少女は魔剣と共に再び楽園を目指す
転生魔竜ゼロラージャ撃破。
これにて、最強の協力者へ力は示せた。
「ぬぐぅ……よもや、我がここまで手酷くやられるとは……。ドラララ、人間の可能性とは侮れぬものよ……。我も満足ぞ……」
トドメとなった昇竜理閃も完全に決まり、ゼロラージャさんの力も抜けていく。
その影響なのか、姿もドラゴンから元の人型へ戻っていく。ゼロラージャさんも満足そうに語りながら、己の敗北を認めてくれる。
大変だったけど、こうやってスッキリした勝ち方が一番いい。乗り越えるための戦いなら、全力を尽くした結果を手にしたい。
「……で? ウヌらは何故立ち上がらぬ?」
「……ごめんなさい。疲れが限界。動けない」
【こ、これは乱用できる能力じゃないな……】
「敗れた我より疲労困憊ではないか……」
なお、私とツギル兄ちゃんも元に戻った。ツギル兄ちゃんの声は再び魔剣から聞こえるし、アホ毛や体に慣れた感覚も戻ってる。
ただ、過剰に消耗したせいで全く動けない。起き上がることもできず、床の上で大の字に寝そべるばかり。
力と覚悟を示すためだったとはいえ、こうも反動が大きいとリスクが上回る。ツギル兄ちゃんもヘトヘトだし、普段から使うわけにはいきそうにない。
――やっぱり、凄い力には相応のリスクがある。世の中ってそんなものなのだろう。
「まあ、よかろう。今は休め。疲労は回復魔法で取り除けぬからな」
「……それって『苦痛という感情そのもの』を取り除くのと同じになるから?」
「別に我も禁忌としているわけではない。単純にそういった術を知らぬだけだ。……知っていたとしても、あまり使えたものではないか」
都合よくいかないのは、楽園や闇瘴の関係についても同じこと。楽園から吐き出された苦痛はエステナへ蓄積するも、さらに溢れた分は闇瘴として世界へ広がってる。
誰かが楽をしたところで、別の誰かが被害を受ける。その誰かは人だけでなく、世界のいろんなものが対象となる。
だから世界はバランスが取れてる。逆に楽園は不都合を吐き出すばかりで、バランスが崩壊してるとでも言うべきか。
スペリアス様もそれを知ったからこそ、楽園の存在を不要と判断したのがよく分かる。
「むう……動けないし疲れてるけど、意識自体はハッキリしてる」
【疲れ方にしたって、かなり普通とは異なるからな。俺も会話ぐらいが限界で、とても動けそうにない】
「普段から動けないじゃん。カミヤスさんみたいに一人で飛んだりできないの?」
【あれはあいつがタケトンボに宿ってるからできるんだろ、多分。ユーメイトさんの魔槍だって一人では動けないし、俺もそういうタイプのツクモなんだよ、きっと】
「『多分』とか『きっと』とか、凄く曖昧……」
少しの間休む時間ももらえたし、ツギル兄ちゃんと一緒に寝っ転がって他愛ないお喋り。ここまでが唐突の連続だったから、息を抜けるタイミングが愛おしい。
スペリアス様との別れは今だって悲しい。でも、嘆いて立ち止まることをスペリアス様は望んでない。
遺され託された娘としてやるべきこともある。同時に、いつまでもクヨクヨしてる姿を晒してると、天国のスペリアス様だっていい気はしないだろう。
――だからこうした語らいは、これまで通り前へ進むためのちょっとしたアクセントだ。
「……ツギル兄ちゃん、これからもよろしく。スペリアス様の願いってだけじゃない。エステナの一部である私としても、このまま楽園の力で世界が壊れちゃうのは嫌」
【……今更分かりきったことを尋ねるな。俺はお前の兄貴だ。血も種族も関係ない。妹が頼ってくれるなら、兄として力になるまでだ】
「……ありがとう。それだけは言わせてほしい」
恥ずかしいってのもあるから、あんまり長々とは伝えられない。でも、伝えないと気が済まない。
これまで通り頼れることを、これからもお願いする。ツギル兄ちゃんが何者であろうとも、私にとっては大事な家族でお兄ちゃん。
――そうした人が傍にいてくれるってことが、私にとって何よりも心強い。
「まだ動けぬようだが、少し語らう気力はあるか。なれば、これを授かっておけ。ウヌにとっても大事なものぞ」
「ふえ? ゼロラージャさん、何をくれるの?」
ちょっぴり兄妹二人で話をしてたら、ゼロラージャさんがボロボロの玉座の間へ戻って来た。
一度離れてたみたいだけど、多分壊れた玉座の間を修理する話でもしてたのだろう。ただ、それだけでもないみたい。
重い体を頑張って起こすと、その手には何かが握られてる。私へ手渡してくれるけど、何だろうか?
「ッ……!? こ、これって……スアリさんが使ってた刀……!?」
「二刀の内の一刀ぞ。もう一刀はスペリアスの墓標代わりとするつもりだ。ウヌの了承も必要と思っておるが、構わぬか?」
「……うん、ありがとう。それでお願い。こっちの一刀は……わ、私が譲り受けるから……!」
その正体は一目見て理解した。私にだって見覚えがある。
スペリアス様がスアリさんとして接触してた時、いつも腰に携えてた二本の刀の一本。理刀流の二刀流で私を助けてくれたことも、今となっては懐かしい。
あれとかも全部、本当はスペリアス様が守ってくれてたんだ。そう考えると、また目頭が熱くなって感情が溢れてくる。
ゼロラージャさんがもう一本を墓標にしてくれるのもありがたい。やっぱり、スペリアス様が認めた人なだけはある。
「スペリアスの亡骸についても、本来ならば魔界より適した場所へ埋葬するべきであろうぞ。かの者が憧れて生きた人世こそ相応しいが、今はそうもいかぬのでな。ウヌら兄妹も理解願う」
【……いえ、十分ですよ。俺からも感謝します】
「スペリアス様ぁ……! わ、私……必ず成し遂げるからぁ……! うああぁ……!」
これから本当の意味での戦いが始まる。まだまだ先だって見えないけど、頼れる人は確かにいる。スペリアス様が託した人達が、私の支えになってくれる。
私だって守りたい。これまでの旅で出会ったいろんな人達が生きるこの世界を。苦しくても明るく生きられる居場所を。
スペリアス様と私の願い。それを成し得るためにも、泣くのは今で終わりにしたい。
――私は魔剣と共に再び楽園を目指す。今度はその地も神も打ち砕くために。
神の化身たる少女は神が創りし楽園を破壊するため、兄である魔剣と共に楽園を目指す。




