その少女、楽園近くへ到達する
トコトコ旅を続けて、コルタ学長に教えてもらった場所へ。
「ここがコルタ学長の言ってた海辺っぽい。話によると、この海の先に楽園がある」
【地図で見ると、海辺は西に向いてるのか。そうなってくると、楽園があると思われるのは地図の真ん中辺りか?】
その後も野宿を交えて旅路をトコトコ進んでいき、ようやく辿り着いた目的の海辺。白い砂がキラキラして綺麗な場所だ。
全然違うはずなのに、シード卿と一緒にカムアーチの夜景を展望したことを思い出す。もしかすると、コルタ学長とスペリアス様もここで同じような経験をしてたのかな?
でも、二人の恋はコルタ学長の片思いだったっけ。残念ながら違うっぽい。
「とりあえず、楽園があるっぽいのは世界地図の真ん中ってこと? 確かにここは詳細が書かれていない。……むしろ、島も何も描かれてない」
【いや、これはもしかすると『誰もここへ辿り着けてない』ってことかもな。だから、島どころか何があるのかさえ判明してないってところか】
「可能性としては十分……ってことは理解。ただ、問題はどうやってこの先を目指すのか」
風景の綺麗さはさておき、目指すべきは楽園があると言われる海の先。辺りを見回してみても、船どころか人の影すらない。
スーサイドからここまで人の気配もなかったし、ある意味で秘境のような場所なのだろう。ただ、そのせいで移動手段も何もない。
遠く海の向こうは霧で覆われてて、ここからでは何も見えない。自慢のアホ毛もあそこまで遠くだと感度が働かない。
「一応は来てから考えるつもりだったとはいえ、どうにも困ったことになった。泳いで渡るのも無理」
【ならどうする? ……まさか『船を作る』とか言い出さないよな?】
「……少し考えたけどそれも無理。私に箱舟みたいなものは作れない。イカダが限界」
【それを聞いて安心した。俺もあんな思いはもう御免だ】
流石に私もこれまでの旅で学習した。泳いで世界地図の真ん中を目指すのも、イカダを作って海を渡るのも無理がある。
ツギル兄ちゃんに言われずとも、現状では辿り着く手段がない。仮に泳いだりイカダで目指しても、楽園がなかったら一環の終わり。
とりあえず来てみたものの、計画性がなさ過ぎたか。せめて船がないと厳しい。
「でも、船が必要って分かっただけでも大きな収穫。今日はここで野宿して、明日から別のところも調べてみる」
クキュルル~
【……腹が減っただけじゃないか?】
「そうとも言う。こうやって綺麗な景色も見れたことだし、記念にご飯と洒落込みたい」
まあ、ここで焦っても仕方ない。悩んだ時でもまずはご飯だ。
ここに至るまでにいくらか食料の備蓄もできたし、準備は万全。保存状態もバッチシ。
「こうしてご飯を確保できるのも、スアリさんが色々教えてくれたおかげ。……また会えないかな?」
【そうそう都合よく姿は見せてくれないだろ。……まあ、どこかで見守ってそうな気はするが】
「そうなのかな? もしそうだとしたら、やりたいことがある」
【スアリさんにか? 何を?】
砂の上で本日のご飯準備をしながら思うのは、スアリさんが教えてくれた旅の技術。栄養失調や雪に埋もれた時の経験があるからこそ、私はここまで辿り着けた。
ここ最近は会えてないけど、ずっと前から思ってたことがある。いつもは会うたびにご飯をご馳走になってるから、今度は私が――
「……しばらく見ないうちに、随分と遠くまで旅してきたんだな。魔剣とアホ毛の兄妹」
「ふえっ!? ス、スアリさん!?」
【うおっ!? ほ、本当になんてタイミングで!?】
――などと考えてるタイミングで、本当に本人が現れたら流石にビックリする。
いつものようにコートで身を覆い、腰に携えた二本の刀。旅にしても理刀流にしても、私よりずっと先輩なスアリさんが、ご飯の準備をしてる私達のもとへ顔を見せてきた。
なんだか、本当にツギル兄ちゃんが言ってた通りだ。この人、もしかして、本当に私のことを見守ってたりするのかな?
いつもピンチなタイミングで姿を見せてくれるし、お世話になったことは数知れず。でも、今回は別にピンチじゃない。
やっぱり、ただの偶然かも。
「こんなところで、スアリさんは何してるの?」
「俺は気ままに旅してるだけだ。そっちこそ何をしている? こんな砂浜でキャンプか? 楽園を目指す旅はどうした?」
「手掛かりによると、楽園はこの海の向こうにある。でも、海を渡るための手段がない。だから、とりあえずご飯」
「……飯への執着は相変わらずか。ただ、旅路が進んではいるようだな」
とりあえず、スアリさんとも久しぶりの再会だ。近くにあった倒木を椅子として用意し、腰かけてもらって軽くお話。
スアリさんの方は相変わらずというべきか。特に旅に目的を持たず、自由に放浪を続けているらしい。
私の旅も今は目的があるけど、スペリアス様と再会したらこんな旅をしてみたい。ただ先を目指すのではなく、訪れた場所を時間をかけた楽しむのも一興か。
「あっ、そうだ。私、スアリさんにしたいことがある」
「俺にしたいこと……だと? 何をする気だ?」
ところで、偶然とはいえこうしてスアリさんと再会できたのもいい機会。ツギル兄ちゃんとの話の途中だったけど、私にはこのタイミングでやりたいことがある。
いつもお世話になってばかりでは申し訳ない。今の私なら余裕もあるし、丁度ご飯の準備もしてたところだ。
「スアリさん。私のご飯、食べていって。今度はこっちがごちそうする」
「ミラリアが……俺にごちそうするだと?」
裏で何かを動く男、スアリ。
そんなスアリにお礼の意味もこめてミラリアご飯。




