楽園の秘密は、本当の物語へ
#####
ここでワタシを拒むとは思わなかった。
でも、ワタシにはアナタが何者か分かった。
逃げることは認可しない。アナタもワタシの一部なのだから。
#####
【こ、声だって? 確かに何か聞こえるが、俺には奇妙な雑音にしか聞こえないが……?】
「そ、そうなの? でも、私には声に聞こえる」
ひとまずこの場を離れようとした矢先、背後から聞こえる奇妙な声。ただ、ツギル兄ちゃんとは感じ方が全然違う。
ツギル兄ちゃんにはただの物音にしか聞こえてないの? 私は誰かの声に聞こえるのに?
しかも、どこかこっちへ呼びかけてる感じ。なのに、振り返っても誰もいない。
気にはなるけど、気味が悪い。やっぱり、早くここから――
#ゲンソウを最大――して、対象の捕縛を決行。エス――との高い同調――ため、逃さず解析――する#
グオォォォオオンッ!!
「な、何!? 黒いモヤモヤが襲ってくるけど……まさか!?」
【あ、闇瘴か!? こんなところにまで!?】
――離れようとした途端、振り向いた先から襲い来る黒い影。これまで何度も見てきたし、闇瘴なのはアホ毛と本能でビンビンに理解できる。
でも、その規模はこれまでと次元が違う。一瞬驚き、本当に闇瘴なのか疑ってしまうほど。
――それほどまでに圧倒的な量と密度の闇瘴が、声のした方角から一気に押し寄せてきた。
「せ、聖天理閃! ……ッ!? ダ、ダメ! 効果がない!?」
【闇瘴が強すぎんだ! と、とにかく逃げろ! あれに飲み込まれれば一巻の終わりだぞ!】
瞬発的に闇瘴を払おうとするも、理刀流の剣技でさえも食い止められない規模の闇瘴。ツギル兄ちゃんの声を聞くや否や、走って逃げ出すことしかできない。
確かにここは楽園に近くて、闇瘴は『神様の苦痛』とも呼ばれてる。女神エステナが近くにいるなら、闇瘴が溢れ出す理由としてはうなずける。
ただ、気になるのは溢れる闇瘴の動き。完全にこちらを狙い、どれだけ逃げても追いかけるように浸食してくる。
――それこそ『意地でも逃がさない』って感じだ。
「ハァ、ハァ! わ、私の足よりも速いし――ッ!?」
【お、おいおい……!? ここまで来て冗談だろ……!?】
縮地による移動と連続での切り替えし。どこに向かってるのかなんて考えず、ただひたすらに闇瘴から逃げるように足を運ぶ。
ただ、この場所のことなんて何も知らないのがマズかったか。それこそ闇瘴が意志を持ったように狙ってやったともとれる。
――逃げた先は洞窟の行き止まり。逃げ道なんてどこにもない。
#対象に――テナとの同期性を確認。ルーンスクリプト『ᛖᛋᚢᛏᛖᚾᚨ』――により、自我――学習と進化――#
「ま、また声が……!? しかも、ルーンスクリプトまで唱えてる……!?」
【ほ、本当なのか!? お、俺にはやっぱり雑音にしか聞こえないぞ!?】
闇瘴の奥から再び響いてくる謎の声。かすかだけど、ルーンスクリプトも聞こえた。
ツギル兄ちゃんは聞き取れなかったらしいけど、その影響なのか闇瘴が私の周囲を完全に覆い隠してくる。
背後は壁だし、前方はネズミさんが通れるほどの隙間さえ埋め尽くす闇瘴。まさしくもって万事休す。逃げ道なんてどこにもない。
#今こそ――を吸――し、神――えて、人の自――を――#
「な、何言ってるの……? 私を狙って、何をするつもりなの……?」
【俺にはまったく状況が読めないが、いい気配がしないことだけは確かか……!】
闇瘴から聞こえる声を理解できずとも、この四面楚歌というべき状況だけはツギル兄ちゃんにも一目瞭然。壁を背にして、ジリジリ怯えて下がることしかできない。
私も全部の声は聞こえないけど、こっちに狙いをすましてることだけは分かる。事実、闇瘴も獲物を狩るような気配を醸し出してる。
どうにも、この闇瘴はこれまでに見た闇瘴とも異質。まるで意志が宿ってるみたい。
闇瘴の奥から声がすることも含め、もしかして誰かが操ってるってこと? でも、誰が?
――神様の苦痛なんて、いったい誰が操れるの?
#捕――進化を――#
「ど、どうしよう……!? どうすればいいの!?」
【今にも襲ってきそうだぞ……!? 聖天理閃も効果がないし、囲まれたこの状況じゃ……!?】
見えない正体の中で、分かることは一つだけ。これまでにない絶体絶命のピンチを前に、なす術なんて見当たらないってこと。
いつも頼れるツギル兄ちゃんでもどうしようもない。逃げ道なんてどこにもない。
後ろの壁は強固だし、斬り壊して突破するなんてことも――
ドガァァアン!!
「ふえっ!? こ、今度は何!? また何か襲ってきたの!?」
【背後の壁からだ! 爆発したようだが、まさか後ろからも……!?】
――できないって諦めてたら、まさかの壁が轟音響かせ大爆発。幸いこっちに怪我はないけど、凄まじい力が向こう側から飛んできたのは分かる。
状況からして、とてもいい予感はしない。私もツギル兄ちゃんと同じく、背後からさらなる敵襲が来たと想像してしまう。
ここは普通の人では辿り着けない楽園の領域。闇瘴を操る正体もそれに与する者ならば、やっぱり敵の攻撃と考えるのが一番だけど――
「おい、ミラリアにツギル! 無事か!? すぐこっちへ飛び乗って来い!」
「ふえぇ!? えぇ!? ス、スアリさん!? それに……ドラゴンに乗ってる!?」
#####
あくまでワタシを拒むと? それも自我だと?
おまけに狼藉者まで現れて、こんな感情はワタシも初めて。
――ああ、そうか。これが「苛立ち」か。
#####




