過去に生まれしゲンソウは、破滅の未来へ
度々Twitterとかでも挙がりますよね。異世界のサンドイッチやジャガイモ論争とか。
まあ、こことは異なる世界なら不思議かもしれませんよね。完全に別の世界だったのなら。
「ゲンソウ……? やっぱり、この人が一番最初にゲンソウを作った……? でも、この後悔は……?」
#かの者はゲンソウを作っただけ。ただ、その行いが当時の世界を大きく変えてしまった。当人も悲観し、後悔に苛まれるほどにな#
「いったい、どうしてこんな結末――わわっ!? 今度は場所が!?」
後悔に沈む博士さんを眺めてると、再び語りかけて説明を加える声。それと同時に私ではなく、周囲の景色が右往左往と動き始める。
壁といった障害物さえも関係なく貫通し、今見てる世界をさらに広い範囲で目視できる。
高ささえも関係ない。空を飛ぶように辺りを見回せるから、ここがどういった世界なのかより鮮明となる。
【見てみなよー。魔法もだいぶ進化したと思わないかー?】
【おーおー。最早家電に頼ってたのも今は昔だなー。炎や氷を出す魔法まで使えるなんて、ゲンソウ様様ってもんだー】
【もういっそ、料理も面倒じゃないかー? てか、腹が減るのもどうにかならないかー?】
これまで見たことのない大きくて立派な街並み。楽園で見たビルと呼ばれる建物がいくつも並んでるし、文明が発展してるのは見ただけで分かる。
人だってたくさん。私が見たどんな街よりも多いし、みんなが思い思いのことを語る姿も見て取れる。
――ただ、それらはどこか不気味。あまりに空虚で、何かに頼ってばかりの虚ろな世界。私の見た楽園とどうしても重なる。
【大変だー。一部の世界で暴動が起こってるぞー】
【えー? またゲンソウを受け入れない連中かー? 面倒だよなー】
【もういっそ、そういう『嫌な感情』も排除できないかなー? ゲンソウがあれば、どんな願いだって思い通りだろー?】
【この世界に魔法が出来上がったんだから、後は全部魔法で解決できるさー】
【ルーンスクリプトも新言語として確立されてきたしねー】
そうしたみんなが頼る力こそ、私も耳にしたエデン文明の一つ――ゲンソウ。その力に頼り、自分達が率先して動く気配はない。
頼り方にしたって、心からお願いしてるって感じじゃない。『もう全部ゲンソウでいいだろ』って感じで、投げやりになってると言った方がいい。
目も虚ろで、中身も空虚。発達した文明に生きてるし、願い事を叶える力だってある。
――でも、全然幸せそうに見えない。だって、肝心の中身がないもん。
「そういえば、魔術師みたいな格好の人がいない……? ゲンソウどころか、魔法自体もどこか浸透してないような……?」
#この世界には本来、魔法というものさえ存在しなかった。そんなものは空想の産物で、創作の中でしか語られていない。幻の中に想っていただけだ#
「な、なら、どうしてあの人達は魔法を使えてるの?」
不気味な願いに溢れた世界もだけど、人々のやってたことも気になる。確かに魔法を使えてたけど、あまり慣れた手つきではなかった。
説明してくれる声が言うには、そもそもこの世界に魔法なんてなかったとのこと。でも、これって私達の世界の過去の光景だよね?
#俗に語られる魔法とは、この時代に作られた。その原初こそ、ルーンスクリプトといったゲンソウの技法。人々の空想さえ実物として『現実と幻の壁を超える力』だ#
「げ、現実を……超える……!? みんなの願いが……そのまま本物に……!?」
聞かされた言葉から、流れとしては理解できた。魔法はこの時代に作られ、私達の生きる今の時代まで紡がれてきたんだ。
そして、その原点となったのがゲンソウ。ルーンスクリプトという詠唱も含め、全てはゲンソウから始まっていた。
――スペリアス様の語った『楽園こそ世界の原初』という考えは、確かにマトを得ていたんだ。
#ゲンソウを最初に開発したのは、先程も見た博士と呼ばれる男だ。当初は別の場所へ瞬時に移動する技法――今の時代で転移魔法と呼ばれる力を編み出すためのものに過ぎなかった。だが、その過程で見出されたのがゲンソウという『どんな願いも叶える』可能性。あの博士とて、ゲンソウがここまで世界に広がることは危惧していた。技術の枠組みが完全に旧時代を超え、扱いきれる代物ですらない#
「だから、博士さんは後悔してた。こうやって中身のない未来が見えてたから、どうにか食い止めようとした。……でも、止まらなかった」
#ゲンソウの可能性を見出した人類は、そこから次々に新たな力を生み出していった。大量の娯楽に始まり、創作の中にしかなかった魔法。ゲンソウの力は毒のように蔓延し、人々の思考さえ飲み込んでいった#
「こ、怖い……! 怖くて……寒気が……!」
私は使えないけど、魔法は身近に普通に存在してた。だけど、その始まりはおぞましいとしか言いようがない。
魔法はただの空想でしかなかったのに、ゲンソウが空想を現実とすることを可能にしてしまった。そうした可能性は人々を狂わせ、ひたすらに欲望を求めるようになった。
ただ楽なだけの世界。楽しいとは言い難い世界。私が生きて旅した世界とは全然違う。
――今見てるのは、まさに楽園そのもの。今より昔の時代、世界は楽園そのものだった。
#ただ、全ての人間がゲンソウを受け入れたわけじゃない。開発者である博士を始め、壊れた世界へ抗う者もいた。とはいえ、動こうにも多勢に無勢。世界はとっくにゲンソウで支配されていた#
「ゲンソウで支配された世界……魔法の力が生んだ狂気……。ま、まさか、昔にこんなことがあったなんて……!?」
#おまけに、人々の欲望は留まるところを知らない。娯楽を求めるだけでは飽き足らず、今度は身に宿る感情すら疎むようになった#
説明されながら、景色が再び移り変わる。場所も時間もさらに進み、次に映されたのは大きな大きな山の上。
そこに大きなドームのような何かが建てられ、空飛ぶ乗り物が人々を運んでいく。おぞましさは覚えつつも、この場所はかすかに予想がつく。
――私が最初に目指した場所も、この時代に作られたんだ。
#この地こそ、人々がゲンソウの集大成として生み出した『楽園』だ。あらゆる苦痛さえも取り除き、永遠に悩まず生きるための箱庭だ#
もしも物語の世界が「IFの現代と繋がった世界」だったとしたら?
進化のレールがズレることで、異世界と呼べるまでに変貌していたとしたら?
――物語における世界が「今とは別の未来」だったとしたら? 壊れたレールの果てにあったとしたら?




