絡まる旅の果てには、目指した人との再会へ
今度こそ間違えない。
【ス、スペリアス様……!? ほ、本当にスペリアス様で……!?】
「おお……ツギルも姿こそ変われど、無事にここまで辿り着いてくれたか。時間が足りぬと懸念しておったが、ワシも待った甲斐があったものじゃ……」
案内されて踏み入った部屋で待っていたのは、それこそ私達が一番会いたかった人。楽園を目指す旅を示した人にして、私とツギル兄ちゃんのお母さん――スペリアス様。
楽園にいると思ってたのに、まさか魔界で会えるなんて。ただ、ベッドの上で弱々しくも声をかけてくれる姿を見ると、こみ上げる感情で上手く言葉も交わせない。
それでも、今度こそ見間違えるはずがない。楽園で見た紛い物なんかじゃない。そんなことは直感でハッキリ理解できる。
――この人こそ、本物のスペリアス様だ。
「私は失礼いたします。……残された時間、どうぞご自由にお使いください」
「ああ、すまぬな……ユーメイト。おぬしにも世話になった。ゼロラージャにも礼を申しておいてくれ……」
「御意にございます」
私が硬直してると、案内してくれたユーメイトさんはそそくさと部屋を出ていってしまった。
ただ、その時の語り口からスペリアス様とも見知った仲なのは見て取れる。多分、ゼロラージャさんも同じ。
そもそも、どうしてスペリアス様は魔界にいるの? 楽園にいるんじゃなかったの?
「さて……話したいことも多いじゃろうが、まずはその顔を良く見せ――ゴホ、ゴホッ!」
「ッ!? スペリアス様! しっかりして! いったい、どうしたの!? どうしてこんなに弱ってるの!?」
「ああ、すまぬな……ミラリア。いつもはドジなおぬしの面倒ばかり見ておったのに、今では逆となってしもうたか。……にしても、随分立派な顔つきになったものじゃ。ディストールで会った時とは比べ物にならぬぞ」
何より、スペリアス様がここまで衰弱してることが一番心配。ベッドの上で体を起こしても、咳込みながら座りっぱなし。
そんな姿を見れば、慌てて支えずにはいられない。背中に手を添えて顔を近づけると、スペリアス様は弱々しくも笑顔で語りかけてくれる。
ただ、その時に交わされるちょっとした昔語りはどこか懐かしい。その様子を見ても、この人こそが本物のスペリアス様だって理解できる。
「この体については、エスカぺ村を焼かれた日からずっとじゃ……。流石のワシも無傷とはいかず、大きな後遺症を背負ってしまってのう。今はこの魔界にある魔王城にて、魔王軍に介抱してもらうばかりじゃ……」
「エスカペ村の時に……!? そ、そんな……私のせいで……!? あ、あの……あの……!」
衰弱の原因については、完全に私の責任だった。いくら私の母にしてお師匠様のスペリアス様でも、ディストールによる大型デプトロイドの軍勢からは逃げるのが精一杯だったみたい。
私のディストールでのワガママが、こうしてスペリアス様を今も苦しめてる。ならば、紡ぐべき言葉は一つしかない。
今度こそキチンと口にする。まずはその言葉で――
「よいのじゃ、ミラリア。それより、先にワシから言わせてくれ。……おぬしにはすまぬことをした。何も知らせぬまま、過酷な旅を押し付けたワシを恨んでくれても構わぬ……」
「え……? ど、どうしてスペリアス様が謝るの……?」
――謝罪しようと思ったら、逆にスペリアス様の方が私に頭を下げてきた。
体の自由だって利かないのに、頑張って私へ頭を下げてくる。正直、意味が分からない。
だって、スペリアス様がこうなったのもエスカぺ村が滅んだのも、全部私のせいだもん。謝られるいわれなんてない。
「本当ならば、もっと早くおぬしへ告げるべきであった……。『エスカぺ村が作られた理由』も『ワシが楽園を目指すように願った理由』も……。じゃが、運命とは時として残酷じゃ。ワシが語り損ねておる間に、急激に動いてしまう……。ゴホッ、ゴホッ!」
「スペリアス様! 無理に喋らないで! 私、スペリアス様に言いたいことがあってずっと旅を頑張ってた! 押し付けられたなんて思ってない!」
「ミラリアは本当に優しい子に育ったものじゃのう……。仮初とはいえ、これが母親の誇らしさというものか……」
「仮初なんかじゃない! スペリアス様は私のお母さん! それ以外の何者でもない!」
スペリアス様は何かを語りたがってる。でも、そんなことはどうでもいい。
私にとって一番大事なのは、もう一度元気なスペリアス様になってもらうこと。せっかく会えたお母さんがこんなに弱々しく自分を卑下する姿なんて見たくない。
「確かに聞きたいこともある! さっきだって、悲しいことがあった! 私のことをいつも大切に見守ってくれたお父さんみたいな人が、私を守るために――」
「フッ……あの姿を『父親みたい』などと申してくれるのか……。それもまた、ありがたい話じゃのう……」
「……ふえ? スペリアス様、もしかしてスアリさんのことも知ってるの……?」
「ああ、知っておる……。むしろ、ワシ以上にスアリのことを知る者はおるまい……」
むしろ卑下するべきは私の方。その一つであるスアリさんのことを語ろうとするものの、ここでもスペリアス様が遮るように話を割り込ませてくる。
確かにスアリさんって、ユーメイトさんとも知り合いだった。ならば魔王軍との接点もあって、今いる魔界との接点もできてくる。
だからこそ、ずっと魔界で介抱されてたスペリアス様が知っててもおかしくない。だけど、気になることが一つある。
――スアリさんについて、スペリアス様が『誰よりも詳しい』ってどういうことだろう?
「スアリと言う者は……人間ではあらぬ。ワシがこの地より魔法で遠隔操作していた代理人形――デプトロイドじゃ……」
ほぼほぼお察しの通り「スアリ=スペリアス」でした。




