◆転生魔竜ゼロラージャⅤ
タイムリミットは近い!
最後の時まで魔王に示せ!
「ウヌらもあまり長続きはせぬようだな。ここで時間を稼げば我の勝利だが、かような勝利は勝利と呼べぬ! 我は魔王! 王として、この死闘に相応しき幕引きを見せてくれようぞぉおお!!」
こっちがあんまりもたないのはゼロラージャさんも把握してる。その上で長期決戦ではなく、短期決戦をあえて選んでくる。
この人の目的はあくまで私達を試すこと。楽園やエステナに挑む覚悟があるかを見極めること。
合理的な選択でもあるし、こっちとしても助かる。ゼロラージャさんを納得させるだけの力を示すには、純粋に時間が足りない。
――ゼロラージャさんにも感謝する。私だって、まだ力の全てを発揮できてない。
「加減はせぬ! それでも超えると期待しよう! 消えてくれるな……無還吐息!!」
ギュゴォォオオオンッ!!
「ツギル兄ちゃん! 今から接近戦で決める! 覚悟してて!」
【任せろ! 魔王との決着が着くまで、俺だって耐えきってやるさ!】
最後の攻防における狼煙のように放たれる無還吐息。魔剣の居合で斬り裂き、中央を全速力で駆け抜ける。
ここまでの動きはゼロラージャさんだって予測済みのはず。狙いは私を近寄らせて一気に勝負に出ることと見た。
ならばこちらもそれに乗るまで。溢れる力が体に負担を与えるけど、関係なしに一ヶ所にだけ目を向ける。
「期待通りの動き、感服ぞ! 歴代の魔王から続く記憶の中でも、ウヌほどの相手は存在せぬ!」
「それは私の存在が特別だから!? あなたの眼には、私が何に映ってるの!?」
「無論、人間よ! 愛しき母の想いと自らの想いを重ね、我の先を目指して進化する人間よぉぉおお!!」
「その言葉、凄く嬉しい! でも、勝負は別! 私達が勝つ!」
狙うはゼロラージャさんのみ。目指す途中で声をかけられ、素直な気持ちを返しておく。
多分、人間でも魔王とここまで戦った人なんていない気がする。そういった歴史は旅の中でも聞いたことがない。
だから、ちょっとだけ不安にもなってた。転生魔竜なんて力を解放したゼロラージャさんとここまで渡り合う私って、本当に人間なのかなって。
私は女神と呼ばれしエステナから零れ落ちた自我。言うなれば、分類上は神様に近い。
――でも、私は人間って認めてもらえた。その気持ちも力となって身を滾らせる。
ブォォオオンッ!!
「また尻尾――違う! 本命は爪!」
「よくぞ見抜いた! ウヌほどの相手となれば、我も昂らずにはいられまい! 強者との死闘こそ、魔王が本懐ぞ!」
【その気持ちはありがたいが、語ってる余裕はそっちにもないだろ!? ミラリアァァア! お前には見えてるよなぁぁあ!!】
ツギル兄ちゃんと意識も一緒にさせたから、お互いの思考も共有できてるみたい。昂るゼロラージャさんの懐まで潜り込んで攻撃を掻い潜れば、勝利への糸口も見えてくる。
ゼロラージャさんの振り下ろした右手の爪を寸前で回避。爪を振り抜いたことで、わずかに体の返しが遅れた部分も見える。
狙うはドラゴンの姿をした顎。いくら最強と言っても、生物は生物。顎への攻撃は十分な決定打となる。
そう考えた時には体が先に動き、魔剣を構えながら――
ブオォォオンッ!!
「うぐぅ!? な、何!? 体が……浮き上がった!? ま、魔剣も……!?」
【つ、翼だ! 魔王の奴、翼でこっちを打ち上げてきたぞ!?】
――トドメの震斬を放とうとするも、私の体はあらぬ方向へ吹き飛んでしまう。
さっきまでゼロラージャさんの懐にいたのに、気が付けば無防備な体勢で宙を舞ってる。あまりに唐突なことだったから、魔剣の柄も手放してしまう。
今は私に宿ってるツギル兄ちゃんだけど、本来の体は魔剣のまま。簡単に手放していいはずがないのに不覚を取ったか。
「ドォォラララァァァア! 二人の力を合わせたのは見事! だが、歴代の魔王が辿った進化には及ばぬか! されど十分! 此度の戦いは我の勝利をもってして、幕引きとしてくれようぞぉぉおお!!」
宙に舞いながら脱力し、下からはゼロラージャさんの勝利宣言も聞こえてくる。お口を開いてこっちを待ち構えてるけど、無還吐息で攻撃するわけではないみたい。
ゼロラージャさんはすでに私達を認めてくれた。この戦いの意味はすでに完結した。あのお口はあくまで勝負の終焉として、私をキャッチするのが狙いだろう。
本当に疲れたけど、これでいいのだろう。ゼロラージャさんが納得してくれるなら、ここで負けてしまっても――
「いいはず……ない! 私はまだ……戦える! 魔剣よ! 戻ってきて!」
クンッ
「ッ!? 魔剣を引き寄せたとな!? まだやるつもりか!?」
――やっぱり嫌。だって、私はまだ戦えるもん。
この勝負はゼロラージャさんによる試練であり、試練は全てを出し切ってこそ。スペリアス様との修業でもそうだった。
余力を残して勝ちを譲るなんて真似はしたくない。まだ見せてない技だってある。
吹き飛ばされた魔剣にしたって、足首に仕込んだマジックアイテムで引き寄せることは可能。勝負はまだついてない。
「右足首接着! 蹴波理閃!!」
ズパァンッ!
【おお!? スーサイドで使った技か!】
「ド、ドラララァ……! 足掻いてくれるものぞ……!」
私独自で開発した『蹴りの斬撃』である蹴波理閃。勝ちを確信して油断したのか、ゼロラージャさんのお口へ確かにヒット。
威力自体は大したことないから、これで逆転とはいかない。それでも空中で体勢を立て直し、魔剣を握り直すこともできた。
【よく立て直したな! だが、空中じゃ自由に動けないままか!?】
「なら、揚力魔法の――」
【いや待て! 今のミラリアなら、もっと素早く地上へ着地できるはずだ!】
「ッ!? そうか! 理解した!」
ここからの反撃だけど、いつもなら揚力魔法を足場に動きを切り替える。だけど、それはゼロラージャさんに読めれる可能性が高い。
全部を話さずとも意思疎通し、ツギル兄ちゃんの作戦も理解できた。今の私ならば、戦いの最中でも使えるはず。
二人で一つとなったことによる最大のメリットは速度の向上。反応速度だけでなく、展開速度も大幅に上がってる。
だから、普段は移動でしか使えないあの魔法にしても――
「挑んでくるならば、我もまだまだ相手をして――」
キンッ――ヒュン!
「ッ!? き、消えただと!? まさか……転移魔法を!? この緊迫の最中で!?」
――扱うことは可能。転移魔法を即座に発動させ、ゼロラージャさんの頭上から場所を移す。
やっぱり、ゼロラージャさんもこっちの動きに反応してた。上を取るより、もっと確実な方法は別に存在する。
「これで……おしまい!!」
「下か!? 我をここまで動揺させるとは!?」
今度こそゼロラージャさんは反応できない。完全な隙はここにしかない。
懐へ再度潜り込んだ時には、正真正銘トドメの一閃だって準備できた。もう油断もしない。これが本当の最後。
――魔剣に揚力魔法と火炎魔法を付与させたドラゴンの如きこの一閃こそ、トドメの一撃に相応しい。
「昇竜……理閃!!」
ドグパァァァアアンッッ!!
「ド……ドラララァ……! 見事……なり……!」
これまでの技も盛り込み、ついに掴んだ完全勝利。




