◆偽神フェイク・エステナ
VS 偽神フェイク・エステナ
神を騙るだけでなく、その力は限りなく神に近い。
「…………」
【魔力が右手に集中してる……! ミラリア! 魔法が来るぞ!】
「分かってる! 準備はできてる!」
こちらが構えたのを見計らったように、自らの右手を眼前へ掲げる女神エステナ。武器は何も持ってないものの、ツギル兄ちゃんには魔力の流れが読めてたみたい。
やはりと言うべきか、向こうの攻め手は魔法だ。回復魔法や苦痛を取り除く魔法は見たけど、攻撃魔法はまだ見てない。
きっと、ルーンスクリプトを使って普通とは違うレベルの魔法が――
「……ᛏᛖᚾᛁᚾᛟᛃᚨᚱᛁ」
ブゥウン――シュンッ!
「な、何!? 魔法陣から……槍!?」
【まだ離れた位置からだぞ!? こんな魔法、俺も見たことがない!】
――来ることは予想できたけど、その内容はあまりに予想外だった。
私と女神エステナの距離はまだ離れてる。でも、距離など関係なくこっちの眼前へと現れた魔法陣。
魔法陣って、発動者の近くに出現するものしか知らない。距離の離れた相手の前へ出現させるなんて初めてだ。
それだけでも驚きなのに、魔法陣からは光る槍のようなものまで飛んでくる。いくらルーンスクリプトで高レベルの魔法を使えると言っても、これまでの魔法と比較してあまりに異質。
攻撃に使える魔法は炎や風に雷といった自然現象を人為的に扱うのが基本。ツギル兄ちゃんどころかスペリアス様でさえ『別の物質を出現させる』なんて魔法は使えなかった。
それこそまるで、転移魔法を使って自分じゃなくて物を移動させてるみたい。
【おそらく、この魔法は転移魔法の応用系だ……! だが、遠隔操作までできるなんて……!?】
「ルーンスクリプトも唱えてたし、偽物でも楽園の力は実現させてるってこと……!?」
「疑似的とはいえ、彼女はまさに女神エステナの力そのものを宿していると言ってもいい。偽物だと侮られては困る。……彼女の存在こそ、まさに世界を支配する『神そのもの』さ」
その見解自体はおおよそ当たってる。ただ、脅威としてはより鮮明となってしまった。
どうにか居合で飛ばされる槍を弾くも、女神エステナ自身はさっきから手を動かすばかりで一歩も動いてない。仮面で表情は見えないけど、態度だけ見れば全然余裕そう。
レパス王子もその様子を見て、奥から完全に高みの見物。自らが戦わずとも、この段階で勝利を確信した様子だ。
――事実、それだけの力が偽物の女神エステナには備わってる。
ブゥウン――シュンッ!
ブゥウン――シュンッ!
「おまけに何発も使えるの!? こ、こんな槍の雨、捌くのも回避するのも……!?」
【まるで、魔王ゼロラージャも使ってた青色の矢みたいなものじゃないか!? しかも、こっちはサイズが大きいしどこから出てくるかも……!?】
再度宙に魔法陣を描いて槍を飛ばし続ける女神エステナ。こっちは離れた位置で守りに徹するしかない。
近づこうにもどんどんと魔法陣が描かれ、私を包囲するように繰り出してくる。近づくことを許してくれない。
魔法自体は単純だけど、数も展開速度も桁が違いすぎる。ゼロラージャさんと戦った時を思い出す。
「でも……まだ私だって技を見せてない! 刃界理閃・煌!!」
だけど、私だってやられてばかりじゃいられない。ゼロラージャさんと戦った時より強くなってるし、新技だって増えてる。
相手が魔王を超える神様だとしても、所詮は偽物に過ぎない。付け入る隙は必ずある。
まずはこちらも一手。前方から飛んでくる槍を弾きながら本体へ届かせる斬撃だ。
「へえ、ミラリアも一段と腕を上げたんだ。だが、エデン文明の力を手にした女神エステナに届くのかい?」
「それは今から届かせる! あなたのことだって、見逃しはしない!」
なお、この斬撃は一種の牽制に過ぎない。刃界理閃・煌では威力が不足するし、本体へ届いても防がれるのは予測済み。
後方で余裕の笑みを浮かべるレパス王子の顔をチラ見しつつ、縮地で間合いを詰めての突進。私が最も得意とする戦術だ。
遠距離で向こうに利があるならば、接近戦で――
「……ᛒᛖᚲᚢᛏᛟᚱᚢᚺᚨᚾᛏᛖᚾ」
キン――ギュンッ!
「ふえっ!? な、何!? か、体が急に!?」
【馬鹿な!? 確かに女神エステナへ向かったはずだろ!?】
――勝負しようとしたけれど、どういうわけか私の体はいつの間にかまったく違う方向へ流れてしまう。
またルーンスクリプトで何かしらの魔法を使ったみたいだけど、何をされたのかが理解できない。思わず縮地を解除し、地面を滑りながら身構え直してしまう。
まるで、こっちの動きまで手玉に取られた気分。相手は全然動いてないのに、感じたことのない脅威で背筋がゾワゾワする。
「だから言っただろう? 君では女神エステナに届くことすらできない。『物質の位置』や『動く向き』といった理も、全ては神の意のままに操ることができる。どれだけ君が力をつけても、所詮は人間の域を出ない。神の領域に辿り着くことなどできはしない」
「……なら、その神様を従えるあなたにはもっと届かないとでも言いたいの? 神様より偉いとでも言いたいの?」
「ああ、その認識で構わないさ。今の軽い攻防だけでも理解できたかい? この女神エステナさえいれば、エステナ教団が――僕が世界を手中に収めることができる。古代に伝わる楽園の力とは、実におもしろいものだと思わないかい?」
完全に力の差を見せつけたからなのか、女神エステナも一度攻め手を緩め、それを操るレパス王子が憎たらしく語りかけてくる。
かつては私に斬り刻まれたのに、よくここまで偉そうに言えたものだ。もっとも、それができるだけの力が手元にある。
――曲がりなりにも女神エステナを具現化した存在。力そのものは紛れもなく本物だ。理さえ支配してくる。
「何だったら、今からでも降伏するかい? 神の理にひれ伏すならば、奴隷ぐらいには収めてあげるが?」
「悪い冗談は聞きたくない。むしろ、あなたは理を穢してるだけ。……そんなもの、いっそ私が斬り砕く」
ただ、だからといって引く気もなければ許す気もない。エステナ教団がやってることは、ただただスーサイドを悪意で蝕んでるだけだ。
神様が何だ。理が何だ。
私にとっては、目に映る光景が何よりも許せない。みんなを自分達のために好き放題することが許せない。
「……ツギル兄ちゃん。今から少し試したいことがある。無茶するけど……大丈夫?」
【お前は本当に無茶してばっかりだな。だが、俺の心配は不要だ。……俺だって過去のことも含めて、連中の言い分には吐き気がする】
そんな理を主張するならば、いっそのこと私で壊してしまいたい。思い返せば、それができる可能性を私は手にしてる。
かつてイルフ人の長老が理刀流について語った『理を破壊する剣技』という概念。もしも本当ならば、今この時こそ振るい時。
――スペリアス様から教わった剣技で、スペリアス様が過ごした場所を守ってみせる。
歪んだ理さえ、その太刀筋で斬り砕け!




