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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
325/503

◆偽神フェイク・エステナⅤ

さあ、その仮面の下を見せてもらいましょうか。

 技名を叫びながらの気合一閃、震斬(ブレスラッシュ)。言葉にした方が力が出るって授業でも教わったから、お腹の底から叫んでみた。

 細かい一撃が通用しない女神エステナ相手には、できうる限り強烈な一撃で仕留める他ない。その目論見の元、魔剣の太刀筋を大きく縦に刻み込む。



 パリィイン



「ッ!? ……ッ!?」


 震斬(ブレスラッシュ)による一閃は女神エステナの仮面をも砕き、体まで確かに刻まれた。だけど、さっきのように回復魔法で立て直す様子もない。

 確かあの仮面って、女神エステナの力を制御する意味があるんだった。もしそうだとしたら、これ以上は女神エステナも戦えない。


 ――シード卿とシャニロッテさんの協力のおかげで、今度こそ確かな一撃を加えることができた。


「あなたもこれまで。おとなしく降伏してほしい。みんなを元に戻してくれるなら、これ以上酷いことはしない」

「……ッ!」


 仮面を砕かれた女神エステナは顔を押さえて狼狽えるばかり。もしも声が届くならば、自らの意志で引き下がってほしい。

 この人だって、好きでこんなことをしてるわけじゃない。エステナ教団に利用されるがまま、嫌々動かされてたんだと思う。

 ずっと仮面に隠されてた顔も少し見えるけど、とても素直に従ってるようには――




「……えっ!? そ、そんな……どうして!? どうしてあなたが……!?」

【な、何故だ……!? だって、あなたは俺達の前で殺されて……!?】




 ――見えないのは一目瞭然。顔を隠していた手が外され、その表情も明瞭に確認できる。

 ただ、私やツギル兄ちゃんが一番驚くのは『表情から読み取れる感情』などではない。露わとなった顔そのものだ。


 だって、おかしいもん。この人が私達の前に動いて姿を現すはずがない。

 私で埋葬して、後のことはペイパー警部に託したはず。髪の色や触角が備わっても、見間違えるはずがない。


 ――何より、あの人の時間はもうとっくに止まってる。




「……ミ……ん……」

「フュ、フューティ……姉ちゃん……?」

【女神エステナの正体が……聖女フューティ様……? だが、彼女は確かに殺されて……?】




 これまで女神エステナを語って私と戦っていた女性の正体。それは私にとって大きな後悔の一つで、姉のように慕った人物。

 レパス王子の凶刃で命を落としたエステナ教団の聖女――フューティ姉ちゃんだった。


「な……なんで!? なんでフューティ姉ちゃんが……!?」


 もう何を言えばいいのか分からない。何を考えればいいのかさえ分からない。変わった姿を嘆けばいいのか、生きていたことを喜べばいいのかさえだ。

 立ち尽くした女神エステナに――フューティ姉ちゃんに対して、身構えることさえできない。

 金髪だった髪が緑色に代わっても、伝承と同じ触角を額から生やしていても、この人へ敵意を向けることなどできはしない。


 ――どれだけ姿が変わっても、この女神エステナこそがフューティ姉ちゃんだ。それだけは間違えるはずがない。


「おやおや。まさか、エステナの仮面を砕かれるとはね。あれは彼女の正体を隠すことが最大の目的だったんだが。仮にもエステナ教団の聖女だったとなれば、人目につくと面倒は想定できたからね」

「くうぅ……こ、この野郎……! どれだけ攻撃しても、まるでダメージが通ってねえ……!?」

「レパス王子!? それに……シード卿!?」


 フューティ姉ちゃんはダメージによる影響で、私は動揺でお互いに立ち尽くすしかない状況。そこへ口を挟んでくるのは、シード卿の相手をしてたレパス王子だ。

 体にはいくつもの傷を作り、シード卿も善戦した様子が見て取れる。だけど、最終的には流石に敵わなかったか。

 レパス王子の剣が膝をついたシード卿の喉元へ突きつけられ、その勝敗を物語ってる。どうにも、レパス王子はまたさらに人間離れした力を手にしたみたい。


「あなた……フューティ姉ちゃんに何したの!? だって、遺体は私が葬って――」

「ペイパー警部に託した……とでも言いたいのかい?」

「ッ!? ど、どうしてそのことを……!?」

「ペイパー警部は以前からエステナ教団ではなく、あくまで聖女フューティへの忠誠心で動いていたからね。コソコソ動いていたようだが、逆に利用させてもらったよ。おかげで『女神エステナの器』にするフューティの死体も手に入った」

【ペ、ペイパー警部のことまで巻き込んで……!?】


 シード卿を人質に取られる形となり、思考が戻りつつも迂闊に手出すこともできない。

 レパス王子もそれが分かってるからか、勝ち誇ったように何があったかを語り始める。


「聖女とは、限りなく女神エステナに近い存在。そこへ『分裂した神の一部』を加えることで、僕達に従順な『女神エステナの化身』が完成する。死んでいようと関係ない。むしろ、余計な意志など失って好都合だ」

「その『神の一部』ってのは、まさかタタラエッジにも出た影の怪物が……!? 闇瘴に近い存在が……!?」

「ほう? セアレド・エゴにも覚えがあったか。まあ、そこの詳細は語ることでもないか。……いずれにせよ、これはミラリアのおかげでもある。君がフューティの肉体を手厚く埋葬してくれたから、こうして女神エステナの依り代とすることもできた。運命とは実に面白く巡るものだ。……ハハハ!」


 全てをこの場で理解することはできない。言葉を交わすほど思考が戻っても、頭の中はグチャグチャなまま。

 怒ればいいのか、嘆けばいいのか。複雑に絡み合った感情が、私の動きを完全に縛り付けてくる。


 分かることといえば、今のフューティ姉ちゃんは『以前と同じのまま生き返った』わけじゃないってこと。それこそ、ゾンビ以上に『生ける屍』といった状態。

 命をここまで冒涜されたことへの怒りもある。レパス王子が憎たらしくて仕方ない。でも、反撃することさえ許されない。

 下手をすれば、今度はシード卿まで殺されてしまう。もう私にはこの状況で従うことしかできない。


「さて、お喋りもここまでにしようか。君達に割く時間も惜しくなってきた。フューティ――いや、女神エステナよ。まずはその忌まわしい小娘を始末しろ。もう君に生前の記憶はないのだし、未練も何もないだろう?」

「ミ、ミラリア……!? くそ……!」


 そんなことはこの場にいる誰もが理解してる。シード卿が苦悶の声を漏らしても、レパス王子は関係なく新たな命令を女神エステナ(フューティ姉ちゃん)へ下してくる。

 とても反撃できる状況じゃない。仮にシード卿が人質でなかったとしても、その正体を知ってしまった以上私には斬れない。


 ――かつてと変わり果てていても、フューティ姉ちゃんへ刃など向けられない。

 最早このまま、その力に屈するしか――




「ミ……ミラリ……ちゃん……?」

「……え」




 ――ないと諦めかけたその時、女神エステナ(フューティ姉ちゃん)から振り絞るような声が零れた。

偽神フェイク・エステナ。それはかつて殺された聖女フューティを依り代とすることで、疑似的に作られた偽りの女神。

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