◆転生魔竜ゼロラージャⅢ
魔王という個として最強の進化を遂げた相手に挑むには、一人だけではどうにもならない。
【……魔王さん。悪いんだが、少しだけ時間をもらえないか? あんただってただ蹂躙して勝利するのが目的じゃないだろ?】
「……よかろう。だが、長くは待てぬ。この姿となった我は、受け継がれた闘争本能も前面に押し出してる故な」
ツギル兄ちゃんは何か作戦を思いついてくれたらしく、ゼロラージャさんに進言して少しだけ猶予をもらう。ゼロラージャさんも一応は了承してくれた。
この戦いの目的は私とツギル兄ちゃんを推し測ること。私達にさらなる先があるならば、ゼロラージャさんも興味を示してくれるが故の猶予か。
【ミラリア、聞いてくれ。魔王ゼロラージャの強大な力は、ドラゴンの肉体が根底じゃない。何より恐ろしいのは、代々の魔王から転生で受け継がれてきた経験と進化。それがあるから、どんな攻撃にも即座に対応できる】
「うん、それは分かってる。とてもじゃないけど、私じゃ追いつけない。次元が違いすぎる」
与えてもらった時間、魔剣を眼前に掲げて言葉を交わしていく。何を恐れるべきかという点においては、私も危惧してた通りの内容だ。
生物として頂点にあるドラゴンの肉体も、これまで続いた進化の結果に過ぎない。経験という進化の布石がゼロラージャさんをここまで強くしてる。
私みたいな子供じゃ追いつけない。時間の流れだけは誰にも越えられない。
――仮に私がエステナに連なる神様であっても、越えられない壁がここにある。
【確かに、ミラリア一人じゃ越えようがないな。だが『ミラリアだけ』じゃ無理でも『俺とミラリアが一緒』ならどうだ? ……魔剣に宿った力も魂も、全部ミラリアに取り込ませれば……?】
「私とツギル兄ちゃんが……一つに……?」
その壁を打ち破る方法は、私にとってあまりに予想外なもの。ただ、原理としては理解できなくもない。
ゼロラージャさんはいくつもの生を受け継いで転生してるけど、あくまで一人だけの存在。でも、こっちは私とツギル兄ちゃんで二人いる。
意志の宿った魔剣に振るい手。これまでも二人一緒で乗り越えてきたけど、意志は別々に持っていた。
――その二つを足し合わせて合体した場合、そこに生まれるのは転生にも対抗しうる無限の可能性と言えよう。
【本来の俺はツクモだ。自分以外の何かに宿って肉体を形成してる。かつてカムアーチでセアレド・エゴがシード卿に乗り移ったのを覚えてるか? あいつと同じようにできれば、勝機だって見えるかもしれない……が……】
「見えるかもしれないが……何?」
【こんなことは俺も初めてやる。結果なんてまるで見えない。下手をすれば当時のシード卿のように、ミラリアの意識を乗っ取って暴走する恐れもある。……正直、やるにしても気が引ける】
「……なんだ、そんなことか。ツギル兄ちゃんはつくづく心配性」
ツクモの能力があれば、ツギル兄ちゃんが私の肉体へ入り込むことも可能。この理論を実現できるピースは揃ってる。
ただ、語ってくれるツギル兄ちゃんの口は重い。相応のリスクがあることだって分かる。
――でも、それはちょっぴり愚門というもの。
「私はツギル兄ちゃんを信じてここまで来た。今だって信じてる。……ここを越えないと、目指すべき目的に届かない。だから……お願い!」
【……分かった! 本当に一か八かだが、俺だってミラリアを信じてる! 必ず二人で魔王に目に物言わせてやるぞ!】
覚悟なんてとっくにできてる。ツギル兄ちゃんの意識を私へ潜り込ませることが勝機ならば、頼る以外の選択肢はない。
怖いことは怖い。でも、初めてやることが怖いのは当たり前。ただ、それ以上に信じたいってだけ。
――ツギル兄ちゃんと共に歩んできたこの道のりを。その果てに見出した可能性を。
「魔剣解放! 今こそ……力を一つにする!」
【覚悟してな、魔王さん! 俺達スペリアス様の子供達による、未来を掴むための力を!】
「……ドラララ、よかろう。ウヌらの想い、我も見たくて仕方がないわ!」
やり方も自然と理解できる。これまで共に歩んだ経験が教えてくれる。
魔剣に宿った力も魂も、全て私の内側へ入り込むように念じる。眼前に横向きに構え、ゆっくりと刀身を引き出してから素早く納刀。
普段と同じく、居合の動きが火打石のように能力を発動させる。ツギル兄ちゃんもそれに合わせ、魔力の流れを変えて対応してくれる。
スゥゥ――キィィィイインッ!!
「こ、これは……!? 魔力が――いや、魂の流れが我にも響く!? 見たことがない……!? このような力は……進化の歴史の中にさえ……!?」
おとなしく見守ってくれてたゼロラージャさんも、こっちの様子を見て驚愕の声を零してくる。
これまでの居合による魔法詠唱とは違う。光が身を包み、内側へ入り込んでくる感触が全てを理解させる。
魔力を貸してもらうわけじゃない。力の全てを――魂そのものを、今度は魔剣から私の体内へ入り込ませてくる。
――私とツギル兄ちゃんの力が、今本当の意味で一つとなる。
「……フゥ……ハァ、ハァ……! 上手く……いった……? 凄い力が溢れてくる……!」
光が収まれば、ドッとのしかかるような疲労感。だけど、確かな力が身に宿るのも感じる不思議な感覚。
元々が魔術師でもあったツギル兄ちゃんの膨大な魔力だけでなく、意識に至るすべてが私の体へ取り込まれたんだ。食べ過ぎてお腹いっぱいみたいな状況なのだろう。
「ツ、ツギル兄ちゃん……意識はある? 言葉、話せる?」
【うぅ、ぐぅ……! あ、ああ……なんとかな……。一人の体に二人分入り込んだんだ。無茶がかかるのは当然だろう】
「意識があるならそれでいい。……ただ、今のツギル兄ちゃんって私のどの辺にいるの?」
【あ、ああ……そのことか。俺も確認して――って、おいおい……。ここってまさか……?】
「ふえ? どうかしたの?」
後気になるのは、ツギル兄ちゃんの意識が私のどこにあるのかってこと。一つの体に入り込んだとはいえ、ツギル兄ちゃんの意識は私のどこか一部にあると思われる。ベースは私だし。
一応、そこの確認はしておきたい。でも、なんだか変な場所に宿ってたりするのかな?
胸? お尻? お腹の中?
【ここ……お前のアホ毛じゃないか……】
「ふえっ!? わ、私の自慢のアホ毛がツギル兄ちゃんに!?」
どこに乗り移っとんねん。(当人達はいたって真面目です)




