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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
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◇スーサイド闇鬼凶行Ⅱ

思えば、ゾンビを書くのって作者の私も初めて。

「か、噛まれたら……私達もゾンビに……!?」

「そ、そんなの嫌ですの! ど、どど、どうすればいいですの!?」


 噛まれた司書のお姉さんまでうなり声をあげて起き上がり、アーシさん達と同じバケモノになってしまった。

 シード卿いわく『生ける屍』という人ならざる者――ゾンビ。相手に噛みつくことで仲間を増やすらしく、その脅威はなおも私達に襲い掛かって来る。

 むしろ仲間がどんどん増えるってことは、まだまだ脅威も増え続けるってこと。こんな状況、恐怖でしかない。


「わ、私も嫌です……! ミ、ミラリア様……!」

「ミ、ミラリア様に頼ってばかりもできません! 自分の身は自分で守ります!」

「で、でも……凄く怖いです!」


 それはミラリア教団のみんなにしたって同じこと。むしろ、こういった戦いの場に慣れてない分、ずっと怖いに決まってる。

 どれだけ魔法の修練を重ねてても、どれだけ相手の動きが単調でも、死そのものが襲ってくるようなものだ。

 私だって怖い。この恐怖は魔王のゼロラージャさんや海賊のレオパルさんとはまた異質。


 ――命そのものを冒涜することへの嫌悪感も相まって、これまでの何よりもおぞましい。


「とにかく、いったんこの図書室を出るしかねえ! これ以上の数で囲まれる前に急ぐぞ!」

【ミラリア! シャニロッテちゃん達は俺達で守るぞ!】

「うん! 魔剣なら少しは対抗できることもさっきので判明してる!」


 でも、ここで怖気づいて立ち止まるのはもっとマズい。シード卿の言う通り、まずは広い場所に出るのが一番。

 幸い、ゾンビとなった人達の動きは遅い。まだ数も少ない今の内ならば、走り抜けて図書館を出ることぐらいはできる。


「グガァァア!!」

「ひいぃ!? アンシー先輩を含めたみんなが襲い掛かってきて……!? こ、怖くて足が……!?」

「足を止めちゃダメ! まずは広い場所に出て――う、嘘!?」

「お、おいおい……!? 何の冗談だよ……!?」


 怯えるミラリア教団のみんなをなんとか引っ張り、図書室の外まで出ることはできた。

 外の廊下まで出てしまえば、道もあるから囲まれる心配も減る。ここからどう動くにしても、まずは場所を確保するのが最優先。

 そう思ったんだけど――


「グギャァァアア!!」

「や、やめっ!? 助け――アガァ!?」

「き、君達!? 何をして――ガハァ!?」


 ――最悪なことに、廊下までゾンビで埋め尽くされていた。おまけに周囲の学生や教員を襲い、次々噛みついて仲間を増やしてる。

 左右に分かれた廊下でさえ、どっちに逃げればいいのか分からない。安全な場所などどこにもない。

 昨日までは未知や知識でキラキラしてたスーサイドが完全に地獄絵図だ。スペリアス様にとっても思い出の地なのに、今は目も覆いたくなるほど悲惨な光景が広がってる。


「クッソ!? どうすりゃいいんだ!? ともかく、俺も剣を抜いて戦うしかねえか!? 手加減なんかしてる余裕もねえし……!?」

【だ、だが、相手はスーサイドの人間だろ!? 本気で挑みかかるのは……!?】

「んなこと、俺だって分かってる! 言いたくねえが、連中はすでに死んでるも同然だ! 俺達が生き残るためには、ぶった斬ってでも道を切り開くしかねえだろ!?」


 完全に追い込まれたことで、みんなの間にも不穏な空気が流れてしまう。シード卿の言い分も分かるけど、私だってツギル兄ちゃんと同じ気持ち。

 仮にゾンビとなったみんなが本当に死んでても、本当に斬り倒してしまうのは嫌。どうしても手元で加減が加わってしまう。

 何より、まだ『完全に死んでる』って決めつけたくない。そんなのはあまりに理不尽だ。


 ――死が身近にあっても、こんな簡単かつ冒涜的に訪れるなんて考えたくもない。


「ガァアア! グギャァアア!!」

「シード卿にツギルさん! 言い争ってる暇もありませんの! ゾ、ゾンビがもうそこまで……!?」

「ッ……!? シャニロッテさん達、私の後ろに隠れて! どうにか怯ませて……!」

【だが、さっきより数も増えてるぞ!? こ、これ以上は本当に……完全に斬るしかないのか……!?】


 こっちがどんなに困惑してても、ゾンビの脅威は遠慮なく迫ってくる。まだ戸惑いながらも、腰を落として魔剣を構えるしかない。

 でも、加減した一閃では怯ませるのが限界。これ以上の数を相手にするとなると、それこそ真っ二つに斬る以外の方法がない。

 やりたくない。仮に助けられなくても、ゾンビのみんなを血に染めたくない。

 どうしようもない困惑だけがのしかかる。だけど、ここでやらないと私達まで――



 キィィイン



「お、おい!? これって魔法陣だよな!? 誰の仕業だ!?」

「わ、私じゃない! でもこの魔法陣は……転移魔法!?」

【お、俺でもないぞ!? まだ抜刀もしてないのに、別の誰かが!?】


 ――ゾンビなるかもしれないってピンチの最中、突然足元が魔法陣の光で包まれる。

 この魔法陣には見覚えがある。私も魔剣を媒体にして使う転移魔法のものだ。ただ、発動させたのはここにいる誰でもない。

 なら、誰が? 転移魔法だってエデン文明の一つで、簡単に扱える魔法じゃない。



 ヒュンッ



「むぎゅっ!? ほ、本当に転移した……? ここ、どこ……?」

「た、多分、スーサイド内に張り巡らされた水道ですの……。み、皆様、ご無事ですの?」

「ミ、ミラリア教団は揃ってます……」

「俺も無事だ。結果としてゾンビの群れから逃れられたが、こいつはどういうことだ……?」


 ゾンビの襲撃という困惑の中で、誰が使ったのか分からない転移魔法でさらに困惑。でも、おかげで私達は全員あの場から避難できた。

 辺りは水の流れる音だけで、ゾンビの呻き声も聞こえない。そこまで広くないし暗いけど、ひとまず安全な場所ってことは朧気に理解できる。


「おお……よかった。なんとか君達だけでも助けられたようじゃのう」

「ふえ? あ、あなたは……」


 誰がどうしてって部分は不明だったけど、それもすぐに判明した。暗がりの奥から姿を見せるのは、片側だけの眼鏡をつけたおじいさん。

 私としてもこの人が無事で安心した。スーサイドで一番偉い人だし、混迷極めるこの状況では頼りになる。

 転移魔法にしたって、スペリアス様と繋がりのあるこの人なら使えてもおかしくはない。




「かつてスペリアスが残してくれた転移魔法。儂も我流ながら習得しておいて正解じゃったか」

「コルタ学長……助けてくれたの?」

「無論じゃ。スーサイドの一大事において、助けられる人間は一人でも多く助けんとのう。学長の名が廃るわい」

老いても学長。緊急時の動きは的確。

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