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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
340/503

{敗北した教団のその後}

エステナ教団もまた、裏で暗躍を続ける。

◇ ◇ ◇



「戻ったか、カーダイス。その様子だと、スーサイドでミラリアに敗北したようだな」

「……あまり話しかけないでいただきまして? 妾の美に傷をつけたあの小娘を思い出すと、胸糞悪いものがありますので」

「おやおや、随分と苛立っておりますね? 肉体面の苦痛が排除できたとはいえ、精神面の苦痛はまだまだといったところですか」


 スーサイドの一件の後、世界のどこかで動きを見せる勢力がもう一つ。偽物の女神エステナを使ってゾンビ騒動を起こしたエステナ教団もまた、ミラリアとツギルの旅路とは別に動きを見せていた。

 内部から手引きしていたカーダイスも今や、エステナ教団上層部たるレパス王子やリースト司祭と同列の立場。スーサイドでの地位を捨て、完全にエステナ教団と組んでいた。

 肉体の改造で理想の力も手にはしたが、その表情に浮かぶは不満の色。ミラリアへの敗北に納得できず、レパス王子とリースト司祭のことを軽く睨んでいた。


「にしても、女神エステナまで敗北してしまったということでして? 偽物とはいえ、人の手では届かない力を持った存在ではなかったのですか?」

「ああ、そのはずだ。すでに死んだ身で能力を使うことしかできない道具のくせに、それさえ満足にこなせないとはな。リースト司祭、本当に大丈夫なんだろうな?」

「そこについては私も改善に努めましょう。……にしても、私としても想定外だったものです。よもや『神の(ことわり)』さえ越えられますとはね」

「…………」


 そしてこの場に集う影がもう一つ。その身を偽物の女神エステナとして利用されたかつての聖女、フューティである。

 セアレド・エゴの力を内側に宿され、すでに死した身でありながら都合よく利用される悲しき傀儡。リースト司祭の見立て通りに楽園の力を手にこそしたが、もう本人に意識などない。

 それでもミラリアに負けたのは、奥底に眠るフューティのかすかな記憶故か。とはいえ、その場にいる者達が理解を示す様子はない。


 ――心はもうすでに、人とはかけ離れつつある。


「まあ、スーサイドで最低限の魔力は供給できました。それをベースとすれば、今度はあの小娘が相手でも負けることはないでしょう」

「それともう一つ、僕達のさらなる改造についてもな」

「妾も負けたままというのは気に食いません。リースト司祭が持つエデン文明の力には期待させていただきましょう」

「ええ。存分にご期待ください。次の改造が完了すれば、あなた方も女神エステナと同等の肉体となるでしょう。……『ものを食べる』といった余計な行為も不要となり、自らの願望のために邁進できますよ」

「ほう……それはまた面白そうだな」


 その欲望は留まるところを知らない。レパス王子やカーダイスは今の肉体でも飽き足らず、まだまだ先を望んでいる。

 不老にして不死、強度も再生も自在。あまつさえ、食すことさえも不要とした肉体。その言葉を聞いてレパス王子とカーダイスはただただほくそ笑む。

 二人の心が求めるのは『何者にも負けない絶対的な力』に他ならない。ただ、求める根底の理由は揺らぎつつある。

 エステナ教団との結託で世界を手にしたいという思いはある。より長い時を生きられる肉体という願いもある。

 ただ、それらの思想も少しずつズレ始めていた。肉体が苦痛を感じなくなったことは、精神さえも歪めていた。


 息絶えたフューティさえも平気で道具と扱う心。

 食べないことさえも受け入れる心。

 本来の人間が持つ箇所を簡単に捨てられる心。


 ――ひとえに『痛みと共に心さえも失った結末』とでも言うべきか。


「私もあなた方の要望には応えます。ですので、どうかその道筋の傍に置かせてくださいませ。私も苦痛にあえぐのは懲り懲りなものでして」


 それらの欲望を裏で叶えるリースト司祭もまた、人とは思えぬ心の持ち主である。ただ己への被害を危惧し、ただただ逃げる道ばかりを求める。

 強く脅されたわけでもない。裏でエデン文明をいくつも理解しておきながら、その心根を理解できる者はいない。

 周囲にいる人間は当然ながら、ミラリアやツギルといった旅の中で成長する人間にはなおのこと理解できないであろう。


 ――何故なら彼の存在は『進化を放棄した成れの果て』とも言えるものである。




「私もあの日、スペリアスの言葉に乗せられなければよかったものです。……やはり、人が目指すべき指標は楽園にあり。楽園こそ、人類が目指すべき終着点。それを存続させるためにも、ただただ従い続けましょう」



◇ ◇ ◇

楽園の存在が今ここに物語として収束する。

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