その少女、楽園への道を進む
この長き旅の終着点を目指して。
「やっぱり、どう見てもエレベーター。スーサイドのものと形は違っても、仕組みは同じみたい。どうしてこんな場所に……?」
【考えられるとするならば、楽園にもエレベーターの技術があるってことかもな。となると、楽園はこの先に……?】
洞窟を登るように進んだ先で目に入ったのは、ここからさらに上へ向かうらしきエレベーター。これを使う以外に道はない。
ここもスアリさんやイルカさんが案内してくれた道だとするならば、楽園はこの先にあるということになる。
まさか、スーサイドで見た技術をこんな洞窟の奥で見つけるなんて。エレベーターにしても、元々は楽園の技術だったってことかな?
「考えても仕方ない。とりあえず、このエレベーターに乗ってみる」
【操作方法は分かるか?】
「ここにポチポチできる出っ張りがある。多分、これを押せば動くはず」
もっとも、今更ここまで来て余計な考察を重ねる意味もない。目指すべき楽園はもうそこまで近づいてる気配がビンビン。
ここへ辿り着くまででも、世界のあちこちに点在する楽園の歴史を繋ぎ合わせてきた。それらがどうして楽園の外にあったのかまではまだ判明してない。
だけど、今優先すべきはそんな過去の歴史じゃない。私とツギル兄ちゃんは楽園へ辿り着くために、世界に点在した歴史を繋ぎ合わせてきたんだ。
ゴゥウン
【う、動き出したぞ……。本当に上を目指してるのか】
「きっと、もう少し。もう少しで楽園へ……!」
エレベーターの操作法についても、スーサイドで見たものだけでなく雪山地下やロードレオ海賊団の技術などと同じ。動かし方は自然と理解できる。
中に乗ってポチポチの部分を押してみれば、足元から上昇する感覚がこみ上げる。さっきまでの洞窟から先へ続く期待も湧き上がる。
確証はない。でも信じたい。スアリさんの言葉だけでなく、これまで私が歩んできた道のりも含めて。
――私の旅は今この時のためにある。
「どんどん上へあがってく。そもそも、今どの辺りに――あれ?」
【ん? ミラリア、どうかしたか?】
「……このガラス窓の先、チラチラ何かが見える。大きなものが置かれた空間……?」
胸に秘めた志を振り返りながらエレベーターの到着を待ってると、窓の外に奇妙な光景が映りこんでくる。
洞窟に入ってから外の光景を見れてなかったけど、ようやくその一部を垣間見ることができた。ただ、見えたものはハッキリ異質。
これまで世界中を旅して、様々な光景を目の当たりにはしてきた。でも、窓の向こうに映るものはさっき海で見たものと同じく、どれにも当てはまりそうにない。
「黒い……何あれ? 大きくて、金属とお肉が混ざり合った何か? しかもドクンドクン動いてる」
【言っちゃ悪いが不気味だな……。まるで心臓みたいだが……?】
カラクリともゲンソウともとれる。ただ、世界に普及してる魔法といったどの技術とも違う。
そう思ってしまうほど、異質で不気味な装置。大きくて黒く濁ったようにも見える心臓のような何か。
あれって、生きてるのかな? なんだか判断に迷う。
そもそも、ここって楽園に近い場所のはずだよね? なのにあんな不気味で不可思議なものがあるなんて、いったいどういうことなんだろ?
一つ気になるのは、窓越しから離れててもあの黒い心臓らしきものから何か力のようなものを感じること。
苦痛、怨嗟、憎悪、悲嘆。そんな黒い感情がアホ毛にもビリビリ伝わってくる。
この感覚、私の知る限りでは闇瘴に――
キィィィィイイン
「ッ!? あ、あぐぅ!? な、何……!? きゅ、急に頭が……!?」
【お、おい!? ミラリア!? いきなりどうしたんだ!?】
――近いものを感じてると、今度は突然私の頭が痛みだす。エレベーターの中で膝をついてうずくまらずにいられない。
それこそ、まるで闇瘴が頭に流れ込むような苦痛。闇瘴は『神の苦痛』なんて呼ばれてるけど、この痛みも楽園が近づいてるからってこと?
【しっかりしろ、ミラリア! おい!?】
「ツ、ツギル兄ちゃん……!」
ただ、この痛みを受けてるのは私だけ。魔剣のツギル兄ちゃんに影響はないのか、私へ必死に声をかけてくれる。
本当に何がどうなってるの? 楽園って『苦痛も何もない場所』じゃなかったの?
それなのに闇瘴のような痛みが頭へ入り込んでくるし、このエレベーターの先で何が待ってるって言うの?
――楽しみよりも怖さがこみ上げる。意識もこれ以上はもたない。
「ツ、ツギル兄ちゃん……スペリアス様……スア……リ……さん――」
#####
――創世――テナ――情同期――
――対象――解――
#####
「――う、うぅ……。な、何が……起こって……?」
気が付くと意識を失い、私はエレベーターの中で倒れ込んでた。上昇する感覚も収まってるし、エレベーターも停止してるみたい。
でも、どこに着いたんだろ? さっき見えた黒い何かどころか、窓の外には何も映ってない。
「ねえねえ、ツギル兄ちゃん。ここ、どこだと思――」
「もうその魔剣に語りかけても意味はないぞ。……それより、よくぞここまで辿り着いてくれたものじゃ」
「……え? こ、この声……?」
意味が分からぬまま、とりあえずはツギル兄ちゃんに語りかけてみた矢先。エレベーターの外から誰かが声をかけてくる。
この声には聞き覚えがある。どれだけ長い旅を続けようとも、この人の声だけは忘れるはずがない。
ずっと聞きたかった声。振り向いてみれば目に入る懐かしき姿。楽園を目指す旅を続けてきた本当の意味。
――それが今この時、ようやく成し遂げられた。
「久しぶりじゃな、ミラリア。ワシの言葉を信じ、よくぞこの楽園まで辿り着いてくれたものじゃ」
「ス……スペリアス……様……?」
全てはこの時のために。




