少女を認めし魔王は、新たな仲間として
今回の旅はただ楽園を目指すのではない。
楽園を――エステナを破壊することにあり。
「我が魔王軍の同胞よ! 聞き及んでいる者もいるだろうが、我はこれからこの魔剣携えし少女と行動を共にする! ウヌら魔王軍にも役目を託す時が来るやもしれぬ! 期待しておるぞ!」
「ハハッ! 魔王ゼロラージャ様の名のもとニ!」
「グギュルルゥウウ!」
ご飯の後はお部屋も用意してもらい、ぐっすり休んで体力回復。ゼロラージャさんとの激闘での疲れも癒し、体も心も万全だ。
外が暗いままだからよく分かんないけど、今は時刻的に朝らしい。そんな朝一番に魔王城の前へ呼び出され、来てみればそこに集ったのは大量の魔物さん。
魔王軍の人達らしく、高台から先導するゼロラージャさんの声へ掛け声で応えてる。その中には鎧の魔物さんにドラゴンさんといった見知った顔も並んでる。
「分かってたけど、魔王って凄い。流石は魔物の王様」
「ミラリア様やツギル様につきましても、明確な味方として配下へ伝えてくださってます。むしろ、魔王軍の方がミラリア様に仕える形ですね」
【それでも配下に納得してもらえるなんて、これが魔王の貫禄ってことですか。……人間界で噂されてた魔王とは随分違いますが】
【ゼロラージャ様は歴代の魔王の中でも、特に賢人と語られるお方。その方らにとっても、これ以上心強い味方はいないであろう】
私やツギル兄ちゃんはゼロラージャさんの少し後ろで、ユーメイトさんや魔槍さんと一緒になって待機。話題の中心にはいるけど、ゼロラージャさんが色々代弁してくれるから助かる。
私だって、こんなにたくさんの魔物さんの前でどう話せばいいのか分かんない。普通の人前ですら分かんないのに。
「うむ。同胞の士気は上々であるか。これならば、我が離れている間も問題あるまい。……ミラリアにツギル。ウヌらには我と一緒にある場所へ来てもらう。そここそ、楽園やエステナのさらに深い歴史が眠る地ぞ」
【再び楽園を目指すにしても、同じルートとはいかないか。とはいえ、回り道もある意味慣れたものか】
「うん。むしろ、回り道してでも確かめなきゃいけないことだってある。きっと、これが一番の近道」
少しするとゼロラージャさんもこちらへ向き直り、今後の話を確認するように語ってくれる。
昨日も話してくれた『楽園やエステナの一番最初の歴史』が眠ると言われる場所。そこへ行けば、結界で守られた楽園へ侵入する手段だって見えるかもしれない。
スペリアス様もゼロラージャさんも、その場所だけは理解してる。だけどどういうわけか、明確な何かを調べることはできなかった。
ただ、今回は私がいる。エステナに連なる私の存在ならば、楽園を覗き見れたように何か分かるかもしれない。
――腰にはツギル兄ちゃんの魔剣だけでなく、スペリアス様の遺した刀だってある。チャキリと位置を整えて、心構えは万全だ。
「おお、そうだ。この機会故、ウヌも魔王軍に何か申してみよ。士気の向上などと深いことは考えずともよい。思いのまま語ってみよ」
「ふ、ふえっ!? わ、私がさっきのゼロラージャさんみたいに!?」
ただ、大勢の前での演説をやらせるのは勘弁してほしい。せっかくアホ毛までピンと気合満々だったのに、思わずビクビク震えちゃう。
しかも相手は魔王軍。ゼロラージャさんは適当でいいって言ってくれるけど、それを踏まえても何を言えばいいのか分かんない。
昨日のご飯の感想? それともベッドの寝心地? アホ毛のポリシー?
「まさか、これまでにも交戦した少女がエステナの化身だったとはナ……」
「ナレバ、カノ少女ハ神カ? ゼロラージャ様デモ従ウ程ノ?」
「ソウナルカ……。神ニ挑ムニモ、神ニ従ウシカナイカ……」
「……むう。不満」
ただ、物申したいことは少し出てきた。魔王軍のみんなには、私の気持ちが詳細に伝わってないみたい。
ちょっぴり聞こえた言葉でアホ毛も怒りでピクピク。促されることなくゼロラージャさんより前へ出て、高台からみんなの顔を見下ろす形となる。
なんだか、偉そうになった気分。でも、私は偉くない。ましてや神様ですらない。
「みんな、聞いてほしい。まず、私は神様じゃない。エステナから生まれたのは事実だけど、れっきとした人間。そして、あなた達のことも同じだと思ってる」
「我ら魔王軍は魔物だゾ? 人間ではないゾ?」
「一般的な分類としては。でも、私の中での人間って『言葉を交わしながらその時を生きてる生き物』のことだと考えてる。もっと言えば『苦しくても明日のために生きてる生き物』の間に、余計な分別なんて不要とも考えてる」
少しの反論もあるけど、魔王軍のみんなはおとなしく私の声を聞き入れてくれる。背後でゼロラージャさんが睨みを利かせてくれてるのもあるのだろう。
魔王の威を借りるけど、言いたいことは言わせてもらおう。自分でも似合わない難しい話っぽいけど、言いたいこと自体はシンプルだ。
「生き物は生きるために狩りだってする。考えの違いで争いだってする。ただ、それらはみんなが『必死に生きてる証』でもある。私だって、いがみ合うのは嫌。……でも『痛みを知った生き物』だからこそ、築ける未来だってある。私はただ……それを否定する楽園の存在が嫌い。みんなが頑張って生きてる世界を脅かすエステナが嫌い」
「神ではなく、人としてそれを語るト……?」
「そう。私も難しいことなんて分からないし、もっと先のことなんて何も言えない。楽園がなくなった後、魔王軍がどうするかを止める権利もない。……ただ、今は力を貸してほしい。みんなの世界の未来を守るため、私という人間に少しでも。……お願いします」
最終的にお辞儀をペコリで締めくくって、言いたいことは言えたと思う。要するに『私は人間』ってことと『力を貸してほしい』ってことが大事。
どれだけ命を奪い合うことがあっても、それは進化や生命のレールに沿っての話。私だって魔物さんをご飯にすることはあるし、魔物さんだって人間を襲うことはある。
でも、それは世界の道理。誰かに従うのではなく、生きるために必要なことを求めた結果。残酷に見える話でも、私はそういった世界を守りたい。
――それらを少しでも納得した上で力になってほしい。私にみんなを従える気なんてない。
「……考エサセラレルナ」
「グルルルゥ……」
「……ふむ。我もついでで提案したが、中々に面白い話が聞けたぞ。魔王軍のことは安心せよ。こうして考えることもまた、成長や進化に必要なことぞ」
少し士気を下げちゃった気もするけど、魔王であるゼロラージャさんは気にしてない。むしろ、どこかご満悦な様子。
いずれにせよ、私にはみんなの上に立つ器はない。旅の剣客ミラリアであればそれでいい。何より、大事な目的はもっと別にある。
「語らいもここまでとするぞ。……ドラララァ! さあ、ミラリアよ。ツギルと共に、我の背に乗るがよい」
「転生魔竜の姿……! もしかして、古代人の遺跡って空を飛ばないと行けない場所なの?」
「左様だ。なんだ? 空を舞うのは怖いか?」
「ううん。むしろ楽しそう」
【ミラリアは変なところで肝が据わってるよな……】
「魔王軍のことは私にお任せを。この冥途将ユーメイトがまとめておきます」
ちょっとした演説も切り上げ、ユーメイトさん達魔王軍に見送られながらゼロラージャさんの背中へ。転生魔竜で空を飛んで、目指すはエステナを作った古代人の遺跡。
私の旅は魔界から再び始まる。その第一歩はドラゴンの背中でお空の旅。
今回は戦うための旅だけど、スペリアス様も信じた魔王軍だって一緒にいてくれる。ビクビク怯えることはない。
――この世界を守るため、さらなる旅の果てを目指して。
戦うための仲間も加わり、旅は大空へ。




