◇スーサイド闇鬼末行Ⅲ
さあ、本章本当の大ボスにご登場いただきましょう。
「……着いたようじゃな。ここがスーサイドの最上階で、儂の部屋でもある学長室のあるフロアじゃ」
「そんなに広くないし一本道。ツギル兄ちゃん、誰かの気配は感じる?」
【ゾンビの集団はここまでは来てないみたいだ。……ただ、奥の扉の先に誰か一人いるな】
みんなと別れ、コルタ学長と共にやって来たのはエレベーターの一番上。女神エステナに代わってゾンビを先導する張本人が潜むと思われる学長室だ。
道も気配も一本の道しか示していない。一番上にある一番偉い人のお部屋で待ち構えてるなんて、それ自体が凄く偉そう。
主であるコルタ学長のお部屋に勝手に居座るのだってお行儀悪いし、お仕置きの意味も含めて倒すのを急ぎたい。
――今だってみんながゾンビの足止めをしてくれてるし、時間をかけてなどいられない。
「私が先行して突入する。コルタ学長は援護できる?」
「任せておくがよい。老いたとはいえ、スーサイドの学長じゃ。スペリアスの子供達だけに任せておっては名が折れるわい」
【なら、お願いします。……行くぞ、ミラリア】
覚悟はとっくに決まってる。学長室の扉に手を当てながら準備も整った。後は突入するのみ。
それにしても、この先にいるのって誰なのかな? エステナ教団は全員引き上げたと思ったけど、まだ誰か残ってたとか?
だとしたら、わざわざ一人で残る理由が見えてこない。いや、ここで考えるだけでは意味もない。
――扉を開けば、それらの答えも見えてくる。
「あらあら? まさか女神エステナやエステナ教団を追い返し、ここまで辿り着くとは思いませんでした。……妾も少しは称賛いたしましょう。とはいえ、この最後の一線だけは譲れません故に」
「えっ……!? そ、そんな……!?」
【き、君は確か……死んだはずじゃ……!?】
まさに『待ってました』とばかりにその人は最奥の机に無作法にも腰かけていた。学生服姿で足組してる姿は美しいけど、同時に異様でありえない光景として飛び込んでくる。
だって、この人がここにいるのはおかしいもん。ゾンビ騒動が巻き起こるより前、この人は確かに息を引き取っていたはずだ。
なのに、今は優雅に髪をかき上げながら何事もなかったかのように待ち構えている。その姿が不気味で恐ろしい。
「カ、カーダイスさん……!? ど、どうして……!? あなたは――」
「『死んだはず』……とでもおっしゃりたいのでしょう? あれはちょっとしたフェイクです。妾がこうしてここにいる理由と照らし合わせれば、己の生死さえ偽造した意味も見えるでしょう? 目を盗んで動くには、一度死んだことにするのが好都合でしたが故に」
【そ、それじゃあつまり、君はエステナ教団と内通して……?】
事象としてはフューティ姉ちゃんの時に近い。ただ、こっちは『死んだと思った人が生きていた』のであって、蘇ったとかではない。
語り口も軽やかだし、全てを理解した上でここにいる。何より、ゾンビを生み出す魔力を持ってる人間なんて、この状況で一人しか考えられない。
――ダンジョン事故で死んだと思われたカーダイスさんこそ、女神エステナの代理にしてスーサイドにおける凶行の元凶だ。
「よもや、君が内通者の正体だったとはのう……カーダイス君」
「内通者って……コルタ学長は何か知ってるの?」
「知ってると言っても、可能性として危惧しておっただけじゃ。エステナ教団がスーサイドに網を張り巡らせているのは察しておったし、内通者の存在も考慮しておった。じゃからこそ、シード卿にも話を伺っておったのじゃがな……」
私は焦ってばかりだけど、コルタ学長の方はまだ冷静だ。動揺は見えるけど、ある程度の予測はしてたみたい。
シード卿との話の内容についても少しだけ読み解ける。スーサイドに内通者がいるならば、カムアーチから来たシード卿は頼りにもなる。
何より、カムアーチはエステナ教団に疑心的だ。ただ、事態は都合よく動いてくれなかったってことか。
「そういった行動はいささか遅かったようですね、コルタ学長。妾にも目的があるので、エステナ教団に協力していた次第です。膨大な魔力が眠るスーサイドへ潜り込めるよう、こちらで手筈しておきました。上手く事故を装い、ここまで事を運ばせていただきましたよ」
「……何故じゃ? 君は何故己の死を偽造してまで、スーサイドにエステナ教団を潜り込ませたのじゃ? 此度のゾンビ騒動についても、理解できておったはずじゃろう? なのに、ここまでの冒涜を許すなど……!?」
結果として巻き起こった今回のゾンビ騒動。それを知っていてなお、カーダイスさんは傲慢ともとれる態度を崩さない。
コルタ学長も顔をしかめ、少しずつ声が荒くなってきてる。今回の騒動を振り返れば、スーサイドのトップとして当然の反応だ。
「妾にも『目的がある』と申したでしょう? スーサイドだけでは叶わず、エステナ教団と協力してこそ得られる妾の夢です」
「……そのためにスーサイドのみんなを犠牲にすることもいとわなかったってこと? だとしたら軽蔑する。あなたの夢にここまでの犠牲を払う意味があるっていうの?」
「ホホホ、ありますとも。エステナ教団が手にするその力を、妾はどうしても手にしたかったのです。……そう。かつてスーサイドに君臨した大魔女スペリアスと同じ力を」
そんなコルタ学長の怒りも関せずとばかりに、カーダイスさんは以前同様に扇子で口元を覆って笑いながら語り続ける。ただ、その笑みは美しいというより不気味。
どことなくレパス王子に近いものを感じるし、目論見についてもゾワゾワしてくる。確か、カーダイスさんの夢ってアーシさんも少し語ってた。
――スペリアス様と同じ力となると、やはりあの力のことだろう。
「不老の技……もとい、不老不死。エステナ教団代表たるレパス王子も有するその力を、妾はどうしても手にしたかったのです」
女学生カーダイス。彼女こそ、内側からエステナ教団を招き入れた張本人。




