世界の始点は、終点として目指した楽園から
それはスペリアスが辿り着いた、世界の根底をも揺るがす可能性。
「この世界が……楽園から始まった……?」
【な、何でそう言えるんですか? 楽園なんて世間じゃただの伝説で、大昔に滅んだとも噂されてたはずじゃ……?】
「ワシには思い当たる節がある……。そこについても、時間をかけてでも語らねばなるまい……」
いきなりスペリアス様が示すのは、楽園を求めた旅どころか世界そのものにまつわる可能性。とてもじゃないけど、想像なんて完全に超えてる。
広い世界の中に、伝説とも言える楽園があるんじゃなかったの? 言ってることが本当なら、逆だったってこと?
――むしろ世界の方が楽園から生まれたってこと?
「ワシもスーサイド以外に世界中を旅したが、楽園にまつわる歴史は他の国や都市の歴史よりはるかに古い。……おかしな話とは思わぬか? 他の古い歴史は見当たらないのに、楽園についてだけが世界のどこかで語り継がれておる。それはすなわち『楽園が世界のどこよりも古い』とも言えよう……」
「で、でも、それだけで楽園を世界の始まりとするのは……?」
「無論、これだけではない。元より楽園には、その地を維持するために『ある強大な力』があった。……推測にはなるが、その力ならば『世界を創り出す』ことさえできるであろう。かつての楽園を創り出したように、今のこの世界を創り出すことさえも……」
確かに楽園の歴史って、世界のどこよりも古い。カムアーチで見た文献も1000年は前だったし、ルーンスクリプトといった強力なエデン文明も眠ってる。
さらにスペリアス様が語るのは、あまりにスケールの大きすぎる話。でもここまで来ると、楽園にどんな力があったとしても受け入れるしかない。
衰弱しながらもスペリアス様がここまで語るのは、本当に私に聞いて欲しいからこそ。下手に疑ってばかりもいられない。
――今は素直に耳にする。楽園にあるという『世界を創り出す』とも言える力の正体を。
「創世装置……エステナ。この世界においてエステナ教団を始め、女神として崇められる存在……。それこそが『楽園を創り出した力』の正体にして『世界そのものを変えてしまう脅威』じゃ……」
「エ、エステナ……!? 女神……エステナ……!?」
それこそ、私も世界中を旅する中で何度も耳にした神様の名前――女神エステナ。ただスペリアス様の話だと、どうにもこれまでの話と違う。
『創世装置』って、どういうこと? それって、神様じゃないってこと? 楽園を創ったのは事実なのに?
「この世界にエステナが女神として語られておるのは、長い歴史の中で事実が曲解して伝えられたからじゃろう……。エステナについては、楽園の創世期から確かに稼働しておった……。神でなければ人でもない。本来のエステナとは、感情も自我もないただのモノ……。大昔の人間が楽園という箱庭を創るために設計した装置に過ぎぬのじゃ……」
【エステナが……神じゃなくて装置というただのモノ……? しかも、楽園を創り出すほどの力を持った……? その力が……この世界をも創り出した……?】
「おそらくは……な。ルーンスクリプトを始めとしたゲンソウの集大成。その痕跡は今もなお世界に残っておる……。まるで、エステナが世界を創造したことを示すようにのう……」
『エステナという神様』なんて本当はいなかった。あったのは世界をも創れるという力を持った『エステナという装置』だけ。
力のスケールは私には到底想像できない。でも、スペリアス様の話が嘘とも思えない。
ここまで必死に語ってくれたんだ。ならばむしろ、この話を真実とした前提で話を進めるべき。
もう私はスペリアス様を疑わないって決めた。ツギル兄ちゃん同様に驚きは抱きながらも、目を見てしっかり話を聞き入れたい。
――それが私に今できること。スペリアス様を遠ざけての後悔は繰り返したくない。
「……スペリアス様。もしかして、エステナが世界を創った理由について、まだ思うところがあったりする? 長い歴史があるから、結論付けるにはまだ根拠が薄い。あるなら教えてほしい。スペリアス様が思うことを……全部」
「このように突拍子もないワシの話を、ミラリアは頑なに信じてくれるのか……?」
「うん。信じるし、何より信じたい。だから、気を遣わないで。私へ望んだ旅も含めて、スペリアス様の考えをもっと聞きたい」
「……ああ、ありがたい話じゃ。ならばワシも語らせてもらおう。この世界をエステナが創ったと考える最大の要因を……」
きっと、スペリアス様が私に旅をさせた意味もこの話の先にある。そんな気配でアホ毛もピクピクピリピリ緊張する。
スペリアス様はしっかりとした確証があってこの話をしてる。スーサイドで哲学者と呼ばれ、世界を研究した人でもあるんだ。
さらなる要因を求めれば、思った通りに言葉を紡いでくる。
「ミラリアやツギルも旅先で何度も目にしたはずじゃ……。闇瘴という苦痛を具現化した闇……あれもまた、楽園に関わる要素じゃ……」
【闇瘴……神の苦痛……。もしもスペリアス様の話を繋げるなら、これも創世装置というものが生み出したということで……?】
次に要因と考えるのは闇瘴の存在。『神の苦痛』と呼ばれていて、その神様とは女神エステナという楽園を創世した装置。
本当は神様じゃなかったにしても、楽園と繋がる要因は考えられる。スペリアス様の導き出した結論が、ここでも紐づけられる。
――あの歪んだ闇そのものとも言える力に、どういった意味が隠されてるの?
「闇瘴とは……楽園の人間が『放棄した苦痛』が蓄積したもの。自分達が苦しまないため『エステナに肩代わりさせていた痛み』と言えるものじゃ……」
闇瘴というパズルのピース。苦痛を纏いし闇の正体は、ある一団との関りにも。




