{スペリアスのその後}
三人称視点
この章はここまでで、少しスペリアスのその後を。
◇ ◇ ◇
「久しいのう……。邪魔させてもらうぞ……」
「ウヌか、スペリアス。こうして顔を合わせるのは何年振りか知らぬが、随分と手酷い姿だな」
「ワシも歳はとるのかのう……。それとも、育まれた文明の成果と言うべきか……」
エスカぺ村がディストール王国に焼かれた後、ミラリアとツギルが旅立った頃。魔女スペリアスはとある地に足を踏み入れていた。
地下深くに眠りし大地。陽の光も差さず、辺りに漂う黒い影。
そんなとても人が踏み入れるように見えない場所で、スペリアスは一人の大きな人影に出迎えられた。
「我の方でも報告は聞いておる。ウヌが居を構えていたエスカぺ村が、ディストール王国による襲撃で滅んだそうだな」
「ああ。イルフ人の賢者二人も殺され、残るはあの日の追放の元凶となったワシ一人じゃ。すまぬが、手当てを頼む。ゴホッ、ゴホッ!」
「状況は最悪とも言えようか。おい者ども、スペリアスの手当てを優先しろ」
先のエスカぺ村崩壊の際、スペリアスは辛くも生き延びることができた。自らの死を偽造し、ディストール王国の目を欺くこともできた。
だがそのため、迂闊に外で姿を見せることもできない。この場所はそんな状況でスペリアスが選んだ隠れ家でもあった。
場にいる者もスペリアスに味方し、ボロボロとなったその体を手当てし始める。
「これほどのダメージとなると、楽園の力を使ったこの体でも修復が追い付かぬわい……。じゃがせめて、ミラリア達の無事を確認するまでは……!」
「そのことだが、我の部下から新たな報告が入ってきた。なんでも、ディストール王国の王城で大規模な爆発があったそうだ」
「な、なんと!? ミ、ミラリアは!? ミラリア達は無事なのか!?」
「我が聞く限り、王城の爆発の場にはウヌの娘もいたそうだ。だが、忽然と姿を消したと報告に聞いている」
「さ、左様か……。ならば、ミラリアはひとまず無事なのじゃな……。おそらくはツギルの転移魔法であろう」
「ただ、逃げ出した人間は『剣で魔法を使う少女』一人だけとも聞いている。ウヌが守り人に選んだ息子の方は分からぬぞ」
「……いや、大丈夫じゃ。おそらく、ツギルは己の役目を果たしたのであろう。ワシの読みが正しければ、今度はミラリアの持つ御神刀に宿って魔剣となったか……」
手当てを受けながらもスペリアスが願うのは、ミラリアとツギルの所存。その姿はまさに我が子を心配する母の姿。
ただ、まるで見てない状況が見えていたかのように、スペリアスは運ばれたベッドの上で胸をなでおろす。
ミラリアの身に何があったのか? そのためにツギルがどのような行動をとったのか? そんなことはスペリアスにとって、少し考えれば分かる話であった。
「……それで、ウヌはどうするつもりぞ? 我とて、同胞と共に役目を背負っている。ウヌばかりにかまけてはいられぬ」
「それは分かっておる。ただ、ワシをここに匿ってくれればそれでよい。頼めるかのう?」
「その程度ならばよかろう。だが、かの少女がついに外界へ旅立つのか。封じていたセアレド・エゴも世に放たれ、世界は大きく動くであろうな」
「……ああ、そうじゃな。いよいよこの時が来てしまったか。ワシも共にいたかったが……大丈夫じゃ。ミラリアとツギルならば、必ずやワシの大願を成し得てくれる」
その先についても読めた話であり、事実スペリアスが残した手掛かりを元に二人の兄妹は旅立っている。
指し示した場所は人類にとっての楽園。そこに至るまでの過程も含め、スペリアスにはどうしても成し遂げたい目的があった。
ミラリアが世界をその眼で見て、その足で楽園に辿り着くこと。今できるのはそれを願うことだけ。
そこにはただの旅路だけでなく、ミラリア当人でさえ知らない思惑が眠る。
――それはいずれ、世界そのものを根底から覆す結果とも成りうる話となる。
「ミラリアよ……。どうかおぬしの手で、楽園を正しき結末へ導いてくれ……」
◇ ◇ ◇
「始まりの村と追及の王国」はここまでです。
よろしければ、応援やブクマをお願いいたします。




