{スーサイドのその後}
スーサイドでもまた別の勢力が動く。
◇ ◇ ◇
「コルタ学長、お客様がお見えですの」
「このような時に客人じゃと? まだスーサイド内部の対処は完全ではないのじゃが、どちら様かのう?」
「何やら、旅人みたいでしたの。エステナ教団ではなさそうですの」
ミラリとツギルが旅立った翌日。スーサイドではなおもゾンビ化騒動の後始末に追われていた。
元に戻った学生や教員も一命をとりとめたとはいえ、エステナ教団に奪われた魔力は完全には戻っていない。
時間をかけての療養が必要となり、魔法学都としての機能そっちのけで無事だった者達が手当てを行っていた。
「シャニロッテ君達や。少しの間、皆の様子を見守っていてくれ。儂も学長として、来客をただただ追い返すわけにもいかんでのう」
「分かりましたの!」
「この場は我ら!」
「ミラリア教団に!」
「お任せです!」
来客が来ても対応できる者に乏しく、コルタ学長が自ら出る必要さえある状況。いくら忙しいと言っても、そこで手を抜かないのがコルタ学長の人柄だ。
無事だったミラリア教団の面々にその場を託し、一人で来客のいる正面玄関へと足を運ぶ。
「お前は……コルタか。まさか、学長になっていたとはな。懐かしいものだ」
「はて……? あなた方はどちら様で……? お会いしたことがあったでしょうか?」
「スアリ様。今のお姿では、普通の人間には理解できません」
そこで待っていたのは旅人と思わしき二人組。一人は二本の刀を腰に携えた壮年の男で、もう一人はメイド服を着た眼鏡の女。
この二人もまた、ミラリアと浅からぬ関係を持つ者達。二刀流剣客のスアリと魔王軍幹部のユーメイトである。
「あまり長々と話もできない。コルタよ。お前にはこれを託す。スーサイドで何があったかは俺もおおよそ把握している。それを使えば、ゾンビ化で奪われた魔力も戻せるはずだ」
「これは――ッ!? ア、アテハルコンじゃと!? しかも、魔力の源となる加工が施されておるとな……!?」
ただ、コルタ学長はこの二人の正体を知らない。どこか違和感のある語り口も含め、まずは何者かを明白としたい気持ちもある。
それでもスアリが急くように手渡してきたものを目にすれば、疑問以上の驚嘆を漏らさずにはいられない。
スアリが持ってきたのは神の金属アテハルコン。しかも宝玉へと加工されたものである。
この加工技術にはかなりの練度を要し、魔法に精通したコルタ学長にはその凄さが手に取るように分かる。この宝玉がもたらす恩恵がスアリの語る通りであることも含めてだ。
――アテハルコンの宝玉さえあれば、疲弊したスーサイドの人々を救うことだってできる。
「わざわざ私の方で確保したアテハルコンを、ゼロラージャ様に加工していただいたのです。ですが、スアリ様の懸念は当たっていたということですか」
「ああ、そのようだ。……どうやら、エステナ教団には袂を別ったかつての同胞がいるようだ。エデン文明も扱える上、使い道もあまりに暴虐的と言えるものだ。スーサイドの様子を伺うに、事態を急がせた方がいいのかもな」
「あ、あの……儂としては実に助かるのじゃが、あなた方は本当に何者で……?」
やりとりを傍で見ていたユーメイトは眼鏡をいじりながら軽く語り、スアリは少し考えこむように答える。
二人がこのタイミングでスーサイドを訪れたのは、ゾンビ騒動をある程度予測してのこと。予測できたからこそ、手当てできる道具も用意できた。
しかし、それらの思考の奥底に眠るものをコルタ学長には理解できない。感謝の言葉以上に疑問が口から零れ落ちる。
「……俺達の正体は語れない。だが、コルタよ。少し前、ここに魔剣を携えた少女が訪れたはずだ。お前はその子のことをどう考えている?」
「な、何故そのことまで……?」
それでもスアリから答えは返らず、逆に質問を投げ返される。これにはコルタ学長も一度口ごもらずにはいられない。
スアリが求めているのはミラリアのことに違いない。たとえスアリ達がスーサイドを救うためにアテハルコンを用意してくれても、真にスーサイドを救ってくれたミラリアのことなど簡単には口走れない。
正体が分からない相手に、恩人の情報を迂闊に与えることが危険なのはコルタ学長も理解できた。
「……そうか。俺のように正体不明の相手へ、迂闊には話せないほどか」
「……ああ、その通りじゃ。儂はあの者の想いを汲み取ることを第一とする。正体さえ明かしてくれれば、語る材料にもなるじゃろうて」
「いや、その言葉と気持ちだけで十分だ。……失礼する。コルタもあまり無理をするな。普通の人間は老いて当然。その当然の中で人間として生きてくれ」
「ほ、ほう……? い、いったい……何が何じゃか……?」
そんなコルタ学長の気持ちを理解できれば、スアリとしては十分な収穫である。アテハルコンの宝玉を持ったコルタ学長に背を向け、そのままユーメイトと共にスーサイドを後にする。
コルタ学長としても無下に追い返すつもりはなかったが、引き止める余裕すらなかった。あまりに唐突な訪問に対し、流されるまま従うしかなかった。
――ただ、その時のスアリを見てコルタ学長の身に走るのは、どこか懐かしくもある奇妙な感覚であった。
「随分と急がれるのですね。思い出の地や人物にも目をくれている場合ではないと?」
「ああ、その通りだ。……ユーメイト。お前は先に魔界へ戻っていろ。ゼロラージャには『俺の本体』から声をかけてある。『こっちの俺』はミラリアの後を追う。……神判の時は近い」
「……かしこまりました」
スーサイドを離れたユーメイトとスアリについてだが、こちらはこちらで急ぐ動きを見せる。
言葉少なにそれぞれの今後の動向だけを確認。再びミラリアへの接触を図るスアリは一人、ミラリア達と同じく南方の海辺へと歩みを進める。
――海の先にあると言われる楽園。そこにミラリアが辿り着いた時、何が起こるのかはスアリにさえ図れない。
「……はたして、自我を宿した神はどのような選択をするのか? ミラリアよ……その目で全ての真実を見極めてくれ。それが俺がここまで生きながらえた理由だ」
◇ ◇ ◇
これにてスーサイドでの物語はおしまいです。
次章からはいよいよ楽園へ――




