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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
少女と魔剣の旅は遥かなる地から再び
370/503

神から生まれた少女は、魔王との邂逅へ

新章。ここからがある意味本番。

 スペリアス様が亡くなってから、どれぐらいの時間が過ぎたかも分からない。でも、いつまでもってわけにはいかない。

 私とツギル兄ちゃんにはやることがある。まだまだ名残惜しいけど、スペリアス様の遺体を室内にそっと横たえて部屋を出る。

 まず最初に向かうべき場所については、スペリアス様が示してくれた。


「随分と悲しみに暮れていたようですね。もう少し休まれていてもよろしいのでは?」

「ううん、大丈夫。平気とは言えないけど、スペリアス様も望んだ願いがある。だから、早くゼロラージャさんに会わせて」

「……かしこまりました。スペリアス様の亡骸については、魔王軍なりに丁重に弔いましょう。あのお方については、ゼロラージャ様の大切な客人でもありましたので」


 部屋を出ると待っててくれたユーメイトさんに案内され、魔王城の廊下を後ろからテコテコついていく。この人も大まかな事情は知ってたみたい。

 ただ、あくまで『少し聞かされてた』ってだけ。私の正体についても詳細は知らなかったらしく、スペリアス様以上の話は聞けない。


 ――やっぱり、ゼロラージャさんに直接聞くしかない。魔王がどうスペリアス様と関わってたのかも含めてだ。


【魔剣の兄よ。おぬしも自らの正体に納得できたか?】

【まあ……一応は。やっぱり、俺もあんたと同じだったってことか。……衝撃的ではあるが、何よりミラリアへの申し訳が立たないな】

「ふえ? 私に? どうして?」


 ユーメイトさんに握られた魔槍さんも会話に加わるけど、ツギル兄ちゃんの言葉がちょっぴり気になる。

 口調だって凄く申し訳なさそう。むしろ、ツギル兄ちゃん自身が一番ショックなはず。私とか関係ない。


【だってさ……俺って今までずっと、ミラリアのことを騙してたわけだろ? 人の姿もデプトロイドの紛い物だったし、申し訳が立たないというか……】

「なんだ、そんなことか。正直、くだらない」

【く、くだらないって何だよ!? お、俺は真剣なんだぞ!?】


 何かと思って聞いてみれば、思ったほど深刻なことでもなかった。

 確かに聞かされたときに驚きはした。でも、よくよく考えればそこまで大したことでもない。


「私だって、元をただせばエステナの一部。ツギル兄ちゃんよりよっぽど変な生まれ。だけど、私もツギル兄ちゃんも『人間であること』に変わりはない。スペリアス様だってそう言ってた」

【そ、それってつまり……単純に『気にしてない』ってことか?】

「そういうこと。姿形なんかじゃない。大切なのは私達が『人間の家族』ってこと。それ以上でも以下でもない」

【……フフッ。ああ、そうだな。まさか、妹のお前に教わる日が来るとはな】

「教えるついでにもう一つ。今のツギル兄ちゃんは魔剣だから、どうあがいても『真剣』になる」

【……いや、今のはいるか? 変な水差すなよ……】


 私はツギル兄ちゃんの妹で、ツギル兄ちゃんは頼れるお兄ちゃん。この事実だけは変わらない。

 元から血も繋がってなかったし、今更生まれが全然違っても気にすることでもない。ただ、一つだけ気にすることがある。


 ツギル兄ちゃんって、最初から私を守ってくれるためにお兄ちゃんになってくれた。本人は無意識だったけど。

 今の魔剣の姿にしても『私を守るための最終手段』って側面があった。本人も自分がツクモだってことは知らなかったのに、私を守ることは前向きに受け入れてくれた。

 多分、世界中どこを探してもこれ以上のお兄ちゃんはいない。姿を変えてまで守ってくれるなんて、普通じゃありえないと思う。

 だからツギル兄ちゃんには感謝してる。言葉にするよりもずっと。


 ――恥ずかしいから直接は言えないけど。


「ご兄妹での談笑もよろしいですが、そろそろ静粛に願います」

【ここから先は魔王城玉座の間ぞ。我らが主、魔王ゼロラージャ様がお待ちかねだ】

「……分かった。覚悟も決めてる。こっちだって話を聞きたい」


 そうこうしてる間に辿り着いたるは、これまでよりも大きくて立派な扉の前。エステナの触角を模したアホ毛越しにも、かつてのような威圧感が伝わってくる。

 この扉の先に魔王のゼロラージャさんがいる。スペリアス様とも裏で繋がり、これから先を握る重大な人。

 どうして魔王なんて人がこんな役目を担ってるのかも知らない。そこも含めて語ってもらわないことには、私だって信じ切れない。


 ――前へ進むという覚悟だけは決まってる。この邂逅もまた通過点だ。




「ドラララ……! ついにここまで辿り着いたか。顔を合わせるのは久方ぶりぞ。……旅の剣客にしてスペリアスの娘、ミラリアよ。いや『女神エステナの分身』とでも語ればよいか?」

「そういう冗談はいらない。ただ、あなたも何かを知ってるってことだけは、今の言葉でも理解できる。……ゼロラージャさん」

最初に直面するのは、タタラエッジ以来の魔王ゼロラージャ。

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