その学生、不老を願っていた
カーダイスが目指したのは、スペリアスのように老いない肉体。
「不老って……歳を取らないってことだよね? そんなにいいことなのかな? 私、早く立派な大人になりたい」
「まあ、若いうちはまだそう考えられるんだと思うし。ただ、実際に歳を取ると違ってくる。アーシ達だってコルタ学長みたく、ヨボヨボのじいさんばあさんになる日はいつか必ずやって来る。だけど、カーダイスはそんな未来をどうにか避けたかったみたいだし」
アーシさんが語ってくれるカーダイスさんの夢。その裏にある『おいてヨボヨボのおばあさんになる未来を避けたかった』という願い。
そういえば、カーダイスさんも死の間際に『美しいまま死ねる』って呟いてたっけ。あの言葉も醜く苦しく死ぬのを避けたかったという気持ちがあったのかも。
スペリアス様についても、中身のババ臭さとは釣り合わないぐらい見た目は若々しかった。時折腰を押さえたりでババ臭さが顔を出すことはあっても、エスカぺ村のおじいさんおばあさんよりはるかに若々しかった。
「さっきも言ったけど、カーダイスはとにかく美意識が高かったし。容姿も綺麗で、だからこそサークルに人が集まってたって面もある。……カーダイスはそんなスーサイドでの栄華を失いたくなくて、不老について調べてたんだと思うし」
「むう……やっぱり、子供の私には理解が難しい。人って、歳を重ねることで経験も増える。老いることも一概に悪いこととは言い切れない。きっと、おばあさんになったから見えてくる景色だってあるはず。でも、何かを志す気持ちは大切。カーダイスさんにとっては、それが不老について調べることだったんだと思う」
「……本当にアホ毛はしっかりした考えを持ってるし。アーシも見習いたくなる」
とはいえ、私の未熟さもあるのだろうか。そこまで追い求める理由にあんまり共感できない。
確かに私もスペリアス様には憧れてる。でも、スペリアス様と同じようにはなれない。
魔法は魔剣がないとロクに使えないし、見た目の面でもチンチクリンで胸だってペッタンコ。親子でもスペリアス様とは程遠い。
それを理解してしまってるから、あんまり共感できないのかな? まあ、カーダイスさんにも目指すものがあったことは理解した。
――その未来さえ、死んでしまった今はもう意味がない。人の死とは無情なものだ。
「おっと、アーシも色々と語りすぎたみたいだし。傷が癒えたと言っても、少しは休むように言われてたんだった」
「私も今は休んだ方がいいと思う。アーシさんも気負わず、少し時間を置くべき」
「あんたと話をしてたら、気持ちも楽になってきたよ。ありがとだし。名前を間違えられたままは癪だけど、アーシも素直に休みに――」
気が付けば、アーシさんとは深々と語り合ってしまった。この人だって体の傷は女神エステナに癒してもらったけど、心の傷はそうもいかない。
もしかすると女神エステナならそんな心の重荷も取り除けるかもしれないけど、こういうのは自然に時間が過ぎる中で癒すのが一番だと思う。
アーシさんにも申し訳ないし、こっちもそろそろ元の机に――
ドサッ
「カハッ……!? ケホッ……!? ハァ、ハァ……! な、何か変だし……!? ア、アーシの体……つ、冷たくなって……!?」
「……え? ア、アーシさん? どうしたの? 具合、悪いの?」
――戻ろうとした矢先、突如アーシさんが床に崩れ落ちて苦しみ始める。息も荒いし、まさか回復魔法が届いてなかったところでもあるの?
思わず肩を掴んで様子を伺うけど、その瞬間に私もさらなるおかしさを感じ取る。
――これだけ息を荒げてるのに、アーシさんの体温がどんどんと下がっている。
「ハァ、ハァ……。た、助けて……。ア、アーシ……死にそう……だし……」
「こ、これっていったい……!? ツ、ツギル兄ちゃん! 何か分かる!?」
【い、いや! 俺もこんな症状は見るのも聞くのも初めてだ! ほ、本当にどうなってるんだ!? ただ、体温が下がってるってことは、それだけ命の胎動が弱まってるとしか……!?】
これまでバレないようにしてたツギル兄ちゃんにも思わず声をかけ、この突然で異常な事態に困惑してしまう。だけど、ツギル兄ちゃんでさえ何が起こったのか理解できてない。
普通は息が上がれば体温も上がる。なのに、アーシさんの体温はどんどん下がるばかり。
それこそ、エスカぺ村のみんなやフューティ姉ちゃんの亡骸を思い出すほど冷たい。
ただただ動揺して傍で狼狽えることしかできず――
「ア……アーシさん……? う、嘘……だよね……?」
【じょ、冗談だろ……? 魔力も生気も感じない……? し、死んでる……のか……?】
――アーシさんはそのまま動きを弱め、息を引き取ってしまった。
どうして? どうしてこんなことになったの? どう考えてもおかしすぎる。
アーシさんはダンジョン事故で大怪我を負ってたけど、女神エステナにきちんと治してもらえた。そこについては私も感謝したいし、疑うつもりもない。
なのに、どうしてアーシさんは死んじゃったの? あまりにも唐突過ぎる。
――さっきまで普通に語り合ってたのに、こんな突然人が死ぬなんてありえない。悲しみ以上に恐怖で体がすくんでしまう。
「ど、どうしよう……!? どうすればいいの……!?」
【お、落ち着け、ミラリア。何が何だか俺にも分からないが、まずはシャニロッテちゃんやシード卿のもとに戻って――】
「……ゥ……グゥ……」
「ッ!? い、今、アーシさんから声がした! もしかして、まだ生きてる!? しっかりして!」
それでもどうにか報告へ向かおうとすると、うつ伏せのまま動かなくなったアーシさんからかすかに声が聞こえてくる。
声がするってことは生きてるってこと。どうにも、私もツギル兄ちゃんも早とちりしちゃったのかも。
きっと、アーシさんもカーダイスさんの件で気苦労が重なってて、急に調子が悪くなっただけなんだ。私なんかよりもずっと関係が深かったし、ショックもその分大きいに決まってる。
それなら、報告より先に容態を確認し直そう。生きてると分かっても、体調自体は悪いままだろうし――
「……グゥ……ウガァァァアア!!」
「ふえっ!? ア、アーシさん!? や、やめて!? なんで私を襲うの!?」
【これは……生き返ったとかじゃない! 何か……何か別の力で動いてる!?】
怒涛の如く進むスーサイド編。
邪悪な力が都そのものを飲み込んでいく。




