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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
最果てに望みし楽園
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信頼した兄は、元は形なき九十九から

だからエスカぺ村が焼かれたあのシーンで、ツギルだけは「あるもの」が流れていなかった。

「ツギル兄ちゃんが……ツクモ……? 人間の姿にしても、デプトロイドだった……? そ、そんなはずない! だって、エスカぺ村でずっと一緒に兄妹として育ったもん! ツギル兄ちゃんは人間だもん!」


 スアリさんがデプトロイドだったことやスペリアス様達が楽園に住んでたことだけでも驚きなのに、これでもかと突き刺さってくる衝撃の事実。私のお兄ちゃんであるツギル兄ちゃんでさえ、本当は人間じゃなかったと告げられてしまう。

 しかも、その正体はツクモ。確かにツクモについても、カミヤスさんみたいに楽園との関りは見えてはいた。

 でも、到底信じられない。ツギル兄ちゃんだって何度もツクモと間違われたけど、そのたびに否定してた。


【本当のことを言うと、俺自身も薄々勘付いてはいた。今の俺は魔槍にカミヤスといったツクモ達と同じだ。ただ、内心で俺自身が『信じたくなかった』ってところだ。認めてしまえば、ミラリアとのこれまでの関係も崩れる気がして……】

「だ、だったら、これまで一緒に育ってツギル兄ちゃんは何だったの!? 一緒に大きくなったよね!?」

「それについては、ワシがツギルにも気付かれないよう、時に合わせてデプトロイドの肉体を大きくしておったのじゃよ……。スアリと同様の肉体を作る技術は、ワシならば心得ておったからのう……」

【それに、俺自身も思い返せばおかしな点もある】

「お、おかしな点……?」


 だけど、今回はツギル兄ちゃん自身が認めてしまってる。もう認めざるを得ないといった雰囲気で、これまで胸のうちに潜めてた思いを吐露し始める。

 ツギル兄ちゃん自身も勘付く要因はあったらしく、そのことも語ってくれる。


【思い出してもみてくれ。俺がエスカぺ村でレパス王子に刺された時、血は出ていたか? 出てなかったんじゃないか?】

「そ、それは……あ、あの時は気が動転してたし、よく覚えてない。でも、確かにツギル兄ちゃんが覆いかぶさる姿勢だった。なのに私は……血を被った記憶がない……」

「デプトロイドは生命体とは呼べぬ。血が流れている必要もない。……この件については、ミラリアとツギルにずっと黙っていてすまなかった……」

【正直、ハッキリ聞かされてても俺は信じなかったでしょうね……。ただ、今こうしてスアリさんの正体がスペリアス様だと判明したからこそ、どこか受け入れられるものはあります。……俺は】


 確かにそうだった。ツギル兄ちゃんが血を流してるところなんて、幼い頃も含めて見たことがない。それはスアリさんといったデプトロイドにも同じこと。

 血は繋がってなくてもお兄ちゃんだと思ってたのに、本当は血そのものが流れてすらいなかった。スペリアス様もずっと黙ってたことを後悔し、弱々しく頭を下げてくる。


 ――『裏切られた』って気分より『どうして?』って気持ちが強い。どうしてツクモのツギル兄ちゃんが人間そっくりのデプトロイドとして、エスカぺ村で一緒に生活してたの?


「やはり、ミラリアにも色々と疑問点が多いようじゃな……。こうして再会を果たせた以上、ツギルの件も含めてワシの口から直接真相を語る他――ゴホッ、ゴホッ!」

「ス、スペリアス様! 無理しないで! 確かに私もいっぱい気になる! 聞きたいことも話したいこともたくさんある! でも、スペリアス様に無理されるのが一番嫌! お願いだから休んでて! 続きはいつでもいいから!」

「ハハハ……本当にミラリアはどこまでも優しいのう……。じゃが、これはワシの悲願でもあるのじゃ。そのためにも、まずミラリアに尋ねたいことがある」


 疑問はいくらでも湧き上がってくるけど、語ってくれるスペリアス様の容態の方がずっと心配。顔色も悪いし、咳もさっきから酷い。

 どうにか背中をさすって休むように促すものの、スペリアス様はベッドの上で体を起こしたまま話を続けてくる。


「ミラリアよ……おぬしは楽園を見たはずじゃ。まずはそこでの感想を、ワシにありのまま伝えてはくれぬか……?」

「ら、楽園の……感想? そ、それは……」


 スペリアス様が体を休めてくれる気配はない。私のお願いであっても、もっと優先したいことがあるのが見て取れる。

 その一つ目として、求めてくるのは楽園の感想。スペリアス様はテコでも返答を求めてくるし、答えないわけにはいきそうもない。


「私が見たあれが……本当に楽園だったの? 確かに不思議で、美味しいご飯もあった。どこか現実的でもあったけど、結局はただの幻だった。スペリアス様もエスカぺ村のみんなも……フューティ姉ちゃんも偽物。タチの悪い夢。……仮に現実だったとしても気味が悪い。都合のいい現実が並びすぎてかえった怖い。……全然想像してた楽園じゃない」

「……そうか。ミラリアは楽園に嫌悪感を抱いたのじゃな……。内心、ワシもその答えを望んでおったのじゃろう。にしても、今の楽園は完全にゲンソウの箱庭となってしもうたか……」

「……ねえ、スペリアス様。私が見たのって、本当に楽園なの? だとしたらおかしな話になる。スペリアス様は元々楽園に住んでるんじゃなかったの? でも、あそこは空想の世界。スペリアス様は実在してる」


 ただ、答えながらもここで疑問が一つ。私が見た楽園って、結局は空想の世界と呼べるものでしかなかった。

 あの時のおぞましさと同時に気になるのは、スペリアス様やエスカぺ村のみんなの存在。みんなは確かにこの世界に実在してた。

 空想と実在。この二つの垣根なんて、取り払えるはずがない。それが世界の常識。




「フッ……ある意味、その通りなのかもな。ワシも含めた楽園を追放された者達――エスカぺ村の住人は、空想を超えて現実へ辿り着いたのやもしれぬ……。全ては楽園が持つ『ゲンソウの力』でのう」

全ては楽園というゲンソウから始まった。

これが本当の物語の根底。

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