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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
最果てに望みし楽園
350/503

その楽園、望みを叶える

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。

この話をもってして――

「ス、スペリアス様……? ど、どうしたの? ここを出ずにずっといるってのは……?」

「言葉通りの意味じゃ。この楽園にいる限り、外へ出る意味などありはせぬ。ずっとここにいれば、未来永劫幸せに生きられるのじゃからな」


 楽園のご飯や家族との再会に涙を流して喜んでたけど、スペリアス様の唐突な言葉で我に返る。言ってることは分からなくないものの、どこか奇妙に引っかかる。

 確かに私はスペリアス様に会うため、頑張って旅してこの楽園までやって来た。建物もご飯もキラキラしてるし、素晴らしい場所ということは確かだろう。

 でも『ずっとここにいればいい』なんてのは、私の知るスペリアス様の吐くようなセリフじゃない。優しくも厳しく接してこそのスペリアス様だ。


「そ、そんなのは……ダメだと思う。スペリアス様だって、ディストールの時『これがお前の望むものなのか?』って私に言った。今回もあの時と同じで、怠惰なのはいけない……と思う」

「あの時はあの時じゃ。おぬしだって苦労の果てにこうして楽園へ辿り着いたのじゃから、もう厳しいことも苦しいこともなしでよかろう」

「む、むう……そう言われても、かえって素直に頷けない……。だ、第一、私は楽園のことを旅で出会ったみんなにも伝えたい! ここに来るまで大変だったけど、旅の中でいろんな人達とも出会えて――」

「もう外の世界のことは考えずともよかろう? この楽園にいれば、ミラリアが悩み苦しむことも傷つくこともないのじゃ。これまでのことなど忘れ、楽園での未来だけ考えておれば良いのじゃ」

「え……? スペリアス……様? ほ、本当に……何を言って……?」


 確かに今のスペリアス様は優しい。だけど、物凄く言葉の節々で引っかかりを感じる。

 厳しさがなさすぎる。優しさを受け入れられない。私の知るスペリアス様とは違う。

 旅での思い出を語ろうとしても、楽園のことで上書きしようとしてくる。これまでの出会いについては私も語りたかったのに、まるで聞く耳を持ってくれない。


 ――何かがおかしい。さっきまでの嬉しさも吹き飛ぶほどの違和感だ。


「ツ……ツギル兄ちゃんも何とか言って! 確かに楽園はいいところ! でも、ずっとはいたくない!」

「そうは言うがな、ミラリア。俺だってもう旅を終えて、楽園に定住するべきだと思うぞ?」

「それは違う! 私、外の世界にもう一度行きたい! みんなに会いたい!」


 一緒に旅を続けたツギル兄ちゃんなら、私の気持ちも理解してくれる思って言葉を求める。なのに、返ってくるのは私の意志の否定。

 言ってることは理解できなくもない。ツギル兄ちゃんだって、ようやく魔剣から人間の姿へ戻ることができた。これ以上、余計なことでまたその身を危険に晒したくはないのだろう。

 だけど、私はみんなに会いたい。この気持ちだけは本当に正直なもの。


 ポートファイブのランさんにペイパー警部。

 カムアーチのシード卿にアキント卿。

 タタラエッジのホービントさん。

 パサラダのノムーラさん。

 イルフの里の長老様にトトネちゃんにカミヤスさん。

 スーサイドのコルタ学長にシャニロッテさんにミラリア教団のみんな。

 楽園へ導いてくれたスアリさん。


 少し思い出しただけでも、もう一度会いたい人なんてたくさんいる。もう楽園から出られないなんて嫌。

 これじゃ、ディストールの時と同じになる。だから今度こそ、心からの本心に従って言葉を紡ぎたい。


「スペリアス様! 勝手にエスカぺ村を抜け出したことはごめんなさい! でも、私はずっと楽園にいるために旅したんじゃない! お願い! もう一度外の世界へ行かせて!」

「そうワガママを言うでない。ワシもこれ以上、ミラリアを危険に晒したくないのじゃ」

「その気持ちは嬉しい! でも、今私はワガママを言ってる! こういう時、スペリアス様なら叱ってくれるよね!? ねえ!?」

「いや、叱りはせぬよ。そもそも楽園にいれば『怒り』といった不安定な感情を抱くこともなくなる。ミラリアとて、無闇に苦しくなるのは嫌じゃろう?」


 ずっと言いたかった『ごめんなさい』の言葉も添えたんだけど、全然しっくりと来ない。こんな投げやりみたいな反応は求めてなかった。

 『楽園の外へ出たい』とさらなるワガママを口にしても、スペリアス様の反応はどこか淡々。エスカぺ村の時とあまりに違うし、気持ちが薄っぺらい。


 ――だから、思うわずこう考えちゃう。




「あ、あなた……本当に……スペリアス様なの……!?」

「何を言っておるのじゃ? ワシこそおぬしの母に決まっておろう?」




 率直な気持ちを言葉にしても、スペリアス様は怒ることなく返事するだけ。もう再会の喜びなんて色褪せ、どこか血が凍るような感覚さえ走る。

 アホ毛の感覚もさっきからおかしい。キンキン警鐘を鳴らすようにピリピリしてる。


「……そ、そもそも、さっきから気になってることもある! どうしてここにはスペリアス様とツギル兄ちゃんしかいないの!? 楽園に他の人はいないの!? イルフ人とかは!?」

「ああ、成程。ミラリアは『俺達家族だけ』という状況が寂しいのか。それならスペリアス様、ミラリアのためにもどうか人をお願いします」

「そういうことじゃな。ワシに任せておくがよい」


 ワガママでも何でもいい。気になったことを口走らずにはいられない。

 楽園にはたくさんの建物だってあるのに、さっきから人の気配がしないのもおかしい。そう思って問い詰めれば、何かあるようにスペリアス様が動きを見せる。

 大きくて四角い建物を見てるけど、中に誰かいるってこと? その誰かを呼んでるの?




「さあ、皆の者よ。ビルから出てくるのじゃ。ここまで辿り着いたミラリアを出迎えてやろうぞ」

「おお! 本当にミラリアが楽園に辿り着いたどか! オデも待ってたど!」

「ここまでよく頑張ったわね! なんだか懐かしいわ!」

「え……? う、嘘……? そんな……?」




 何やら『ビル』と呼ばれる建物の中から、数名が姿を見せてくる。まだハッキリとは見えないけど、先頭にいる二人の姿には見覚えがある。

 いや、見覚えがあるなんてレベルじゃない。この二人のことは、旅の中でもスペリアス様同様にその背中を追っていた。


 ――何より、二人がいなければ私はここへ辿り着く以前の話だった。




「エスカぺ村の鍛冶屋さんに……巫女さん……?」

「オデ達だけじゃないど!」

「エスカぺ村のみんなだっているわよ!」

――『少女は魔剣と共に楽園を目指す』の物語を、本当の意味で開始します。

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