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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
始まりの村と追及の王国
35/503

その兄妹、故郷へと戻る

焼け落ちた村へ戻ったのは、たった二人で生き残った兄妹。

「うんしょ、うんしょ……もう少し……」

【……ミラリア。気持ちは分かるが、少し休んだらどうだ? あんな激闘の後だし、これ以上は体に負担が――】

「ううん、いいの。今はこれを先にしたい。せめてみんなのために、私にできることをしたい」


 燃え落ちたエスカぺ村の中で、私はしばらく泣き崩れていた。だけど、泣いてばかりもいられない。

 まずやるべきは、亡くなったみんなのためにお墓を作ること。近くの森から木を斬って運び、私なりにできる限りのお墓を建てる。

 私のせいでエスカぺ村のみんなは殺された。だから、これぐらいは当然のこと。疲れも忘れて、ただ黙々と木で形を作っていく。


「スペリアス様まで……いなくなっちゃった……」

【……悲しいのは仕方ない。俺だってそうだ。だが、スペリアス様を始めとした村のみんなは、ミラリアに生きてくれることを望んだ。楽園のこととか色々あるが、その望みだけは嘘偽りのない真実だ】

「……分かってる。私は生きなきゃいけない。みんなの想いを背負って、これからも生きていく」


 後悔後先に立たずとは、スペリアス様にも教わったこと。そのスペリアス様もみんなと一緒にいなくなって、私も一緒に死にたくなってくる。

 でも、生きなきゃいけない。ここで死んだら、私を逃がそうとしてくれたスペリアス様に鍛冶屋さんや巫女さん、それに魔剣となったツギル兄ちゃんの気持ちを台無しにしてしまう。


 生きることは辛いこと。でも、逃げちゃいけないこともある。

 できることなら、もっと早くそのことを知りたかった。知っていれば、私は素直にエスカぺ村へ帰れていた。


「私達の家もここにあったけど、同じように燃えて――あ、あれ?」

【どうした? 何かあったのか?】

「う、うん。焼け落ちた家の下に何かが……?」


 後悔に溢れながらも自宅があった場所に顔を向けると、瓦礫の下からキラリと光るものが目に映る。

 気になって探ってみれば、出てきたのは金属でできた箱。焼け跡の中から出てきたのに綺麗だし、私はこんな箱知らない。


【中に何か入ってるのか?】

「うん。これは……世界地図? それと……手紙?」

【村が燃えてた中で残ってたにしては綺麗だし、こんな箱は俺も知らないな……? まさか、誰かが後から置いていったのか?】

「とりあえず、手紙を読んでみる」


 地図の方はすぐに読み解けないけど、手紙の方は内容を読むことはできる。

 ツギル兄ちゃんに言われた通り、折りたたまれた手紙を開いて読み上げてみる。



〇 〇 〇



 我が娘、ミラリアへ。


 この手紙を読んでいるということは、ひとまず無事だということであろう。あの暴乱の中、よくぞ生き延びてくれた。

 あまり多くを語ってもおぬしを混乱させるだけじゃろうが、ワシはおぬしをディストール王国に残した時から後悔しておった。

 ミラリアのことじゃから、此度の事態を己の責任と思うであろう。もしもあの時無理矢理にでも連れ帰れば、辛い思いをさせることもなかったはずじゃ。


 ただ、一つだけ断言しておく。エスカぺ村が滅んだのはミラリアの責任ではない。全てはワシの浅はかさが招いた結末じゃ。

 何より、ミラリアは自分の脚でエスカぺ村へ戻ってきてくれた。わずかな時とはいえ、おぬしの姿が見れて本当に良かった。


 さて、ここからは本題に入ろう。おそらく、ミラリアはツギルとも再会できたはずじゃ。ツギルのことじゃから、何をどうしてでもミラリアを守ってくれているであろう。

 それはワシが命じたことでもあり、ツギルが兄として望んだことでもある。じゃが、本質はもっと別のものじゃ。


 ミラリアよ。ツギルと共に楽園を目指せ。

 おぬしには隠して申し訳なかったが、エスカぺ村は確かに楽園に関与しておる。そして、村の中で誰よりも『楽園に近い存在』と言えるのは、ミラリアじゃと思うておる。


 ワシにも詳しいことは分からぬし、迂闊に話せないこともある。このように秘密にまみれた師匠の言葉じゃが、どうか聞き入れてほしい。

 ミラリアにとって、楽園は特別な意味を持つ。その意味を知るためには、己の脚で楽園に辿り着く必要がある。

 これまでワシが厳しく修行して力をつけさせたのは、そういう意味があってのものじゃ。


 本来ならば、ワシもその旅に同行したかった。じゃが、そうもいかない話となってしもうた。

 ワシもワシで公に出れぬ身。今必要なのは、ミラリアが自分の脚で目指すべき場所を目指すこと。

 どうかツギルと共に、楽園を目指してくれ。そこに至る過程も、必ずやおぬしの力になるであろう。


 ここまで頼んでおいて最後に厚かましいが、この言葉だけはどうか言わせてくれ。

 ミラリア、それにツギルよ。ワシはおぬし達兄妹のことを本当に我が子と思って愛しておる。

 おぬし達がいてくれたおかげで、ワシは本当に『人としての日々』を過ごすことができた。本当ならば、この言葉ももっと早く直接語るべきではあったがな。


 どうか、この先の旅路に幸あれ。


 愚かな母にして魔女、スペリアスより。



〇 〇 〇



「ス、スペリアス様……! スペリアス様ぁ……!」


 そこに書かれていたのは、間違いなくスペリアス様の字と言葉。開いた手紙を思わず握りしめ、溢れる涙が零れてしまいそうになる。

 スペリアス様には考えがあった。その上で私のことを厳しくも優しく育ててくれた。

 今なら実感できる。私はスペリアス様に愛されていた。それは驕りや勘違いなんかじゃない。理屈じゃなくても理解できる。

 こんな私に『申し訳ない』とか『ありがとう』だなんて言ってくれたことにありがとう。こっちこそ『ごめんなさい』って言いたかったのに、言えなくてごめんなさい。


【……やっぱり、俺の言った通りだろ? スペリアス様だって、ずっと悩んでたんだ】

「……うん。私、つくづくどこまでも馬鹿だった。それにこの手紙で、希望も見えてきた」

【ああ、そうだな。なら、やることも見えてきたか】


 何より、この手紙の存在は私達にとっての希望だ。

 手紙と世界地図が入った箱は、エスカぺ村が焼かれた後に置かれたもの。手紙の内容だって、どう見てもあの襲撃の後に書かれてる。

 これらの条件が揃えば、ツギル兄ちゃんに言われなくても分かる。私にはまだ、しっかり『ごめんなさい』と言えるチャンスが残ってる。




 ――スペリアス様は今もどこかで生きている。

愛する家族はまだ、世界のどこかで生きている。

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