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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
324/503

◆偽神フェイク・エステナⅣ

神の苦痛は神以外にも影響を及ぼす。

「どうやら、その身で体感したようだね。……そう。闇瘴とは神の苦痛。すなわち、女神エステナが受けたダメージそのもの。君の攻撃はそのまま君自身へと返ってくるのさ。『痛みという概念そのもの』としてね」

「い、痛い……! 動きが……!?」


 女神エスタなのはなった闇瘴に含まれていたのは、私の刃界理閃で与えた痛みそのもの。自分の傷を癒すだけでなく、癒した分を跳ね返してくるなんてこれまた聞いたことがない。

 レパス王子とゼロラージャさんの言ってたことも重なり、原理は別でも意味は理解できる。


 ――女神エステナにとっては受けたダメージさえ、滴る汗を他者へ振りかけるのと相違ない。


【お、おい! しっかりするんだ! 今動きを止めたら……!?】

「わ、分かってる……! 分かってるけど……!」

「これは勝負あったようだね。そうやって身動きが取れないならいい機会だ。最後は僕の手で始末するとしよう。ディストールで逃げられた屈辱、ここで晴らさせてもらうよ」


 刃界理閃を女神エステナがまともに受けた分、跳ね返った私へのダメージは甚大。その場にうずくまり、冷や汗を垂らして堪えずにはいられない。

 体を斬り刻まれた痛みが辛すぎる。傷はないのにしっかりとした痛みだけが纏わりつくのも不気味だ。


 そんな私の姿を見て、レパス王子も勝利を確信して近づいてくる。女神エステナも影の怪物も下げさせ、ようやく自身が前へと出てくる。

 だけど、私にはどうすることもできない。体が痛すぎて身動きが取れない。


 ――まさか、自分の技が原因になるとは思わなかった。こんな形で死が迫ってくるなんて、予想も何もできなかった。


「さあ、今度こそ死んでもらうぞ……ミラリアァァア!!」

「くうぅ……!?」


 レパス王子の抜いた剣を回避する余裕などない。こっちはもう動けないし、その凶刃をおとなしく受けるしかない。

 エスターシャのフューティ姉ちゃんと同じように――



 キィィインッ!!



「悪いが、テメェの好きにはさせねえよ! 惚れた女一人に背負わせるのは、男の沽券に関わるもんでなぁぁあ!!」

「シ、シード卿……!?」


 ――斬られて死ぬしかないと思ってたら、振るわれたレパス王子の剣をしゃがみながらガードしてくれる剣が割り込んでくる。

 息巻いた声と共に私の体も抱きかかえてくれたのは間違いなくシード卿だ。さっきまで後方でゾンビの相手をしてたのに、即座に私のピンチを救ってくれる。

 なんだか、セリフも含めてキザっぽく見える。でも、カッコいい。


「……フン。誰かと思えば、カムアーチの下流貴族だったか? 君が邪魔したところで、何の意味も成さないぞ? 僕との力にしても、天と地ほどの差がある」

「……そうかもしれねえな。さっきの一撃を受けただけでも、こっちの手が痺れて仕方ねえ。……ミラリア。遅くなって悪かった。後方は他の連中が抑えてくれてるし、ここから反撃する手段もある」


 シード卿の乱入でレパス王子もいったんは距離を取ってくる。その様子を伺い、こっそり耳打ちするようにシード卿も状況を伝えてくれる。

 どうにも、私の様子はずっとゾンビと戦いながら伺っててくれたらしい。そしてピンチを感じ取ったから、助太刀に入ってくれたと。

 本当に狙ったタイミングだけど、素直に嬉しくなってくる。恋とはまた別で『一緒に戦ってくれる仲間がいる』というのが心強い。


「ここから逆転するための作戦もある。……この後、俺があのクソ王子に斬りかかるから、ミラリアは女神エステナを狙え。隙は作れる」

「で、でも……今の私、とても動ける――あ、あれ? 痛みが和らいでく……?」

「俺の回復魔法だ。大したレベルじゃねえが、応急処置にはなるだろ。最後はミラリアに託すしかねえのは申し訳ねえが……頼まれてくれるか?」

「……うん、頼まれた。シード卿を信じる」


 コソコソと会話を交えながら、シード卿の回復魔法で私のダメージもマシになってきた。万全とはいかないけど、一太刀浴びせるぐらいならできる。

 お互いにまだ座ったまま、レパス王子にも気付かれないように軽く作戦会議もできた。全容を聞くほどの余裕はないけど、今は純粋に信じたい。


 ――何より、仲間の言葉は信じられる。次の一瞬で勝負に出る気概も備わった。


「何をするつもりか知らないが、二人とも女神エステナの力で――」

「うおぉぉおお!! 行くぞぉぉおお!!」

「むっ? エステナではなく、僕を狙ってくるのかい? まあ、少しぐらいは戯れに相手をしてやろう。力の差に絶望させるのも一興か」


 向こうだって待ってはくれない。作戦会議も足早に切り上げ、シード卿が予定通りレパス王子へ突っ込んでいく。

 おそらく、シード卿ではレパス王子に敵わない。向こうだってエデン文明で体を異形へと変えた怪物だ。

 でも、私達が一番に狙うべきはレパス王子ではなく、ゾンビ化の元凶である女神エステナ。そっちは私に託された。


 ――シード卿の雄叫びに隠れるように、私も縮地で女神エステナへ再度挑む。


「…………」

「黙ってるだけ!? またさっきと同じ手を使うつもりかもしれないけど、今度はそうもいかない!」

【行け! ミラリア! 細かい連撃じゃなくて、全力の一撃で一気に仕留めるんだぁぁあ!!】


 レパス王子も戦ってるからなのか、女神エステナの反応も一瞬だけ遅れてる。こちらを向いて右手を動かしてるけど、その動きはしっかり確認できるぐらいに緩慢。新たな対抗策を講じる余裕もある。

 刃界理閃のような連撃だと、さっきみたいに闇瘴として跳ね返される恐れがある。だから、魔剣に衝撃魔法を宿しながらもっと強力な一閃を準備する。

 このまま縮地で完全に懐まで潜り込めば――



 グゴォォオンッ!!



「し、しまった!? また影の怪物が……!?」


 ――よかったんだけど、女神エステナも無策ではなかった。右手の動きに合わせて進路を塞ぐように迫るのは、使役している巨大な影の怪物。

 こっちは一撃に集中しているし、余計な攻撃など出してられない。できることなら回避優先で――



 ボゴォォオンッ!!



「……ッ!?」

「ミラリア様一人だけにはしませんの! さあ! どうか女神エステナまで!」

「シャニロッテさん! ありがとう!」


 ――などと考えてたら、突如影の怪物を襲う強烈な爆発。どうやら、後方でシャニロッテさんも援護のタイミングを伺ってくれてたみたい。

 これがシード卿の作戦ということか。私も予測できてなかっとはいえ、同じことは女神エステナにも言える。

 仮面越しにも動揺が伝わってくるし、影の怪物も私を狙うタイミングを見失ってる。これこそまさに千載一遇の好機。


 ――みんなの援護と託された想いは、この一閃に懸ける。




「斬魔融合……震斬(ブレスラッシュ)!!」



 ズッパァァアンッッ!!

仲間と共に神を超えろ!

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