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愚かしき欲望は、楽園という箱庭へ

そうして、一つの世界が終わりを告げた。

「やっぱり……これが楽園……!? ゲンソウが楽園を生み出した……!?」

#ゲンソウを忌む者など関せずとばかりに、世界はさらなる暴走を続けた。その終着点こそが楽園という理想郷。多くの人々がそこへ移り住み、苦痛も疑問もなく生きることを望んだ#


 私も目指した人々の楽園。その最初の時代こそ、今見てるこの時だ。

 乗り物に乗って楽園を目指す人々に、後悔や疑念といった表情は見えない。みんなどこか『これで幸せになれる』って安堵してるようにも見える。


 ――いや、もしかするとそういった考えすらないのかも。この人達の心はとっくに空虚で、考えられるほどの中身はない。安堵して見えるのも、中身がないから何も考えてないだけ。


#そして、今見せているこれこそが楽園の心臓部分。ゲンソウの力を欲深き人々が改造し、楽園という『箱庭の世界』を創造して維持するためのな#

「金属で光ってて……凄く大きい……。こ、これが……創世装置エステナ……!?」

#旧時代の人間はゲンソウが生まれる以前の技術を『カラクリ』と呼ぶようになった。エステナはカラクリによる金属媒体をベースに、ゲンソウから生まれたルーンスクリプトという高度な魔法技術を搭載。その力は『世界を新たに創世する』ことさえ可能とした#


 過去の光景を見ながら話を聞いてると、どうにも寒気が収まらない。大空を飛んでた時に風をビュービュー感じてたのとは違う。

 根幹となるエステナも見せてもらうけど、その姿はどう見ても生き物ですらない。これこそ、装置というモノそのもの。

 カラクリの存在も、この時代のものとして垣間見える。


 ――これが私を生んだお母さん。こんな無機質なものから私は生まれたんだ。


#エステナに与えられた命令は『世界を守る』ということ。ただ、その世界というのもあくまで楽園を示している。楽園へ移住した人間に、それ以外の世界への関心などない#

「こ、この時は……エステナも素直に命令を聞いてたんだよね……?」

#そなたも知っての通り、素直でなくなるのは後の話だ。稼働当初のエステナに自我などなく、ただ与えられた命令通りに世界を――楽園を守っていた。それどころか、楽園に移住した人間のさらなる願望さえも実現させていく。膨れ上がりすぎた欲望に歯止めはない#

「さらなる欲望って――ふえ!? ら、楽園から魔物が出てきた!? しかもたくさん!?」


 恐ろしい光景はまだまだ続く。時の流れがさらに進むと、楽園からどんどんと魔物が溢れ出てくる。

 弱そうな魔物ばかりで、私が知ってる時代とは違う。楽園を追い出されてるってより、ゴミのように捨てられてると言った方がいい。

 楽園そのものに変化はないし、襲われたとかじゃない。むしろその姿を見ると、魔物がかわいそうになってくる。

 『命を粗末にする』という言葉を地で行くような光景だ。


#魔物にしても、元々は空想の産物に過ぎなかった。楽園の人間はただ苦痛なく生活するだけでは飽き足らず、空想の生物を新たに生み出すことまで始めた。エステナの力があれば、生命の(ことわり)へ介入することさえも可能だ#

「こ、こんなの……酷い……!? あの魔物達、何も悪いことしてないよね……!?」

#飽きられた魔物は楽園の外へ捨てられる。住人達に魔物のその後など関係ない。いつしか魔物そのものも飽きられ、無数の命が無造作に世界へと解き放たれた。イルフ人も同様に作られたが、耐えきれず隙を見て逃げ出していった#

「イ、イルフ人も……!? オ、オエェェ……!? は、吐き気が……!?」


 正直、見てられない。楽園の人間のやることが邪悪すぎる。魔物もイルフ人も、言ってしまえば楽園のオモチャだった。

 思わず吐きそうになるし、気分だって最悪だ。スペリアス様の教えを真逆で行く光景に嫌悪感しかない。

 こんなの間違ってる。私の生まれなど関係なく、普通の人が見ればおぞましく感じるに決まってる。


 ――それに、エステナもかわいそう。自我がないからって、こんなことを無理矢理させられるなんて。


#さらに楽園から溢れるものが一つ。これもそなたの時代には馴染み深いだろう#

「ッ!? く、黒いモヤモヤ……!? あ、闇瘴……!」

#その通り。楽園の人間は身に感じる苦痛さえ疎い、ゲンソウの力でエステナに肩代わりさせるようになった。軽い擦り傷どころか、ちょっとした不機嫌。挙句の果てには空腹感に至るまで、あらゆる苦痛をエステナへ蓄積させた。だが、エステナにも許容限界はある。臨界点で蓄えきれなくなった苦痛は――#

「闇瘴となって、楽園の外へ吐き出された……!?」

#いかにもだ。こうした動きについても、楽園の住人が先導したこと。勝手に生み出した魔物を野に放ったのと同じく、外の世界はただのゴミ捨て場へと成り果てていった#


 目を背けたいけど、私は全てを知るためにここまで来た。吐き気を堪えながら、映された光景の続きを見る。

 さらに時が進むと、楽園からさらに溢れる禍々しい闇。これこそが闇瘴。私の時代にも深く根付いた苦痛の塊だ。

 スペリアス様も語った通り、発生源は創世装置エステナだ。まだ神様と呼ばれる時代よりも前から闇瘴は存在していた。

 この時代が何年前かまでは知らない。でも、アキント卿が以前に語ってくれた古い歴史に記されるぐらいには昔の話。

 気が遠くなるような長い年月から、楽園によって世界は大きく変異していた。あまりにも長すぎて、私では想像もできないような時間の流れだ。


「た、助けて……! わ、私が痛いわけじゃないのに……胸が苦しい……!」

#普通の人間ならば、そのような反応をして当然だろう。だが、楽園の人間にはそんな感情すらない。時折日記を書く者もいたが、いつしかそんな興味も失われていった。外の世界は完全にゴミ捨て場となり、日記や書物の類もどんどんと捨てられていった。今の幸せ以外は等しくゴミでしかない#

「も、もう……嫌……! こんな世界……嫌ぁ……!」


 楽園の外は楽園のゴミ捨て場。生き物のための世界じゃない。

 生み出された魔物も溢れ出た闇瘴も、どんどんと世界中へ広がってくのが見える。これが楽園が生まれた時の世界だなんて、事実であっても信じたくない。


 人間の欲望。黒い感情の集合体。それが楽園。

 こんなのは人間のすることじゃない。命への冒涜も苦痛の排他も、人間であることを捨ててるようなものだ。


 ――希望も何もない絶望一色。楽園の強欲が世界を塗り替え、破滅へと導いていく。




#ただこうした変化の中でも、外の世界で抗う人間は存在した。今のそなたのようにな#

「あ、抗った……人? ……あっ。この人って確か……?」




 私の心まで絶望に染まりつつあると、今度は楽園とは別の場所が映し出される。

 楽園の外の世界みたいで、ボロボロとなった建物の中に何人かの姿が見える。中央に立ってる人の姿には見覚えさえある。


 ――あれからさらに年老いてるけど、あの人で間違いなさそうだ。




【みんな……すまない。大昔に僕の起こした失態が……とうとう世界を破滅へ招いてしまった……】

【博士だけの責任ではありませんよ。私達だって、最初はゲンソウに魅了されて空虚な夢を描いてましたから……】

【その責任を取るために、忌まわしきゲンソウの力で寿命まで伸ばしたんです。……全ては博士が提案した『楽園破壊計画』のために】

そして、もう一つの新たな世界が生まれた。

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