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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
最果てに望みし楽園
364/503

世界を創生する神は、装置の枠組みの埒外へ

人間の苦痛をため込んだ結果、自我を芽生えさせる進化をした装置。


――それこそ、女神エステナ。

「つ、つまり……今のエステナはもうモノじゃないってこと……? 自分で考えて、自分で選択して動ける……?」

【そ、そんなことって……? ただ使われるだけの道具だったのに、人間のような自我を宿すなんて……?】


 スペリアス様の言葉は私の予想した通り。でも、にわかには信じがたい。

 しかも原因は蓄積した苦痛によるもので、創世装置でしかないはずのエステナに進化を促した。


 ――言葉にすればシンプルだけど、まさしく新たな生命の誕生とも言うべきもの。


「無機物に自我が宿る事象自体は、この世界において珍しくも存在しておる……。ツギルのようにのう……」

【ツクモの能力……ってことですか。ただ、俺も含めたツクモはあくまで『元々の自我が別に存在し、物体を依り代の肉体とする』だけです。今のスペリアス様の話の通りなら、エステナはゼロとも言える状態から……?】

「ああ……ゼロから自我を覚醒させたのじゃろうな。創世装置は世界の環境を構築することはできる。その過程で命の種を育むこともあろう。……じゃが、それはあくまで畑を耕すようなもの。自らに自我を覚醒させることなどあり得ぬ」

「本来ならば……ってことだよね。でも、その『本来起こらないはずのこと』が起こってしまった。それこそが……セアレド・エゴ」


 言うなれば、蓄積したエラーが生んだイレギュラー。近いイメージのツクモとも訳が違う。

 人でも魔物でも、精霊でも神様でもない。元々の自我なんてどこにもない。

 それなのに、エステナは自我を持ってしまった。その片鱗こそ、村のお社に封印されてた影の怪物の正体――楽園の強欲が生み出した怪物だ。


「楽園から溢れ出た闇瘴や原因となるエステナが、いずれ世界の脅威となる懸念はワシにもあった……。じゃからこそ、世界を旅していた時にそういった伝承を残すこともあった……。じゃが、エステナそのものに自我が宿るとは想定外じゃ。とはいえ、全てはワシら楽園に住んでいた者の怠惰が招いた結末か……」

「自分で考えられるから、どう動くかが完全には予想できない。ワンパターンじゃない思考を伴った脅威……考えただけで恐ろしい」

「おまけに、生まれ出でた理由が『蓄積した人間の苦痛』じゃからな。本当に思考が人並ならば、それこそ『人間への復讐』という凶行に及ぶ危険性さえ孕んでおる……」


 エステナに芽生えた自我――セアレド・エゴ。まさか、そんな怪物がエスカぺ村に封印されてたなんて。

 スペリアス様もその存在が何を意味するか理解してるから、口も重いし表情も暗い。だけど、目を背けるわけにもいかないのも事実。

 楽園のために作られた装置が、楽園の捨てた感情を根源として動き、楽園の外の世界へ害意を及ぼそうとしてる。

 カムアーチでアキント卿が語ってた歴史も、三賢者によって世界を旅した痕跡も、エステナといういつ暴走してもおかしくない脅威への対抗手段だったんだ。


「理刀流についても、ワシは外の世界の古い文献を解き明かして学んだ……。楽園の外には、少ないながらも楽園へ抗う意志も残っておった……。おそらく、大昔にワシと同じ考えへ至った者もいたのじゃろう……。ワシやエスカぺ村の住人には、エステナを止める義務がある……」

「雪山の施設にデプトロイド……読めてきた。読めてきたけど、話が凄く壮大。私、ついていけてるか不安……」


 少しずつながら、スペリアス様の語りたい全容も見えてくる。

 そのための力も用意した。世界に散らばる痕跡を見つけ、ある時は世界へ警鐘を鳴らし、どうにかしてエステナを止めたかった。

 それは楽園から逃げ出したみんなの気持ち。逃げた場所とはいえ、野放しになどできない。


 ――『エステナが世界を滅ぼす』という予言は、このために唱えた一説だったんだ。


【……俺も言葉を失うな。ドワルフさんやエフェイルさんにしても、エステナへ対抗するために呼び集めたってことか】

「今はまだ世界が滅ぶまでは行ってない。でも、エステナの力があればいつそうなってもおかしくない。……闇瘴の存在にしても、世界へ迫る驚異の前触れ。おまけにエステナ教団といった『エステナを利用する集団』だっている。……もしかしたら、時間は少ないのかも」


 スケールが壮大とはいえ、旅した中で見た世界からも否定はできない。いずれ、エステナが起因して世界を闇で覆い隠してもおかしくない。予兆だってある。

 スペリアス様がこの話をするのは、きっと私達にも協力してほしいから。私に旅させたのも、世界の現状を見てほしかったから。

 そういうことならば、私もツギル兄ちゃんもいくらでもスペリアス様の力に――




「それと……もう一つ。しばらく時が経った後、セアレド・エゴとは別に『エステナの自我の片鱗』が現れた。……それこそ、ワシがおぬしら兄妹を育てた最大の理由じゃよ……」

「……え? セ、セアレド・エゴみたいなのが……まだいるの……?」




 ――なりたいと思ってたら、それとは別の話が舞い込んでくる。

 エステナの自我は一つじゃなかった。まだ別にもいて、スペリアス様を悩ませてた。

 もっとも、セアレド・エゴもエステナから零れ落ちた片鱗に過ぎない。完全に装置の枠組みを超えたエステナからなら、どれだけ恐ろしい脅威が生まれてもおかしくない。


「……スペリアス様、教えて。もう一つの自我って、どこにいるの? 私、スペリアス様の力になりたい。必要なら……私が倒す」


 ならば、やるべきことは一つしかない。それこそ私もやりたいこと。

 楽園の長い歴史とかどうでもいい。私はただ家族として、悩むお母さんの力になりたい。

 セアレド・エゴと同じような存在が別にいるならば、またシード卿を操ったりフューティ姉ちゃんみたいに偽物のエステナへと利用される恐れもある。

 そんなこと、もうさせたくない。だから、私はどうしても知りたい。


「……ミラリア。今からワシが語る話こそ、おぬしへ伏せていた最大の秘密じゃ。その秘密を聞いた時、ワシを恨んでくれても構わぬ……」

「ふ、ふえ……? ス、スペリアス様……? 急にどうして……?」


 正体についての説明を待ってると、急にスペリアス様は私の手を弱々しくも握ってくる。

 正直、これまでの話だってかなり膨大な秘密だった。なのにこの様子だと『エステナのもう一つの自我』はそれさえも上回ってるように見える。


 ――直感的に理解できる。スペリアス様が一番語りたかったのは、本当にこの言葉なんだと。




「セアレド・エゴとは別に生まれたエステナの自我……その正体は……おぬしじゃよ、ミラリア。おぬしこそ、エステナの片鱗とも言える存在じゃ……」

そして、エステナから分離したもう一つの存在――ミラリア。

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