二つの邂逅は、世界の命運へ
#####
邪魔も苛立ちも怒りも受け入れよう。
これこそが感情であり、ワタシが追い求めたもの。
感情に従い、必ず彼女を手にしてみせる。
#####
爆発して穴の開いた壁の先から手を伸ばして顔を見せるのは、紫色のドラゴンに乗ったスアリさん。ひとまず敵ではないけれど、これはこれで状況が読めない。
よく見ると、壁の向こうは洞窟じゃなくて外の景色が広がってる。それどころか、かなり高い位置にあるようで空まで広がってる。
確かにここへ来るまで、エレベーターで上に上がったりもした。洞窟内で外の様子なんて分かんなかったけど、いつの間にかこんな高さまで昇ってたなんて。
「ミラリア! 考えてる余裕はない! 今はとにかく、こっちへ飛び移れ! 早く!」
「う……うん! 分かった!」
ただ、今はあれこれ考えてる場合じゃない。闇瘴は今もそこまで迫ってるし、逃げ出せる道がようやく一つ見えてくれた。
ならば、進むべき方角は一つだけ。私が信じたいのは、ただ都合がいいだけの楽園なんかじゃない。
タンッ!
「ス、スアリさん! どうしてここに!?」
【助かりましたが、このドラゴンにしたってどういうことで!?】
「その話は後だ! まずはこの場を離れるぞ!」
私はスアリさんを信じたい。これまで口やかましくも要所要所で頼りになった人が差し伸べてくれた手を、もう一度掴みたい。
ここが空の上だとかも関係なく、思い切ってジャンプ。スアリさんの手を掴み、ツギル兄ちゃんと一緒にドラゴンの背中へ飛び乗れた。
以前にタタラエッジで見たドラゴンよりも立派な背中だ。紫色の鱗越しに力強さも感じるし、大きな翼で私が乗ってもバランスを崩さず飛び続けてくれる。
#――がさない。ワタシは――に入れ、人との自――を――#
「あ、あの声……!? まだこっちを狙ってる……!?」
「声……だと!? ミラリアには聞こえるのか!? まさか、創世装置との関係性か……!? おい、急げ! 急いでこの場を離れろ!」
ただ、敵もこれで見逃してはくれない。穴から闇瘴を溢れさせ、ドラゴンさんにまで伸ばそうとしてくる。
スアリさんにも声はハッキリ聞こえてないらしいけど、事態そのものは見れば分かる。ドラゴンさんに声をかけ、すぐさまこの場を離れるように促してくれる。
「こ、こんなに高いところにいたんだ……!? こ、ここが楽園の場所だったんだよね!? なのに、どうしてこんなことに……!?」
「今は説明する暇も惜しい! 創世装置も見逃してはくれまい!」
【そ、それは分かるんですが、さっきからこのドラゴンといい創世装置とかいい、俺達には何が何だか……!?】
私だって事態なんて読めはしない。いつの間にか凄く高い空の上でドラゴンさんの背に乗り、闇瘴という魔手から逃れたい気持ちしか湧かない。
今はスアリさんに頼るしかない。助けに来てくれたのは事実だし、このままドラゴンさんで飛んで逃げれば――
#ルーンスクリプト『ᛖᛋᚢᛏᛖᚾᚨ』に――い、最大の――の可能性を――して、ワタシは人――#
ギュゴォォンッ!!
「ッ!? あ、闇瘴がさらに大きく!? 膜みたいに!?」
【マ、マズい!? このままじゃ、こっちが先に飲み込まれて……!?】
――よかったんだけど、敵の力は想像以上に強大。正直、底が見えない。
穴から闇瘴を膨れ上がらせ、再びこっちを包み込むように広がりを見せてくる。その展開速度もドラゴンさんより速い。
あの闇瘴には聖天理閃も効かない。逃げるための援護もできない。
――このまま飲み込まれる未来しか見えない。
「……仕方あるまい。おい、後のことは頼んだぞ」
「ふ、ふえ? スアリさん……何を……?」
せっかく見出した活路さえも潰されようとした矢先、スアリさんが落ち着きながらも覚悟を決めた声で語り始める。
私やツギル兄ちゃんへではなく、乗ってるドラゴンさんに語りかけてる感じ。このドラゴンさん、言葉を理解できるのかな?
それはそれで気になるけど、スアリさんも何をしようとしてるんだろ?
――タンッ バギィィイイイン!!
「ぐうぅ……!? 俺が闇瘴を抑える! その間に……お前達は目指すべき場所を目指せぇぇええ!!」
「ス、スアリさん!? そ、そんな……スアリさぁぁあん!?」
疑問で少し硬直してたら、なんとスアリさんはドラゴンさんの背中から飛び立ち、一人で闇瘴の中へと突っ込んでしまった。
声を荒げ、必死に一人で身を挺して闇瘴を押さえ込んでくれてる。そのおかげなのか、わずかにこちらへの浸食は弱まってくれた。
――でも、これで良しなんてとても思えない。
「ドラゴンさん! 戻って! スアリさんを助けて! 早く!!」
「俺にかまうな! どうせ代用の肉体だ! それより……そいつに導かれてくれ! 頼む!!」
【な、何を……!? スアリさん! スアリさぁぁああん!?】
これまで何度も何度も私を導いてくれたスアリさんを犠牲にできるはずがない。見捨てて逃げていいはずがない。
必死にドラゴンさんの背中をペンペンして訴えるも、闇瘴から離れる動きは変わらない。スアリさんも私の訴えを棄却し、逃げることだけ求めてくる。
どうしてこんなことになっちゃうの? どうして私の周りから、大切な人達がいなくなっちゃうの?
ただスペリアス様に会いたかっただけで、楽園をどうこうするつもりなんてなかった。この旅路の結末が犠牲に溢れてるならば、後悔せずにはいられない。
ごめんなさいも何もできず、新たな犠牲を増やすのは嫌。だけど、ドラゴンさんに乗ってる私にはどうしようもない。
ただ言われるがまま、その背中に乗ってどこかへと飛び立ってしまう。絶望しながらスアリさんへ手を伸ばしても、もう届かない。
「ミラリア、ツギル! お前達が旅の果てに目指したかった『本当の目的』は……そのドラゴンが握ってる! それこそが……『俺の本体』の本当の願いだぁぁああ!!」
「ス、スアリさん……!?」
ただ最後に、スアリさんが闇瘴の中から必死な声で何かを訴えたのだけ聞こえた。
#####
逃げられた。悔しい。
身を挺したコイツにしても、所詮は楽園の作った紛い物。
でも、諦めない。悔しいから諦めない。
ワタシはこの経験を糧とし――装置エス――を超え――自我――
#####




