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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
336/503

その学都、騒動が終焉する

エステナ教団もカーダイスも敗走し、わだかまりを抱えながらも事件は収束。

「ミラリア! コルタ学長! 無事でしたか!」

「ツギルさんもお疲れ様ですの! 皆様のおかげで、ゾンビになった人達も元通りですの!」


 エレベーターで中層広場まで戻ってみると、早速出迎えてくれるシード卿とシャニロッテさん。周囲を見渡せば他にも人がいるけど、さっきまでのようなゾンビはどこにもいない。

 代わりにいるのは元に戻った学生や教員。みんな疲れた様子で広場にへたり込み、ミラリア教団の面々などから手当てを受けている。

 ゾンビになったのは体内の魔力を入れ替えられた影響だし、それで疲れがドッと出ちゃったのか。


【見た感じ、逃げ延びて無事だった人もいくらかいたのか】

「みてえだな。俺の付き添いだったメイド二人も無事だったらしく、今は他で手当てに回ってもらってる」

「しばらくは療養が必要な者も出てくるじゃろう。魔力についても完全に元へ戻ったわけでなく、消耗しておるようじゃな。エステナ教団が奪っていった分は返らぬということか」


 そのせいでスーサイド全体に渡り、無事だった人達が奔走してる様子。私も手伝った方がいいかと思ったけど、周囲からは『休んでいてほしい』と言われてしまった。

 別にないがしろにされたわけでなく、単純に戦いでの疲労が抜けきってないからのを労わってくれてのこと。正直、私もお言葉に甘えておきたい。


 フューティ姉ちゃんが死してなお利用されてた件、カーダイスさんがスーサイドを裏切った件、エステナ教団の関与などなど。

 今回の一件において、私も気疲れしちゃう場面が多かった。今だって動乱こそ終わっても、心の奥底で渦巻くモヤモヤが苦しい。


「う、ううぅ……アーシもシャニロッテちゃん達から聞いたが、あんたがアーシ達を救ってくれたんだって……?」

「アーシさん……よかった。元通りになってる。私へのお礼はいいから、今は体を休めてほしい」

「ハハハ……本当に大したちびっ子だ。アーシもなんだか器の違いで敗北感を感じるし……。スーサイドの中でのサークル派閥争いも、どこか虚しいし。カーダイスも生きてれば、同じように言ってたと思うし」

「……うん」


 広場にある椅子に腰かけて待ってると、近くに横たわって介抱されてるアーシさんが声をかけてくれる。かなり弱ってるけど、命に別状はないみたいで一安心。

 その際にカーダイスさんの話も出てくるけど、ここについてはコルタ学長の意見でみんなには伏せることとなった。

 本当は自らの死を偽り、ゾンビ騒動の主犯として動いていたという事実。そんなことを今漏らせば、疲弊しきったみんなを混乱させるだけと考えての判断。

 中には『かつての教え子の変貌を信じたくない』って思いもありそうだけど、提案自体には私も賛成。思わず返答に困りつつも、みんなのことを第一に考えたい。


「むう? そういえば、レオパルさんとトラキロさんはどうしたの? みんなと一緒にゾンビの相手をしてたよね?」

「それなんだが……いつの間にかいなくなってた」

「ゾンビの相手は一緒にしてくださったのですが、皆様が元に戻った頃には消えていましたの」

【やっぱり逃げたか……。まあ、釈放を条件に協力してもらってたから、仕方ないと言えば仕方ないか】


 なお、ロードレオコンビについてはどさくさに紛れて逃げ出しちゃったみたい。とはいえ、納得するしかないというのは私も同意。

 あの二人についてもゾンビ騒動には巻き込まれる形だったし、交換条件で協力してもらったに過ぎない。一応は最後までいてくれたみたいだし、不服ながらも心の底で感謝させてもらう。


 それにしても、まさかレオパルさんが私を追ってスーサイドまで乗り込んだのが功を奏したということか。

 巡り巡って私が居合わせたことがよかったってことにもなる。人の縁というのも不思議なものだ。


 ――できることなら、あそこの海賊団とは関わりたくないけど。心が穢れるのは嫌。


「……ふむ。無事だった者達にも指示は出せたようじゃな。後のことは少々君達に任せておきたいのじゃが、大丈夫かのう?」

「何とかなりそうです!」

「お任せされます!」

「この場でお役立ちです!」

「ホホホ。あれほどのことがあったのに元気が良いのは流石じゃ。……儂は少々、ミラリア君と話をしたいのでのう」


 何より、ロードレオ海賊団のその後を考えてる場合でもない。私にもまだお話が残ってる。

 コルタ学長だって疲れてるのに、無事だった人達に指示を出して円滑に事態を収拾させる様は流石学長。こうやって人の上に立ってる姿を見ると、お友達だったというスペリアス様とも重なる。

 ミラリア教団といった面々に声をかけると、こちらを手招きしてくれる。さっき話してた続きをしたいみたい。


「あまり人が多いところでは儂も落ち着かんからのう。この中なら丁度都合もよかろう」

「倉庫の中? 確かここには……?」

【スペリアス様の銅像が保管されてる場所ですよね? 確かに余計な人は入って来ませが……?】

「うむ……まあ、少し待ってくれ。儂も気持ちを落ち着けたいのでな」


 そうして案内されたのは、中層広場の隅ある倉庫の中。思い返せばここに足を運ぶのも何度目だろうか?

 保管されてるスペリアス様の銅像にお辞儀もして、コルタ学長の言葉を待つ。ただ、その様子はなんだか言い辛そうな雰囲気。

 別に嫌な気配はしなくて、言うなれば『恥ずかしがってる』って感じ。スペリアス様のことについて語ってくれるらしいけど、どんなことを語ってくれるんだろ?


 ――あっ、でも、私にも一つ心当たりがある。


「ねえねえ、コルタ学長。私、あなたの話したいことを言い当ててもいい?」

【え? ミラリアが言い当てるって? 随分と珍しい言葉が口から出たな……】

「……ホホホ。その様子を見るに、やはり勘付かれておったか。なら、述べてみるといい。儂とスペリアスの間にある関係性についてのう」


 シャニロッテさんの朝練に付き合ってた時、コルタ学長とも少しだけお話をした。あの時はダンジョン事故の話が入ってきて中断されたけど、なんとなく私には気になってたことがある。

 ツギル兄ちゃんに『ミラリアのくせに』なんて言われるのは不服とはいえ、あの時にツギル兄ちゃんは不在だった。だから、何があって何を感じたのかまでは知らない。


 ――その答え合わせも含めて、私の方から口にさせてもらおう。当たってたらコルタ学長が恥ずかしがる理由にも納得できる。




「コルタ学長って……もしかしてスペリアス様のことが好きだったの? 友情じゃなくて、恋っていう意味で」

ミラリアも随分鋭くなったもので。

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