その少女、道中でご飯に思う
新章にて、いよいよ迫るは目指すべき楽園。
そんな道中でミラリアのご飯タイム。
スーサイドを離れて早数日。再び私とツギル兄ちゃんだけでの旅路となり、南方目指してトコトコ旅を続ける。
結構長い道のりだけど、過度に険しくはない。魔物に襲われたりはしつつも、着実に目的地へと進んでいる。
――この道の先にある海のさらに先に、目指すべき楽園があると今は信じる。
「地図を見ると、あと少しみたい。今日はここで野宿にする。丁度良さそうなご飯も手に入った」
【襲ってきた魔物を返り討ちにして、ミラリアの腹に収まるのか。成長した今のお前相手に勝てる魔物なんて、そうそういないだろうな】
「そうだとしても油断はできない。ゼロラージャさんみたいな人がいてもおかしくはない。ともかく、今はご飯が第一」
急ぐ気持ちはあるものの、私の毎日は適度な休息と的確なご飯によって成り立っている。旅の合間の野宿であろうとも、普段通りの行いを忘れてはいけない。
ここ最近、スーサイドでエステナ教団と戦ったことを思い出して、命の在り方というものをより意識するようになった。ゾンビにしてもフューティ姉ちゃんにしても、どこか命に冒涜的であったと振り返れる。
スペリアス様からも『粗末にしていい命などない』って教わった。だからなのか、エステナ教団の行いは凄く忌々しく見える。
――生死という理さえも歪める行為は個人的にも受け付けない。
「今日のご飯はさっき手にした鳥と卵の炒め物。食べれる野草もあったし、彩も栄養も十分」
【野営にしては豪華なメニューだな。この先に街とかはないみたいだし、しっかり食べておけよ】
私だって日常の中で生死を選ぶ時はある。ご飯がいい例。
ご飯を食べることは命をいただくということ。
自分が生きるためには、別の命に痛いことをしないといけない。逆に自分が痛い目に遭った時は、その経験をもとに前へ進む糧となる。
カーダイスさんが逃れようとした苦痛というものは、それこそ理の一部。苦痛を知ってるからこそどんな命も大切にして、満遍なく感謝していただくことが大切。
そして『お腹が空く』という苦しみがあるからこそ、人はご飯を求める。空腹だってスパイスとなり、ご飯の喜びを加速させる。
――すなわち、世界の在り方とはご飯の在り方。少なくとも私はそう思う。
「……おっと、いけない。満遍なくご飯をいただこうとする最中なのに、雑念が混じってしまった。ご飯に失礼」
【何をそこまでかしこまるほど考えてたんだ? まあ、野営中心となると自分で作らないといけないからな。たまには店での食事が恋しくもなるか?】
「そういうわけじゃないけど、確かにお店のご飯は恋しい。ミラリアクッキングではレパートリーに限界がある。美味しいご飯とは作り手の数だけあるし、誰かが作ったご飯ももっと食べてみたい」
アホ毛をモニュモニュさせつつらしくない哲学を交えながらも、ツギル兄ちゃんとちょっとしたご飯談義。
この旅でも思ったけど、ご飯を知ることはその土地を知ることにもなる。
やはり、ご飯は世界の縮図だ。ご飯を知れば世界を知れる。
【……なあ、ミラリア。もしも楽園に辿り着けたら、スペリアス様と一緒にそこで暮らしたいとか思うのか?】
「むう? いきなり今後の話?」
出来上がった鶏肉と卵の野菜和えを口にしてると、今度はツギル兄ちゃんから奇妙ともとれる質問。まだ楽園への到達もスペリアス様との再会も果たしてないのに、その後の話とは気が早い。
確かに私は昔から楽園に憧れてた。今だってそこを目指すための旅を続けてる。
だけど『目指すべき理由』については変遷してる。人の心とは経験の中で移ろうものである。
「私が楽園を目指すのは、あくまでスペリアス様に会うため。スペリアス様が示した道を完遂するため。これまで訪れた場所と同じで、楽園もその一つに過ぎない。……てか、そういった話は何度もしてる」
【……ああ、そうだったな。ミラリアにはスペリアス様と一緒に『もう一度旅をしたい』って目標があったな】
「その通り。かつては色々な気持ちに振り回されて今も未熟な私だけど、その願いだけは本物。世界中様々な場所を旅しても、まだまだ行けてない場所だってある。もう一度行きたい場所だってある。そこを今度はスペリアス様と一緒に巡りたい」
ツギル兄ちゃんの質問は少々愚問というものだ。もう私はワガママ言って駄々をこね、エスカぺ村から追放された時とは違う。
楽園のご飯に興味はあるけど、言ってしまえばそれだけ。これまでに見聞きしたイルフ人の奴隷の歴史やエデン文明の奥底に眠る恐ろしい力を考えると、むしろそこで住もうなんて思わない。
――あの日できなかった家族での旅の続きをしたい。もちろん、その前にスペリアス様へごめんなさいしてからだ。それが今の私の全て。
「そして……もしも旅が終わってどこかに定住することになったら、その時はエスカぺ村みたいな場所がいい」
【あらゆる苦痛が取り除かれたと言われる楽園……よりもか?】
「うん。いっそのこと、苦痛はある程度あった方がいい。苦しまない生活に進化や成長があるかは疑問。……もう、ディストールでの怠惰は私が味わいたくない」
【……フッ、そうか。いや、俺も余計な質問をした。もうミラリアに余計な言葉は必要なさそうか】
「むう……無理なお説教は嫌だけど、ツギル兄ちゃんの力は必要。ご飯のための火が起こせない」
【……俺の最大の存在意義、飯のため?】
内心でツギル兄ちゃんの小言が煩わしい気がしつつも、心根を引き締めることはできた。今の私は己の目的を見失わずに前を向けてる。
その気持ちが誇らしい。自分なりに成長できた気持ちになれる。
――目指すべき楽園だって大きなヒントが手に入ったんだ。ここで道を違えることなんてしたくない。
もうあの時のようにはいかない。
少女の苦痛も含めた経験は、確かな成長として根付いている。




