古代の意志が見せる景色は、現代へ至るゲンソウの歴史へ
この物語において、不思議に思ったことはありませんか?
「なんで現代っぽいもんが所々で出てくるんだよ」……などと。
「世界の真実……!? やっぱり、ここに楽園の――ううぅ!?」
謎の声が語る中で、突如辺りがまばゆい光に包まれる。なんだか、青い球体の中へ吸い込まれる光景も見える。
でも、実際に吸い込まれてる感覚はしない。どちらかと言えば、見える景色だけが移り変わってるって感じ。
これってもしかして、青い球体の中にある光景を見せようとしてるってこと? いや、中というよりは表面なのかな?
光でハッキリと見えないはずなのに、どうしてか感覚で理解できる。この空間自体が不思議そのものだし、深く考えても仕方ないのだろう。
――ただ光が晴れた先で見える光景は、私の抱く不思議をさらに超えてくる。
【皆様! どうか考え直してください! 僕の開発した『空間転移幻想機構』ですが、あれはあくまで世界における物や人の流れを改善するためのもの! 他分野への転用は危険が伴います!】
「ふ、ふえ? だ、誰かが喋ってる? 人もたくさん? でも、見たことない姿の人ばっかり……?」
目に映るのは、大勢の人の前で大声を上げて語る男の人の姿。白い衣装を纏って眼鏡をかけ、どことなくディストールにいた研究者さんに近い。
ただ、どこかが奇妙に違う。他の人に関しては、私も初めて見る衣装の人ばっかり。みんな同じような格好で、ピシッとした衣装をしてる。
場所は何かの部屋っぽいけど、その造りも初めて見る。ここまで整った造りをして豪華そうなお部屋、ディストールやエスターシャでも見たことがない。
【そうは言うがな、博士よ。技術は人類の進歩のためにこそあるものだ。リスクを恐れるばかりでは、この世紀の発明を最大限に活かせぬぞ】
【こちらのデータを見ても分かるだろう。空間転移をベースとした超常技術はスクリプト言語化により、安定レベルを維持できている。この超常技術があれば、これまでの歴史さえもひっくり返す偉業となる】
「あっ、あの人がタンタンしてるのって、雪山でも見たポチポチ装置だ。ねえねえ、さっきから何をして――」
【その歴史を覆す可能性があるからこそ、僕は停止を求めているのです! 開発者でこそありますが、だからこそ見える危険性だって……!】
「……あ、あれ? もしかしてこの人達、私に気付いてない?」
流されるまま様子を伺ってたけど、気になるものも多い。こういう時、やっぱり直接尋ねるのが一番。
そう思って声をかけるけど、誰一人としてこちらへ反応してくれない。無視されてるとかじゃなくて、気付いてすらいないって感じ。
「わわっ!? 触れられすらしないの!? ……もしかして、また幻?」
思い切って肩をポンポンしようとするものの、予想に反してスカスカとすり抜けてしまう。これも楽園の時と同じく幻ってことなのかな?
ただ、あの時と違って幻が反応を示すことがない。現実感にも薄いけど、単純な幻ともどこか言い切れない。
【ともかく、技術の基礎はこちらでも確立してある。博士一人の言葉では、研究機関を止めることは叶うまい】
【我々も退散するとしよう。この空間転移のように『幻想を現実にする力』があれば、これまで人類の辿り着けなかった領域にだって踏み入れる。いくら開発者の言葉でも、簡単に止めることはできんよ】
ヒュン
【ま、待ってください! 話はまだ――クソッ! どうしてこうも、目先の欲にばかり手を伸ばして……!?】
だって、眼前の人達は確かな意志を持って話してるようにしか見えないもん。あんまりいい空気じゃないけど、楽園みたいに淡々とはしてない。
それにしても、さっき立ち去った人達が使ったのって転移魔法だよね? 転移魔法もエデン文明の一つだから、ここでの話も楽園絡みなのは濃厚か。
ただ、部屋に残された『博士』って呼ばれてる男の人が気になる。この人って『開発者』とも呼ばれてたよね?
開発したのはきっと、話にも出てた『空間転移幻想機構』ってものなのかな? これってやっぱり、私も知るゲンソウだったりするのかな?
――もしそうだとしたら、これってゲンソウが生まれた時の話とか?
「ひょっとして、これって過去のお話? 私、過去を見てるの? ……だとしたら奇妙。景色やみんなの様子とか、むしろ私の知ってる世界よりも未来のような――」
#いや、そなたの認識で間違いない。それより、今は目に映る光景をしっかり焼き付けてくれ#
「ふ、ふえ? う、うん……」
色々と不思議すぎて首を傾げることも多い。だけど、再び聞こえた声に今は従うしかない。
眼前には一人室内でうずくまる博士って人だけで、凄く後悔してるのが姿だけで読み取れる。この人がゲンソウを作ったってことは、楽園やエステナも同じように作ったのかな?
――いや、そう考えるのは早計だ。ここまで後悔する様子には、まだ私が知らない何かが眠ってるはず。
キュルルルル
「ふえっ!? 今度は何!? 急に景色が凄いスピードで動いて……!?」
#説明のためにも、一部時間を早送りさせてもらう。重要な光景は他にもあるからな#
ただただ眼前の光景を眺めてると、いきなり辺りがキュルキュルと猛スピードで動き始める。
この光景自体が実体でないのは事実らしく、私だけは流れる時に残されたようにそのまま。今見てるのは過去の記憶でしかない。
実体ではないけど、実際に起こった光景ではあるのだろう。この空間自体が私に対し、何かを訴えるように光景を見せてるだけ。
――もっとも、これらの光景はこれまでの何よりも異質で重要。誰も知ることのなかった真実が、今私の脳裏へ刻まれていく。
【くっそ……! どうして、こんなことに……!? こんな世界、僕は望んでいなかった……!】
「あっ、さっきの博士さん……だけど、これは……どういう光景で……?」
素早く流れる時間も収まり、再び目視できる光景が目に入ってくる。さっきの博士さんなのは分かるけど、歳を取ったのか老けて見える。
多分、これは最初からさらに数年後の光景。そこでも博士さんは室内で床へ膝と手をつき、うずくまって後悔を体現してる。
その原因については、きっと外に映る光景にあるのだろう。
私はこの世界を――時代を知らない。でも、異様な光景であることは本能で理解できる。
窓の外では楽園を目指す海底で見た大きなクルクル回るたくさんのカゴに、ビュンビュンと走る馬のない馬車まである。
そこには人の姿だってある。ただ――
【働くのも馬鹿らしいなー】
【もっと娯楽が増えないかなー。遊園地とかも飽きたしさー】
【車も今度は空を飛ばそうぜー。もっともっと、みんなの願いを叶えようぜー】
――どこか空虚。楽しそうに見えて、中身が薄く感じる。
それこそまるで、私の見た楽園に近い光景。本当にこれが過去の光景だっていうの?
怖い。どうしようもなく怖い。
人々の欲望が好き放題に吐き出され、まるで歯止めが効いてない。私の見てきた世界と違い、バランスなんてありはしない。
――その光景を顔を上げた博士さんも眺め、悔しそうに何かを呟いた。
【こんな未来になるならば……ゲンソウなど生み出さなければよかった……!】
もしもそれら「現代っぽいもの」が、もっと前の時代に存在していたとしたら……あなたはこの世界をどう捉えますか?




