神から生まれた少女は、魔王との邂逅へ
新章。ここからがある意味本番。
スペリアス様が亡くなってから、どれぐらいの時間が過ぎたかも分からない。でも、いつまでもってわけにはいかない。
私とツギル兄ちゃんにはやることがある。まだまだ名残惜しいけど、スペリアス様の遺体を室内にそっと横たえて部屋を出る。
まず最初に向かうべき場所については、スペリアス様が示してくれた。
「随分と悲しみに暮れていたようですね。もう少し休まれていてもよろしいのでは?」
「ううん、大丈夫。平気とは言えないけど、スペリアス様も望んだ願いがある。だから、早くゼロラージャさんに会わせて」
「……かしこまりました。スペリアス様の亡骸については、魔王軍なりに丁重に弔いましょう。あのお方については、ゼロラージャ様の大切な客人でもありましたので」
部屋を出ると待っててくれたユーメイトさんに案内され、魔王城の廊下を後ろからテコテコついていく。この人も大まかな事情は知ってたみたい。
ただ、あくまで『少し聞かされてた』ってだけ。私の正体についても詳細は知らなかったらしく、スペリアス様以上の話は聞けない。
――やっぱり、ゼロラージャさんに直接聞くしかない。魔王がどうスペリアス様と関わってたのかも含めてだ。
【魔剣の兄よ。おぬしも自らの正体に納得できたか?】
【まあ……一応は。やっぱり、俺もあんたと同じだったってことか。……衝撃的ではあるが、何よりミラリアへの申し訳が立たないな】
「ふえ? 私に? どうして?」
ユーメイトさんに握られた魔槍さんも会話に加わるけど、ツギル兄ちゃんの言葉がちょっぴり気になる。
口調だって凄く申し訳なさそう。むしろ、ツギル兄ちゃん自身が一番ショックなはず。私とか関係ない。
【だってさ……俺って今までずっと、ミラリアのことを騙してたわけだろ? 人の姿もデプトロイドの紛い物だったし、申し訳が立たないというか……】
「なんだ、そんなことか。正直、くだらない」
【く、くだらないって何だよ!? お、俺は真剣なんだぞ!?】
何かと思って聞いてみれば、思ったほど深刻なことでもなかった。
確かに聞かされたときに驚きはした。でも、よくよく考えればそこまで大したことでもない。
「私だって、元をただせばエステナの一部。ツギル兄ちゃんよりよっぽど変な生まれ。だけど、私もツギル兄ちゃんも『人間であること』に変わりはない。スペリアス様だってそう言ってた」
【そ、それってつまり……単純に『気にしてない』ってことか?】
「そういうこと。姿形なんかじゃない。大切なのは私達が『人間の家族』ってこと。それ以上でも以下でもない」
【……フフッ。ああ、そうだな。まさか、妹のお前に教わる日が来るとはな】
「教えるついでにもう一つ。今のツギル兄ちゃんは魔剣だから、どうあがいても『真剣』になる」
【……いや、今のはいるか? 変な水差すなよ……】
私はツギル兄ちゃんの妹で、ツギル兄ちゃんは頼れるお兄ちゃん。この事実だけは変わらない。
元から血も繋がってなかったし、今更生まれが全然違っても気にすることでもない。ただ、一つだけ気にすることがある。
ツギル兄ちゃんって、最初から私を守ってくれるためにお兄ちゃんになってくれた。本人は無意識だったけど。
今の魔剣の姿にしても『私を守るための最終手段』って側面があった。本人も自分がツクモだってことは知らなかったのに、私を守ることは前向きに受け入れてくれた。
多分、世界中どこを探してもこれ以上のお兄ちゃんはいない。姿を変えてまで守ってくれるなんて、普通じゃありえないと思う。
だからツギル兄ちゃんには感謝してる。言葉にするよりもずっと。
――恥ずかしいから直接は言えないけど。
「ご兄妹での談笑もよろしいですが、そろそろ静粛に願います」
【ここから先は魔王城玉座の間ぞ。我らが主、魔王ゼロラージャ様がお待ちかねだ】
「……分かった。覚悟も決めてる。こっちだって話を聞きたい」
そうこうしてる間に辿り着いたるは、これまでよりも大きくて立派な扉の前。エステナの触角を模したアホ毛越しにも、かつてのような威圧感が伝わってくる。
この扉の先に魔王のゼロラージャさんがいる。スペリアス様とも裏で繋がり、これから先を握る重大な人。
どうして魔王なんて人がこんな役目を担ってるのかも知らない。そこも含めて語ってもらわないことには、私だって信じ切れない。
――前へ進むという覚悟だけは決まってる。この邂逅もまた通過点だ。
「ドラララ……! ついにここまで辿り着いたか。顔を合わせるのは久方ぶりぞ。……旅の剣客にしてスペリアスの娘、ミラリアよ。いや『女神エステナの分身』とでも語ればよいか?」
「そういう冗談はいらない。ただ、あなたも何かを知ってるってことだけは、今の言葉でも理解できる。……ゼロラージャさん」
最初に直面するのは、タタラエッジ以来の魔王ゼロラージャ。




