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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
最果てに望みし楽園
351/503

その楽園、少女の願いををををを

ここからがこの物語の本当の本番。

「う、後ろにいる人達も……もしかしてエスカぺ村のみんな……?」

「おお! ミラリアちゃんじゃな! 懐かしいのう!」

「村のみんなも楽園に揃ってるぜ!」


 旅の中で正体を知ることとなったイルフ人の鍛冶屋ドワルフさんと巫女エフェイルさん。先頭にいる二人だけでなく、一緒についてくる人達もみんな知った顔。

 みんなみんな、エスカぺ村で私によくしてくれた人達だ。懐かしすぎる面々が私の方へ歩み寄ってくる。


 ――だからこそ、この場のおかしさが余計に際立ってくる。


「そ……そんなはずない! みんながここにいるはずない! だって……みんな私の目の前で死んだ! お墓だって作った! なのに……なのにここにいるはずない! こんなのおかしいに決まってる!」

「まあ、ミラリアには唐突だったかもしれないど。だども、オデ達はこうして楽園にいるんだど」

「楽園のおかげで……女神エステナのおかげで、私達はこうして蘇ることができたのよ。楽園にいる限り、もう死に怯えることだってないってことよ」

「あ、ありえない……!? そもそも、二人はイルフ人だよね!? 楽園では奴隷じゃなかったの!?」

「細かいことは気にするんじゃないど」

「ええ。ミラリアちゃんが楽園に辿り着いた今、些細な話よね」


 みんなが昔の姿のまま、生きて私に語りかけてくれることは嬉しい。なのに、その嬉しさを素直に噛みしめられない。

 エスカぺ村のみんなは確かに死んだ。いきなり楽園の力で蘇ったなんて納得できない。

 フューティ姉ちゃんの時と同じで、死んだ人が以前のまま生き返るなんてことはありえない。一度止まった生命という時計が、再度動き出すことはない。

 イルフ人の奴隷の歴史にしたって、そんな簡単に切り離せるものではない。ドワルフさんもエフェイルさんも、こんな淡白な反応をするなんておかしすぎる。


 ――いや、この楽園そのものがどこかおかしい。


「ほう? これではミラリアは納得せんのかのう?」

「だったら、もっとミラリアが喜ぶようにする必要がありますね」

「うむ、そうじゃな。どれ、おぬしもこちらへ来てもらおうかのう」


 思わぬ動揺、たじろぐ足取り。そんな私の姿を見ても、スペリアス様とツギル兄ちゃんの対応は変わらない。

 言うなれば、どうにかして私に納得してもらおうって気持ちが透けて見える。そのためにまだ何か考えてる。

 どうしてそこまでするの? そもそも、何をもってして私を納得させるつもり?




「ほれ、彼女じゃろう? ミラリアがずっと会いたがっていたのは?」

「この人のことは姉のように慕ってましたからね」

「久しぶりですね、ミラリアちゃん。私も皆様と同じく、楽園の力で蘇れましたよ」

「えっ……!? う、嘘……!? フューティ姉ちゃんまで……!?」




 その材料とは、私にとってもう一つの大きな後悔。エスターシャで殺されたフューティ姉ちゃんの存在だった。

 エスカぺ村のみんなと同じく、笑顔で生前の姿のままビルという建物から現れてくれる。これもまた、楽園の力で蘇ったとのこと。

 確かにフューティ姉ちゃんには生き返ってほしかった。ずっとずっと会いたかった。だから本当は嬉しくて、すぐにでも胸元へ飛びつきたくなるはず。


 ――なのに、胸の奥底からこみ上げる異様な感覚。今のこの時を拒絶させてくる。


「や……やっぱりおかしい! だって、フューティ姉ちゃんはエステナ教団に今も利用されてるはず! 満足に死ぬこともできず、かわいそうな目に――」

「まあまあ、ミラリア。もう良いではないか。こうしておぬしが慕う人間が集まったのじゃから、変に考え込む必要もあるまい」

「そうだぞ。これからはこの楽園で、みんなで楽しく暮らせばいいだけさ。もう外の世界のことは忘れて、苦しまずに生きればいい」

「スペリアスさんやツギルさんのおっしゃる通りですよ。ここまで辛い旅を続けたミラリアちゃんにとって、楽園での生活はご褒美ですから」


 スペリアス様の教えに旅の中で培った経験。それらが私に『都合がいいだけの現実なんてない』と教えてくれた。

 なのにスペリアス様もツギル兄ちゃんもフューティ姉ちゃんも、私が学んだこととは真逆の態度をとるばかり。

 確かに楽園はいいところかもしれない。ここへ辿り着くため、たくさんの苦労だってしてきた。

 でも、それに怠けてばかりはいけないこと。本能的に理解できるからこそ、受け入れることができない。


 ――ずっと会いたかったスペリアス様にしても、もう私の目にはまともに映らない。


「ほれ、ミラリア。素直に楽園を受け入れるのじゃ。楽園とはゲンソウの賜物。ゲンソウある限り、身に不幸など起こりはせぬ」

「もっと美味しい料理だって用意するぞ。ここにいれば、好きなだけ苦労せずに食べることだってできる」

「だから私達と一緒にずっと楽園にいましょう。ね?」


 みんながみんな、笑顔で私に楽園を勧めてはくれる。だけど、こっちが返せるのは怯えた表情だけ。

 正直言って怖い。どれだけご飯を出してもらおうとも、どれだけ優しく接してくれようとも、この異質極まる光景から目を背けたくなる。

 せっかくスペリアス様に会えてツギル兄ちゃんも元に戻って、死んだはずのみんなにだって会えた。なのに、心から喜ぶことができない。




 ――そんな時、頭に浮かぶのは直前にスアリさんが語ってくれた言葉。私は私がこれまで積み重ねた経験を信じたい。




「ッ……!? も、もう無理!」

「むう? ミラリア?」

「おいおい。どこへ行くつもりだ?」




 だから、私にできることは楽園に留まることじゃない。

 みんなに背を向け、ここから逃げ出すことだけだ。

ミラリアが培った経験の意味は、今この時に試される。

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