その魔剣、少女の助けとなる
兄妹二人が一つの力となった今、恐れる必要などない。
「こ、こちらの方が弱いだと!? たかが愚かな勇者崩れが、何を偉そうに……!」
「さっきの円形斬撃に気をつけろ! 今度は人数を分けて、波状攻撃で攻めるんだ!」
私が再度納刀した状態で構えをとって威嚇しても、兵隊達に退くつもりは見えない。それがディストール王国に仕える役目なんだろうけど、私が言った言葉は過言じゃない。
私の剣術と魔剣の力。それに対する敵兵力。ディストール王国のことはある程度見てきたし、十分に計算できる範疇。私からすれば実力差は明白だ。
――だけど、油断なんてしない。また道を違えないためにも、全身全霊をかけて襲い掛かる敵を斬り伏せる。
「かかれぇぇえ!!」
「来るなら来ればいい。でも、ここはもう私の領域。魔剣もあれば、私は玉座の間全体を支配できる」
一度は怯んだものの、今度は人数を分けて攻め立ててくるようだ。よく考えたとは思う。
私も震斬は連続で何発も使えない。後発が続いて攻めれば、いくら私でも対処しきれない。
――もっとも、私だって一ヶ所に留まるつもりはない。
ヒュン
「なっ!? 速い!? どこにいった!?」
動きについてはこれまで通り、スペリアス様仕込みの縮地だって使える。剣術だけが私の武器じゃない。
距離なんて一瞬で縮めることも広げることも可能。包囲を掻い潜り、円陣の外へと飛び出る。
そして魔剣により、攻撃範囲は大幅に拡大。それどころか、手段まで一気に増えた。
「ツギル兄ちゃん、電撃魔法も使えたよね?」
【ああ。兵達の動きを止めるにはもってこいだな】
「なら、使わせてもらう。丁度間合いもとれた。……雷閃付与」
落ち着いた私に死角はない。位置取りも範囲も手段も掴んだ今、敵がどれだけ数を揃えた精強でも心配無用。
納刀した魔剣に雷撃魔法をイメージして付与させ、兵隊から離れた位置で抜刀。その時足元に再び浮かぶ魔法陣。
私の居合に呼応して、ツギル兄ちゃんの魔法が連動する。魔剣を振るうことで、斬撃となって解き放たれる。
バチィィインッッ!!
「ぐはっ!? か、体が痺れる!?」
「電撃だと!? し、しかも、こちらに飛ばしてきた!?」
その一閃により、兵隊の動きも止まる。雷を纏った斬撃で貫かれたけど、別に体が斬れたわけじゃない。
狙いは足止め。伝搬する雷撃が兵隊を麻痺させ、持っていた武器を落としていく。
震斬の時と同じく、もう感覚は掴めた。
「ひ、怯むな! 攻撃の手を止めるんじゃない!」
「波状攻撃を続けろ! 息つく暇も与えるな!」
「まだ諦めないのなら、こっちもまだ技を見せるだけ。向かってくる以上、覚悟はしてると判断した」
すぐさま次の攻撃も来るけど、魔剣の使い方は把握した。ツギル兄ちゃんに確認をとらずとも、私が知る限りのことは実現可能。
ずっと傍で一緒に修行して、ツギル兄ちゃんがどんな魔法を使えるのかも知ってる。その力は今、魔剣として私の一部になった。
――二人で一つ。自信を持って刀を振るうことができる。
「炎閃付与。……ハァ!」
ボォォオンッッ!!
「こ、今度は炎の障壁だと!? 魔法は使えないんじゃなかったのか!?」
「だというのに、これは高レベルの魔術師と同等……!? け、剣術だけでなく、こんな力まで身に着けられたら……!?」
再び居合で魔法陣を展開しながら放つのは、火炎魔法による炎の障壁。これもまた、ツギル兄ちゃんが使っていた魔法だ。
加減だって問題ない。そびえたつ炎が壁となり、向かってくる兵隊を怯ませる。
【いい調子だぞ、ミラリア! それにしても、即席でよく俺の魔法を使いこなせるな!】
「ツギル兄ちゃんの魔法はずっと見てきた。何ができるかは理解してる。……魔剣として私を助けてくれて、本当にありがとう」
【お前から素直に礼を述べられると、なんだかくすぐったいな。だが、そういうのは後でしてくれ。俺達の力が合わされば、この窮地だって抜け出せる。それまでの辛抱だ】
兵隊の動きも弱まった。その間に魔剣に宿るツギル兄ちゃんにも語り掛け、口にしたかった感謝も述べてみる。
でも、深い話は全部終わった後。まだ兵隊の包囲は続いている。
とはいえ、その勢いもかなり弱まってる。剣や槍を構える姿も及び腰だ。これなら、もう余計に魔剣を振るう必要もない。
「……レパス王子に王様。今のを見て分かった? 今の私なら、ここにいる人達が束になっても返り討ちできる。これ以上の被害を出したくないなら、おとなしく私に道を開けて」
「ぐぬぬ……!? 少し力を手にしたからって、僕を挑発するような発言を……!」
「レパス! 落ち着くのだ! ミラリアの言葉は過言にあらず! ……あの者がその気になれば、この場にいる我々だけで被害は収まらぬ。それこそ、ディストール王国そのものが滅ぼされてもおかしくはない。今の我々は『国そのもの』を人質に取られていると言ってもいい……!」
だから、玉座の辺りにいるレパス王子と王様に話を持ちかける。これが『敵を脅す』ってことなんだろうけど、これが一番妥当な選択だと思う。
レパス王子は憤ってるけど、王様の方は状況がよく見えてる。確かに私と魔剣の力があれば、お城どころか城下まで戦火を広げることだってできる。
でも、そこまではしない。城下の人達は関係ない。
こっちに連れて来られる時に罵声を浴びせられたり石を投げられたのは辛かったけど、それに怒って刃を向けてはレパス王子達と同じになってしまう。
私の目的はここを脱すること。感情任せに暴れることじゃない。
――手にした魔剣は道を切り開くために使う。
「兵どもよ! ミラリアに道を譲るのだ!」
「し、しかし……国王陛下……!?」
「構わん! 今ここで戦いを続けても、余計な被害を増やすばかりぞ! ……この場を凌ぐことを優先せよ」
「か、かしこまりました……」
王様も状況が分かっているからこそ、私を包囲していた兵を促して退かせてくれる。
これでいい。道が開けたのならば、今はそれで十分。
エスカぺ村への仕打ちを考えれば、今でも憤りは残ってる。でも、私の役目は生き残ることが優先。
そのためにツギル兄ちゃんだって魔剣となり、こうして力を貸してくれてる。その想いを無下にはできない。
居合の構えも解き、すぐにでもここを――
「見損ないましたよ、父上。あなたがそんな矮小な器では、楽園という夢は掴めない」
ザシュンッ!
「ガハッ!? レ、レパス!? な、何を……!?」
――立ち去ろうと扉の方へ振り向いた時、背後にある玉座から喧騒が聞こえてきた。
それでも、納得しない狂気はまだ残っている。




