{逃げだした海賊のその後}
三人称の幕間編。
ロードレオコンビが逃げ出した後について。
◇ ◇ ◇
「どないかして逃げ出せた……。まったく。わけのわからん騒動にまで巻き込まれて、とんだ災難やったで」
「最初から敬遠しとけば、こんな面倒にも巻き込めれなかったんでさァ……」
陽が暮れたスーサイド近郊の森の中。ミラリアとは逆方向に歩を進めるのは、スーサイドに乱入していたロードレオ海賊団のレオパルとトラキロ。
肩を落としてお互いに愚痴を言い合いながら、これ以上の関与は御免と逃げるように森を行く。
結局は『ゾンビが何だったのか?』なんて理由さえ知ることなく、どさくさに紛れて脱出するのが精一杯であった。
「なんでも、エステナ教団まで裏で動いてたみたいですぜェ。見つからなかったからよかったものを、今回は本当に何のためにここまで足を運んだんだかァ……」
「うっさいわ、トラキロ。ウチかてここまで派手な大事に巻き込まれるとは思わへんかったんや。……もう、コルタ学長の顔も見とうない。しばらく引きこもりたいわ……」
「いっそ、あんたは一人で永久に引きこもってればいいんじゃないですかァ? 方々にヘイト巻き過ぎて、やりにくいったらありゃしねェでさァ……」
どれだけ強大なサイボーグ技術やカラクリを要していても、今回の一件はロードレオ海賊団として失敗と言わざる他ない。
コルタ学長というスーサイドの重鎮どころか、カムアーチのシード卿という他所のエリートの目にも留まる始末。エステナ教団との接触がなかったとはいえ、噂はいずれ耳に入る。
それらの事象が示すのは、ロードレオ海賊団の動きを束縛してくる可能性。逃げ出せたことが幸運であり、今後のことでの不安は残る。
――もっとも、こうなった原因がレオパルの『ミラリアに会いたい』という欲情なのは、トラキロにとっては実に歯痒い。
「オレとしては、レオパル船長の馬鹿に付き合ってロードレオ海賊団を縛り付けるのが嫌でさァ。……こうなったら、ロード岩流島にあるあの秘密兵器を動かして、ちょいと世間に威嚇するのはどうですかねェ?」
それゆえなのか、トラキロが次に考える動きは実に攻撃的なもの。減衰しつつあるロードレオ海賊団の勢いを取り戻すためには、本来使わない力も必要と考える。
ロードレオ海賊団本拠地――ロード岩流島。そこに眠る力こそ、カラクリの集大成とでも言うべきもの。
トラキロも存在は知っていたため、今こそ使い時と考えての提言であった。
「……おう、トラキロ。そないな口、二度と開くんやないで? ウチかてアレを動かしたがらへんのは知っとるやろ?」
「ッ!? す、すんません……口が過ぎましたでさァ……」
だが、それを聞いたレオパルの反応は渋いというレベルではない。普段のおちゃらけた様子も鳴りを潜め、トラキロを威圧するように提案を跳ねのける。
それこそ、トラキロほどの男であっても有無を言わせない気迫。ロードレオ海賊団船長という肩書が伊達ではないことが、その一幕でも理解できるほどであった。
「アレの存在はスーサイドの文献から掘り当てこそしたが、実際に動かす気ぃにはならへん。ウチらのサイボーグ技術についてもアレがベースではあるが、規模が違いすぎる。おどれには前に説明したやろ?」
「そ、そうだったでさァ……。しかし、オレも規模までは知らねェもんで……。本当にそこまでヤバいシロモノなんですかァ?」
「ああ、ヤバいな。流石のウチも起動をためらう。……下手すりゃ、それこそ世界が終わんで?」
「ア、アレって、そこまでの力がァ……!?」
何より、トラキロの提案した力はレオパルでさえも使うのに躊躇するほど。これまで己の欲望のために手段を選ばなかったレオパルでさえ、その力は『完全な禁じ手』と捉えている。
世界が滅ぶというのは誇張に非ず。カラクリに精通したレオパルだからこそ、今も本拠地で眠る力の恐ろしさは理解している。
――その力が放たれた時、人も魔も巻き込んで世界の均衡を傾けることだけは事実である。
「あないなもんが天を舞えば、ロードレオ海賊団がどうこうやあらへん。……あの空飛ぶ船を迂闊に動かせば、これまでの世界まで変わってまうわ」
◇ ◇ ◇
そう。ロードレオ海賊団が握るのは、かつてミラリアも片鱗に触れたあの力。




