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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
最果てに望みし楽園
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母親として生きた者は、我が子を真に愛するが故

もう余計な言葉も必要ない。

 部屋の机に置かれてたのは、イルカさんに乗せてもらう前に作ったミラリアスペシャル。海の水も使ったムギマイとトロトロが絡み合うアクセントが特徴的。

 塩気が少し強すぎたけど、スアリさんがお鍋ごと欲しがってくれた一品。そのスアリさんだって、正体はスペリアス様の操るデプトロイドだった。

 どうやらあの後、ミラリアスペシャルのお鍋だけは先に魔界へ送ってたみたい。


「スアリの肉体でも、味を疑似的に知ることはできる……。じゃが、ワシはどうしても直接食べてみたい……。ただ、もうまともに体を動かすこともできんくてのう……」

「……うぅ、ぐっす……分かった。スペリアス様はここで待ってて。ツギル兄ちゃん、スペリアス様の背もたれになれる? ……私、どうしてもミラリアスペシャルを食べてもらいたい……」

【……ああ、分かった。俺も覚悟を決めよう。……スペリアス様の願いを叶えてくれ】


 目的はスペリアス様が直接食べたかったから。私が作ったご飯をお母さんが求めたから。

 弱々しく願いを述べるスペリアス様を見れば、こっちだって食べてもらいたい気持ちが湧いてくる。同時に逃れようのない結末が迫ってることも理解するしかない。

 ならばせめて、お互いの最後の望みを叶えたい。ツギル兄ちゃんにはスペリアス様の背もたれ代わりになってもらい、食べやすい姿勢を維持してもらう。

 私も机からお鍋を持ってきて、スプーン片手に中身をすくい上げる。


「冷めてるから、美味しくないかも……」

「構わぬ……。ミラリアが旅の中で思いついた料理、是非ワシの口にも……」


 熱を出した私がそうしてもらったように、スペリアス様のお口へミラリアスペシャルを運ぶ。弱々しくて、まともにお口へ入れることさえ難しい。

 それでも頑張って噛みしめて味わうスペリアス様。これが最期のご飯だと覚悟を決めたように、深く深く味わってくれる。


「ああ……美味い。これ以上の飯は……これまで口にしたことがない……」

「で、でも、塩加減が強いし……」

「いいんじゃよ、それで……。本当に美味い飯とは、ただ味が良いわけではない……。ワシにとっては『ミラリアが作ってくれた』という事実だけで、お腹いっぱいじゃて……」

「ううぅ……うあぁぁ……!」


 スペリアス様が死ぬ運命は変えようがない。どれだけご飯で栄養を取っても、衰弱していく体は戻らない。

 どうしようもないなら、せめてスペリアス様に満足してほしい。そう考えてても、素直に受け入れられない。


 ――死という摂理を心が受け付けない。


「ミラリア……悲しむでない……。むしろ、ワシはおぬしに出会うことで、初めて『生まれた』と言えるのじゃ……。楽園で苦痛から逃れ、怠惰をむさぼる生など人に非ず……。ワ、ワシは……おぬしやツギルに出会えて……仮初でも母親という役割を……」

「仮初なんかじゃない……! 私にとって、スペリアス様は間違いなくお母さんだった……! 厳しくても優しくて……それが大切なことだって知って……嬉しくて……! うああぁぁ……!」


 それでも交わす言葉には、お互いの気持ちが隠れることなく含まれてる。こんな最後の最後に正直な気持ちを言えるなんて、人間って不器用だ。

 でもきっと、それも含めて人間という存在。単純な理屈だけで動かず、苦痛や苦悩で道を模索しながら生きている。


 ――だから私だって、ずっと模索する中で伝えたかった言葉を口にしたい。




「ス、スペリアス様……! 勝手にエスカぺ村を抜け出して……ワガママ言ってごめんなさい……! ごめんな……さいぃ……!」

「ミラリアが謝ることではない……。ワシこそ、ミラリアやツギルへ秘密ばかりですまんかった……!」

【ミラリア……スペリアス様……! く、くっそぉ……!】




 ずっと言いたかった『ごめんなさい』の言葉。この旅を続けられた最大の理由。

 ここでお別れだからこそ、どうしてもこの言葉だけは伝えないといけない。スペリアス様にもごめんなさいされ、ツギル兄ちゃんも後悔するように言葉を零す。


 ようやく揃った家族三人。その時間さえ、今この時まで。

 もう余計なことも考えられない。溢れる涙と感情でグチャグチャになりながらも、残された時間をみんなで抱き合って過ごす。


 ――ここにいる『三人の家族』という人間で。




「ミ、ミラリア……ツギル……。ワシはおぬしらという家族がいたからこそ……本当に幸せで――」


「……ス、スペリアス……様……?」

【時間……か……】




 抱きしめてたスペリアス様の体から力が抜け、手もポトリとベッドの上へ崩れ落ちる。

 顔を見てみれば、どこか安らかそうに眼を閉じてる。さっきまでの苦しみが嘘みたい。


 ――それこそ、ここまで全力で生き延びてくれたお母さんの証。とうとう、その時が来てしまった。


「スペリアス様……スペリアス様ぁ……!」

【俺達が何者でも……あなたこそが本当の母親で……!】


 スペリアス様はもういない。人としての魂はこの体から抜け落ちた。

 それでも必死に体へ抱き着き、まだ残った感情を絞り出す。


 これから私は再び、これまでと異なる目的のために歩みを進める必要がある。それこそがスペリアス様も望んだこと。

 でも、今この時ばかりは時間が許す限り甘えさせてほしい。ワンワン泣いて涙でグチャグチャになりながら、時間を忘れてスペリアス様の体へ抱き着く。




 ――私のお母さんはエステナじゃない。間違いなくスペリアス様という『人間のお母さん』だった。

ずっと言いたかった言葉の先はただ哀しい。

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