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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
遥かなる記憶を託す島
382/503

少女と魔剣と魔王は、大空に潜む古代の意志へ

新章、今度は楽園創設の歴史を求めて。

旅は魔王の背に乗り、大空へと広がっていく。

 魔界のあった渓谷も飛び出て、あっという間に遥か上空へ。ゼロラージャさんって、ドラゴンとしてもかなり上位みたい。

 まあ、そりゃそうか。元が魔王で転生魔竜なんていう特殊な種族。進化の次元が違うのだから、誰よりもあらゆる面で凄くて当然。

 もっとも、その進化だって闇瘴に起因するもの。強さの分だけ苦労もあるのだろう。


「ミラリアにツギルよ。我もこうして人の子を背に乗せて飛ぶのは慣れておらぬ。恐ろしさなどはないか?」

「うん、平気。ゼロラージャさんが安定した姿勢で飛んでくれるから、落っこちる心配もない」

【あんたって、世間一般的な魔王イメージからは本当に程遠いよな。なんだか、これまで変に邪険してたのが申し訳ないぐらいだ】

「ドラララ。者に対する印象など、実際に会えば如何様にも変化する。ウヌらも旅の中で学んだのではないか?」

「……もっともな話。旅の中での学びって、本当に大事なものだった」


 安定した飛行のおかげで、お喋りできる余裕だってある。少しゼロラージャさんとも語るけど、この人ってなんだかんだで優しい。

 王としての律義さ故だろうけど、相手のことを尊重する心構えってとても大切。私だって旅先で多々あった。

 ランさんとペイパー警部の親子関係。シード卿に期待するアキント卿の気持ち。そういった心遣いがこの世界には眠ってる。

 だからこそ、簡単に壊されていいものじゃない。私が守りたいのは楽園じゃなく、今を生きるこの世界。

 そのためならば、生みの親であるエステナにだって刃を向ける覚悟はある。こうした空の旅だって、その目的のために必要なこと。


 ――眼下に広がる世界は広い。まだ私が見たことのない世界も含め、楽園の力で滅ぼされるなんて嫌。もっともっとも見てみたい場所がたくさんある。


「ヘッキシ……風がビュービューで少し寒くなってきた」

「そういった体質も人間のものか。ああ、いや。いらぬことを口にしたかもな」

「気にしないで大丈夫。ゼロラージャさんが私を神様扱いしてないのは理解してる。それに寒くてクシャミをするのは人間の道理」

「うむ、すまぬな。我も人間について多少学びはしたが、まだまだ知見が足りぬ面も多い。……かつて我もその面で失敗し、今も少々後悔している面がある」

【え? あんたでも間違えて後悔することがあるのか? 割と万能って感じに見えるが?】


 お空から眺める景色もいいけれど、肌寒くてクシャミが出ちゃう。そんな他愛ないことから、ゼロラージャさんのちょっとした思い出話へ繋がっていく。

 正直、私もツギル兄ちゃんと同じに思ってた。ゼロラージャさんって強い上に完璧で、失敗とは無縁な人にしか見えない。

 それでも失敗談があるのは、やはり生物の性というべきか。でも、何をしたんだろ? ご飯に調味料を入れ過ぎたとか?




「ウヌも聞いたことがあるはずだ。ユーメイトの肩書『冥途将』とは、人世における『メイド』の語源になっておると」

「うん。確か『冥途へ誘う者だからメイド』みたいな話だった」

「……あれを教えたのは我だ。ただ、後で調べて誤解であることが判明した。……実際には冥途とメイドは無関係ぞ」

「間違ったことをユーメイトさんに教えちゃったの?」

「……うむ」




 実はもっと深刻なことかとも思ったけど、実際には割とどうでもいい話だった。まあ、確かに深刻と言えば深刻かもしれないけど。

 ユーメイトさんって、自身がメイドな冥途将であることにかなり誇りを持ってた。語る時の態度が一際凛々しかったもん。多分、当人は今も嘘の方を信じてる。


【……ユーメイトさんに真実を話したりは?】

「何度も考えたが、どうしても言いそびれてしまう。ユーメイトは『メイドで冥途将』であることを誇りとしており、いつも間違ったまま高らかに語っておる。もしここで真実を伝えれば、築き上げた自尊心が瓦解してしまう。……そう思って早数十年、いまだに語れぬままぞ」

「……いずれは教えた方がいいと思う。今でなくてもいいけど」

「ああ、我も流石にそう思う。何より、今は有事の際ぞ。……ユーメイトの士気が下がる真似は避けたい」

【……あんた、変なところで苦労してるんだな】


 何と言うか、話を聞き進めると魔王軍って本当に世間のイメージと違って見える。旅先で噂されてた『恐ろしい魔物の軍団』とは何だったのか。

 ゼロラージャさんについても、別に完璧ってわけではないのか。意外と残念な面もある。残念要素がユーメイトさんに集中してるけど。


 でも、こういう話を聞いてると、どこか安心できる。種族は違っても、社会というものは似たり寄ったりなのかも。

 完璧な人なんていないし、人のイメージも多種多様。付き合いの深さで見えてくる姿だってある。

 こういった姿があるから、社会というのは面白い。みんながみんな同じなんてのも嫌。それってきっと、私が見た楽園みたいな光景だろう。


 いろんな人がいて、いろんな考えがある。いがみ合うこともあるけど、そういう中で解決の糸口を探すのも一興。

 それこそが世界で、私がもっと見てみたい光景。清濁入り混じった大地を、いつか再び踏みしめて歩んでみたい。


 ――今度は急ぐ旅でもなく、深い目的も必要なくで。スペリアス様も夢見た神秘を、もう一度この目で見つめたい。




「ほれ、話をしている間に見えてきたぞ。あれこそ、我やスペリアスが目指した地ぞ。いまだこの世界で紐解いた者もおらぬ、古代最後の遺跡と言うべきか」

「ふえ? 着いたの――って、あ、あの島……どうなってるの……!?」

【な、なあ、ミラリア。多分なんだが、この辺りってイルフの里の上空になるんじゃないか……?】




 そうこうしてる内に、ゼロラージャさんが案内したい場所が近づいたみたい。私も前方へ向き直ると、それっぽい場所が確かに目に入る。

 ただ、実に奇妙だ。ずっと空を飛んでたのに、目指すべき島は同じ高さにある。白い霧に包まれてるけど、あれって確かに島だよね?

 いや、そもそも白いのだって霧じゃないかも。ツギル兄ちゃんにも言われて地図を確認すると、確かに地形からイルフの里が近いみたい。


 ――てことは、まさかあの時見た島がこれってこと?




「イルフの里の上空に浮かぶ……雲に包まれた浮島……!?」

「おそらくはあれこそ、楽園を作りし古代の意志が眠る地ぞ」

やっべ。浮島の伏線、忘れかけてた。(プロット作れよ)

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