その少女、魔剣と共に楽園を目指す
いざ、遥かなる世界へ。
「……よし。これで準備はできた」
【村の地下にあったものだから、そこまで揃ってはいなかったがな。でも、一応旅立つぐらいの備えはできたか】
エスカぺ村に残されたスペリアス様の手紙。世界地図も一緒に入ってたし、村の地下にあった倉庫で荷物の用意ぐらいはできた。
食料に関しては現地調達の必要がある。だけど、サバイバルの知識はスペリアス様からも教わってる。
――目指すは楽園。私が夢見た地に向かうことが、スペリアス様が残してくれたメッセージだ。
「村のみんな……。こんな私のために、今までずっとありがとう。そして、ごめんなさい。……いってきます」
亡くなったみんなのためのお墓も完成した。下手くそな見栄えだけど、想いはしっかりこもってる。膝をついて両手を合わせ、しっかり拝んで別れを告げる。
きっと、エスカぺ村のみんなもスペリアス様と同じく、私に楽園との関りがあるからこそ、ずっと守ってきてくれたのだろう。
結界にしてもそう。私は村に閉じ込められてたんじゃない。守ってもらってたんだ。
「でも、ツギル兄ちゃんは詳しいことを知らなかったんだね」
【まあな。確かにエデン文明の技は継承してたが、俺に託されたのは『ミラリアを守ること』だけだ。深い事情までは聞かされてなかったからな】
「ツギル兄ちゃん、思ったより役に立たない」
【そういうことを言わないでくれ……。結構傷つく……】
「今のは嘘。ツギル兄ちゃんが一緒だから、私は前へと進める」
【……そうか。なら、行こうか。スペリアス様が残した手紙の通り、目指すべき楽園にな】
楽園に関する情報はほとんどない。ツギル兄ちゃんにしても、楽園に関するエデン文明の技を知ってただけ。私がどう楽園に関わってるかなんて、私自身も知らない。
でも、先行きが真っ暗とは思わない。私は今、確かに進むべき道の上にいる。
まだ見ぬ世界。一度は歩んだ村の外。最初の頃と違い、怖さだってある。
それでも、今度は一人じゃない。魔剣となったツギル兄ちゃんだっている。もう同じ過ちは繰り返さない。
「世界を見て回って、楽園に辿り着くこと……。もしかして、スペリアス様も楽園にいるのかな?」
【手紙の内容からして、その可能性は高いな。スペリアス様は楽園のことで何か知ってるしな】
「凄く楽しみ。……でも、それは『楽園に行ける』ことがじゃない。『スペリアス様ともう一度会える』ことが楽しみ」
これまで夢見てた楽園を目指すこと以上に心躍らせるのは、そこでスペリアス様が待ってる可能性。
なんでこういった形をとったのかは分からない。だけど、私はスペリアス様の言葉を信じる。
――そして再会した時、今度こそきちんと伝えてみせる。私にとって最大の目的は、スペリアス様に『ごめんなさい』と言うことだ。
「……行こう、ツギル兄ちゃん。私達が目指すべき楽園へ」
【ああ。俺も魔剣として力になる。辛い旅になるだろうが、今のミラリアなら大丈夫さ】
お墓の前での祈りも終え、立ち上がって空を見上げる。
私の知る世界はまだまだ狭い。知らない怖いこともたくさんある。
それでも、いつの日か必ず辿り着いてみせる。私のお師匠様が――母親が示してくれた場所へと。
――これから、私は魔剣と共に楽園を目指す。
今ここに、魔剣と共に楽園を目指す少女の冒険が始まった。




