◆狂王子レパス
狂気の本性と共に、目障りとなったミラリアへその牙を剥く
VS 狂王子レパス
「や、やめるのだ……レパス――ガァ!?」
「ミラリアは楽園の力を手にしている。そんな人間を野放しにすれば、今後の脅威にもなる。そんな判断もできない王など、玉座にいる意味もないでしょう?」
思わず玉座へ向き直ってみれば、目に映るのは思わず血も凍りそうな光景。レパス王子は自身の剣で王様を斬り、トドメとばかりに喉元へ切っ先を突き刺していた。
王様はレパス王子の親。私にとってのスペリアス様と同じ。私だったら、スペリアス様にあんな真似はできない。
――そんなことを平然とやってのけるレパス王子が怖い。強いとか弱いとかじゃなく、行動そのものに悪寒を覚える。
【あ、あの王子……自分の父親を殺したのか……!? しょ、正気じゃないぞ……!?】
「わ、私もビックリしてる……! いや『ビックリ』なんて言葉で収まらない……!」
「ら、乱心だ……! レパス王子の乱心だぁぁあ!?」
その行動に対する反応は、この場にいる全員がほぼ同じもの。私やツギル兄ちゃんだけでなく、兵隊達も酷く狼狽えている。
玉座に映えるのは殺された国王の血しぶき。そこに立つは絵に描いたような狂気。そう思うのが普通の反応なのは、敵味方であっても関係ない。
「……お前達、何をしている? 父上がいなくなったのだから、僕の意志を優先しろ。ミラリアを殺せ。絶対に逃がすな」
「そ……そんな命令、聞けるわけないでしょう!?」
「レパス王子! あなたは乱心なされている! こ、こうなったら、レパス王子を取り押さえろ! これは流石に見過ごせん!」
「……愚か者どもが。王子である僕に楯突くなど、身の程をわきまえてないらしい」
兵隊達も王様が殺されて、おとなしくレパス王子の言葉に従うはずがない。武器を私からレパス王子へと向け直し、恐怖と怒りを露わに反抗の意を示してる。
ただ、そうなってもレパス王子の態度は変わらない。冷たい視線を兵隊へと向け、傲慢としか思えない態度を返すのみ。
――そしてそのまま持っている剣を床へ突き刺し、そこへ魔法陣を描き始める。
「光栄に思いたまえ。お前達はこれから、ディストール栄光の礎となる。……まずはその第一歩として、楽園の存在を秘匿した忌まわしき残存粒子を排除する!」
ギャグオォォォオオ!!
「な、何だ!? 床から触手――ギヤァア!?」
「た、助けてください! レパス王子――アガァア!?」
私では理解が追い付かない。分かることは、床から謎の触手が伸びて、兵隊達を取り込んでいくということのみ。
悲鳴が響き、辺りに巻き起こる混乱。触手に取り込まれた兵隊の姿は、瞬く間に消えていく。
それはまるで『存在そのものを吸収された』と言ってもいい。
「レパス王子!? 何をしてるの!?」
「与えられた役目もこなせない無能は必要ない。ならば、せめてこの力を発動させる生贄となってもらう。……そして見るがいい。僕がエデン文明を解明していく中で作り出した、最強のデプトロイドの姿を!」
こんなものを見せられれば、私だって怒る。さっきまで敵だったけど、こんな混沌にまみれた死に様を見せられれば、そんなことに関係なく嫌悪する。
ただ私が怒りを見せても、レパス王子の冷徹な態度は変わらない。兵隊を吸収した触手をまとめ上げ、この場に具現化した力を顕在させてくる。
「ンガァァ……! アァァ……!」
「こ、これもデプトロイド……? この肉の人形みたいなのが……?」
【エスカぺ村を襲ったのとは別物だが、異常なんて言葉じゃ済まないぞ……!? 魔法により、肉体も魔力も一つに融合させて形成したのか……!?】
そうして出来上がったのは、最早完全に人ではなくなった巨大な肉の人形。確かにデプトロイドの形状と似てるけど、見た印象は全然違う。
岩石などではなく、人の血肉で作られたバケモノ。これ以上に嫌悪を感じるものなど今まで見たことがない。
――何より、こんなものを作り出すレパス王子が恐ろしい。
「エスカぺ村を襲ったデプトロイドは、あのスペリアスとかいう魔女のせいでダメにされてしまった。だがこの血肉で作られたデプトロイドもまた、ディストール王国による侵攻計画のベースとなる存在だ。作るために大勢の人間を使う必要があるが、それに見合う力はある」
「……正直、吐き気がする。父親を殺し、部下も殺し、屍の山で人形を作るだなんて、正気の沙汰じゃない。……命を冒涜しないで」
「フン。君のように世界を知らない小娘が、僕の野望を否定するんじゃない。さあ、人体融合型デプトロイドよ! 僕の命令により、ミラリアを始末しろぉぉお!!」
私の感想など意に介さず、レパス王子は血肉でできたデプトロイドを差し向けてくる。動き自体はかなりゆっくりだけど、逆にそれが不気味さを醸し出してくる。
こんな命をものとしか扱わない行い、間違ってる。私がどれだけ世間知らずでも、この行いだけは許せない。
【……ミラリア。俺もあいつの行為には反吐が出るが、こうなったら目の前の敵を倒すしかない】
「分かってる。これを倒さないと、私は生き残れない。……覚悟を決める」
正直、相手にするのは気が引ける。だけど、向かってくるならやるしかない。
冒涜された命をさらに斬るのは嫌だけど、強度的には問題ない相手だ。
せめて一瞬で決めよう。掴んだ要領で放つのは、衝撃魔法を上乗せした飛ぶ斬撃――震斬だ。
ズパァァア――グチュチュチュ
「え!? 私、斬ったよね!? なのに、斬れてない!?」
【確かにミラリアの震斬は入ったはずだ! だがあれは……再生してるのか!?】
一撃で終わらせようと思って放った震斬。その斬撃はこれまでのものより大きい。デプトロイドの懐にも確かに刺さった。
大きな痕もできたのに、それがすぐさま元に戻ってしまう。
これじゃまるでスライムだ。だけど人の肉で作ったからか、その再生の仕方は凄く不気味。
グチュグチュと嫌な音を立て、ダメージを受けた様子がない。
「これぞ、人体を生贄に錬成したデプトロイドの能力! 人の肉と魔力が融合することで、あらゆる攻撃でも即座に再生できる! 僕が解明したエデン文明の力、とくと味わうがいいぃぃい!!」
周囲の人間を手駒としか思わない王子による最悪の手札が今切られた。




