旅を提示した母親は、真実の吐露へ
さあ、これまでの真実を語っていきましょう。
「ふ……え……? つ、つまり……スアリさんって……スペリアス様だったの……?」
「ワシも余計な手出しはしない方が良いと思ったが、やはり心配は拭えなかった……。じゃからこそ、別人の姿を模することでおぬしの旅を見守った……。栄養失調で倒れたり雪山で埋もれたりしていた時は、内心冷や汗ものじゃったぞ?」
思わぬ事実を突きつけられ、言葉に詰まりながら確認してしまう。私、ずっとスアリさんのことを人間だと思ってた。
デプトロイドって、これまで人に近い形はしてても完全に人の姿をしてるものなんてなかった。カミヤスさんみたいにドラゴンの姿をしてるのだってあった。
あんなに限りなく人間に近い姿までできるなんて、それこそ人間を別に作り出してるみたい。もっとも、中身については操ってるスペリアス様だったから自然なのも当然と言えば当然。
「まあ、途中からはスアリを使った見守りもほとんど必要なかったのう。何やら、貴族の恋人までできたそうじゃが?」
「そ、それは……まだ恋人かどうかは未確定。そ、それより、どうして別人の姿なんてしてたの? スペリアス様も名乗らなかったの?」
「迂闊に姿を見せることも、名乗ることもワシにはできぬのじゃ……。エスカぺ村の外の世界である以上、ワシに目を光らせる人間も潜んでおる。……楽園を知る者からすれば、ワシの存在はお尋ね者じゃて」
スアリさんこそがスペリアス様の代理だった。表立って動けないスペリアス様に代わり、私のことを見守ってくれてた。
その真実は嬉しい。騙されたと言えばそうだけど、スペリアス様は確かに私の旅路を見守ってくれてた。
でも、完全に正体を隠さなきゃいけないほどの理由って何? 誰がスペリアス様を狙ってるの?
「今の世界において、エステナ教団と呼ばれる存在……。あの者達の中に、かつてのワシを知る者が紛れ込んでおる。その者に探られれば、世界の崩壊にも繋がりかねん……」
「世界の……崩壊……!? 確かスペリアス様って、鍛冶屋さんや巫女さんと一緒に三賢者って呼ばれてたんだよね? それとも関係してること?」
「そこも旅の中で知ることができたか……。やはり、ミラリアは自分の足で踏み出せる力を持っておるのう……」
ここで絡んでくるのは、またしてもエステナ教団。フューティ姉ちゃんの件といい、本当に嫌な場面で顔を見せてくる。
現在の代表であるレパス王子はエスカぺ村を滅ぼした人だし、ペイパー警部も何かしらの被害に遭ってる。私のことを想ってくれた人達に酷いことするのは許せない。
私の愚行が招いた結末とはいえ、後悔ばかりは拭えない。
「……スペリアス様、教えてほしい。イルフ人を含む三賢者にエスカぺ村。どれにも楽園との痕跡が見える。それはどうしてなの? どこで楽園を知ったの?」
それと気になるのは、これまでの旅でも見えてたエスカぺ村と楽園の関係。
イルフ人に理刀流、お社に眠ってたエデン文明。挙げていけばキリがない。
多分、スペリアス様どころかエスカぺ村のみんなはどこかで楽園を知ってた。もしかすると、一度は楽園に辿り着いたことだってあるのかもしれない。
そうでないと説明がつかないぐらいには繋がりが見えるけど――
「ならば、まずはそこの真相から語るとしよう。そもそもワシやエスカぺ村の住人は、今のこの世界に元々いたわけではない。……楽園から追放された人間達なのじゃよ」
「えっ……!? ら、楽園から追放されたって……!? 元々は楽園に住んでたってこと……!?」
――真相については、私の予想の逆とい言えるもの。
エスカぺ村のみんなは楽園に辿り着いたことがあるなんてレベルじゃない。そもそもが楽園に住んでた人達だったとのこと。
それを語るスペリアス様の表情は重いけど、なおも必死に説明を続けてくれる。
「正確には、とある四人を除いてになるがのう。三賢者にも含まれるイルフ人――ドワルフとエフェイルについては、ワシらが楽園を出る前に抜け出していた者達の子孫じゃ……」
「それって、楽園で奴隷にされてたのからご先祖様が逃げ出したからだよね?」
「左様じゃ。そして、残る二人については――」
「……もしかして、私とツギル兄ちゃん?」
「……ああ、その通りじゃよ」
確かにエスカぺ村には楽園の痕跡が多々見れたけど、まさか元々楽園に住んでた人達の村だったなんて予想外過ぎる。
だって、楽園って外の世界でも伝説みたいなものだったもん。そんな伝説に語られる場所に住んでたのが、こんな身近な人達だったなんて思いもしなかった。
そして、私とツギル兄ちゃんだけ楽園のことを知らなかったのも理解できる。ドワルフさんもエフェイルさんもイルフ人だから、楽園との接点は存在する。
エスカぺ村で接点がないと言えるのは、私とツギル兄ちゃんの二人だけ。年代的にもそう考えられる。
「私とツギル兄ちゃんはエスカぺ村で拾われた……。私達兄妹だけが、楽園とは接点を持たずに――」
「いや、それは異なるのう。むしろ、おぬしら兄妹ほど楽園に近い存在はおらぬかもしれん。……何より、ツギルについてはそろそろ御身の正体も気付いておろう?」
「ふえ? ツギル兄ちゃんがどうかしたの?」
ただ、ここにも私が辿り着けてない何かがある。まず挙げられるのはツギル兄ちゃんの存在について。
でも、何があるんだろ? スペリアス様の言葉を聞いてもチンプンカンプン。
【……スアリさんこそがスペリアス様で、精巧に模されたデプトロイドだった。もしそれが俺にも適用されるなら、あの時雪山で語ったことについても……】
「ね、ねえねえ、ツギル兄ちゃん? どうしたの? 何が分かったの?」
それでもツギル兄ちゃんはスペリアス様の言葉から、何かに気付いたようにブツブツ述べ始める。
これまでずっと考えこむように黙ってた分、思わずビックリ。でも、どこか確証を持ってるような気配を感じる。
私には理解できないけど、何が分かったていうの? 荒巻く真実の中に何が眠ってるっていうの?
【俺はそもそも……人間じゃなかった。俺自身も知らなかっただけで、本当は人型のデプトロイド――もとい、それに宿るツクモだったってことですよね? スペリアス様?】
スアリだけではない。ツギルもまた、そもそもが人の身ではなかった。




