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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
最果てに望みし楽園
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その使者、楽園へと導く

楽園への道筋、今ここに。

「このイルカさんが……私達を楽園に……?」

「ああ、そうだ。こいつならば、楽園がある地まで泳いで渡ることができる。水中で息さえできれば、後は案内してくれるはずだ」

【そ、そんなことが……?】


 スアリさんが私へのお礼として用意してくれたのは、あまりにビックリな内容。事実ならばお礼が大きすぎる。

 このイルカさんが案内してくれる場所こそ、こうして私とツギル兄ちゃんが旅をする最大の理由。終点でもある目的地。


 ――海の向こうにある楽園。そこへ案内してくれる。


「……ねえ。スアリさんって、本当に何者? ここまで楽園について知ってたことも、以前に雪山ではぐらかされたことも、ここまで来ると引っかからずにはいられない」

「……ミラリアがそう思う気持ちはもっともだ。だが、俺も多くを語れる立場ではない。こんな状況で信じてくれというのが横暴なのも分かってる」

【それでも、スアリさんにはここで教える意味があるってことですよね? ……なあ、ミラリア。俺はスアリさんの言葉を信じたいが、全てはお前が納得してからだ。どう思う?】


 ただ、こうして眼前に楽園への道筋が示されると、どうしても湧き上がってくる疑問。確かにスアリさんは理刀流やデプトロイドの存在といい、楽園のことをどこか知ってる節は前からあった。

 そしてこのタイミングで楽園へ辿り着く方法まで教えてくれるなんて、何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。


「……分かった。私もスアリさんの言葉を信じる。楽園への道を示してくれてありがとう」


 でも、ツギル兄ちゃんと同じく私だってスアリさんのことを信じたい。これまでお世話になってきた分、疑いの気持ちを向けたくない。

 疑心暗鬼になる部分はあれど、スアリさんはこれまでも私へチョコチョコ道を示してくれた。

 ツギル兄ちゃんだって雪山の時、スアリさんから何かを伺ったことも覚えてる。あの時の詳細は尋ねてないけど、それがツギル兄ちゃんも納得してる理由なのは見えてくる。


 ――こういった出会いの中で抱いた感情も経験。信じたいって思える気持ちを、私自身も信じたい。


「こんな俺の話を信じてくれるとは……ミラリアはお人好しだな。かえって不安になってくる」

「教えてくれたスアリさんに不安になられても困る。何より、私は『スアリさんだから信じた』ってだけ。これでも信じる相手は選んでる」

「……そうか。お前も随分と成長したものだ。さあ、そのイルカに掴まれ。俺のことは気にせず、楽園への道を歩むんだ」


 余計な言葉はいらないって理解できる。いつものぶっきらぼうな口調の中にも、どこかスアリさんなりの配慮を感じられる。

 この旅でいろんなことを知った。いろんな痛みも経験した。でも、その中で優しさを感じることもあった。

 今のスアリさんにもそれと同じものを感じる。痛みを知ることって、きっと優しさを知ることにも繋がるんだ。これもまた、新たな発見と理解。


 言われた通りツギル兄ちゃんに魔法をかけてもらい、池から顔を出すイルカさんの上へウンショする。

 掴みやすいように背びれを向けてくれるので、しっかり掴んで準備完了。イルカさんもキューキュー鳴きながら応じてくれる。


「俺とはここまでだが、お前達の無事を祈ってる。……ただ最後に一つ、ミラリアに言っておきたいことがあるんだが、もう少し時間をもらって構わないか?」

「ふえ? 私に? うん、聞きたい。スアリさんのお話が終わるまで出発する気になれない」


 イルカさんの背中にまたがってると、別れる前にとスアリさんがもう一度声をかけてくれる。ただ、その表情はどこかこれまでよりも真剣。

 多分、今からスアリさんが口にする言葉は、今までの中でも一番大事なもの。そんな気持ちがヒシヒシと伝わるぐらい真剣な表情。

 ここまで真剣な顔をされた以上、一言一句聞き逃すわけにはいかない。




「お前はこれまで、ここに至る旅の中で、多くの経験をしたはずだ。楽しかったことも苦しいことも、全部が全部お前の大事な経験で成長だ。……楽園に辿り着いたら、それらの経験を決して忘れるな。己が目で真実を見極めろ。……いいな?」

「……うん、分かった。私は私の歩んだ道を信じる。その言葉、忘れない」




 スアリさんが語ってくれた言葉の真意までは分からない。だけど、言葉が示す願いは理解できる。

 これまで私のお世話をしてくれたスアリさんにとって、旅の中で成長してきたことこそ信じてほしいものがあるのだろう。

 楽園がどんな場所かはまだ分からない。まずはスペリアス様と再会しないことには始まらない。

 『これまでの経験を信じる』ということは『楽園への旅路を示したスペリアス様を信じる』ことにも繋がるはず。私だって、以前より成長した姿を見てもらいたい。


 ――スアリさんの言葉にこもった想いだって、きっとお父さんというもののそれに近い。


「長々とすまなかったな。さあ、行け。お前達の無事を俺も祈らせてもらう」

【スアリさん。本当に何から何までありがとうございます】

「今度会う時は、私のお母さんのスペリアス様も一緒に来る。また会える日を楽しみにしてる。……イルカさん、そろそろお願い」

「キュキュー!」


 旅とは出会いと別れ。何度も繰り返し、絆を育むことだってある。

 まだまだ子供な私でも、こういった積み重ねが大人になるための一歩って思える。スアリさんとの出会いにだって感謝したい。




 ――そうして見送られながら、私とツギル兄ちゃんはいよいよ楽園へ向かう。イルカさんは池へと潜り、目指すは楽園がある旅の最終地点だ。

長き旅での経験と成長を胸に……いざ!

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