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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
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その女神、本物か疑う

姿を見せた女神エステナは果たして本物なのか?

「やっぱり、シード卿もそう思ってたんだ」

「まあな。俺は直接あいつに憑依された経験もあるし、直感的に理解できた。ただそうだとしたら、あの女神エステナを名乗る緑髪に仮面と触角の女は何者なんだ? 本当に女神エステナの依り代なのか?」


 私と同じ疑問をシード卿も思った通り呈していた。かつてその身で実際に力を宿したことがあるからこそ、女神エステナがわずかに見せた影も理解できていた。

 遠目だったけど、あれはエスカぺ村の地下やカムアーチで出会った影の怪物に近いものと見える。私も私で何度も相対してきた存在だし、確証とまでは行かなくても可能性としては十分。


 ただ、そうなってくると出てくる当然の疑問。あの人って、本当に女神エステナだったのかな?

 あの影の怪物には、神聖な力なんて何も感じなかった。感じたのは『苦痛』『孤独』『憎悪』といった負の感情ばかり。

 そもそも、私が倒したはずなのにどうしてここにいるの? もしかして、同じような存在が別にいるってこと?


【……俺も気にはなるが、一つだけ可能性として考えられることがある】

「むう? ツギル兄ちゃん、何が?」

【あの影の怪物って、以前もシード卿に憑りついてただろ? それこそ、ツクモと同じように乗り移った対象を操ってだ。まさかと思うが、あいつがあの女性に憑りついて女神エステナを名乗ってるのか? だとした場合の疑問点も多いが……?】

「乗り移って操ってる……でも、十分にありうる」


 ツギル兄ちゃんも考察してくれて、少しだけ話の糸口が見えてくる。思い返せばあの時、リースト司祭は影の怪物を狙うようにシード卿へ接触を図っていた。

 その目的がああして女神エステナの力を手に入れるためだとしたら、話の筋はちょっぴり見えてくる。


 ――そして事実ならば、あの女神エステナは偽物ってことにもなる。


「だがよ、魔剣の兄貴。それだと色々とおかしな点も多くねえか? あの影の怪物にしたって、簡単に従うような奴じゃねえだろ? 俺だってあいつに精神を乗っ取られた時は、好き放題に体を動かされてた。……何より、影の怪物は女神エステナみてえに神聖な存在じゃねえ。それこそ『意志を持った闇瘴』と俺は感じたぞ」

【だからこそ、俺もこの仮説には自信がない。さっきの女神エステナは風貌や行いだけ見れば、確かに神のようなものだった。……ただ、同時にあそこまで『自我がない様子』ってのも気になる。エステナ教団が何かした可能性だってある】

「むう……可能性がたくさん。私、混乱してきた」


 ただ、これらの話は全部あくまで可能性。確証的な話は一つもない。

 むしろいろんな話がこんがらがって、私のアホ毛までこんがらがってくる。どれだけ旅を通じて学ぶことはあっても、複雑な話はやっぱり苦手。

 他人任せは良くないけど、任せてしまいたくなっちゃう。


「とりあえず、これらの話にもエデン文明が関わってる可能性は高いってこと?」

【まあ、ほぼ確定だろうな。闇瘴に近い影の怪物どころか、楽園を創ったと言われる女神エステナ本人までいるんだ。それこそ、俺達でさえまだ知らない楽園の技術が関わってる可能性もある】

「もしかして、ゲンソウとかも関係あるのかな? ルーンスクリプトも使ってたし、どこか調べられる場所があればいいけど……」


 それでも、頑張って頭とアホ毛を働かせて理解には努める。これまでの旅でも楽園に関わる片鱗があれば、踏み入ることで道を開くことができた。

 エステナ教団に関わるのは嫌だけど、このまま見過ごすのも嫌。ここはスペリアス様縁の地でもあるし、真相を確かめないことには離れたくない。

 まずは何かしら情報が欲しいけど――




「わたくしにはよく分かりませんが、調べものなら図書館を使えばいいですの。ここは魔法学都スーサイド。魔法に関わることならば、大量の資料が眠ってますの」

「図書館……それは名案」




 ――そう悩んでると、シャニロッテさんが口を挟んで来た。話の内容が内容だけに、やや置いてけぼりに隅の方で話を伺ってたらしい。

 私が情報を欲していることも理解してくれて、図書館についても提案してくれる。実に目の付け所がクールだ。私のアホ毛に負けないクルクルヘアーなだけのことはある。


「ディストール王国みたいな図書館がスーサイドにもあるなら、是非とも案内してほしい。話の続きはそこで調べながらが一番」

「では皆様、わたくし達ミラリア教団についてきてくださいですの。ご案内しますの」

「私も困惑してますが、ここは敬愛するミラリア様達のために踏ん張りましょう」

「カーダイス先輩のこともありますが、ミラリア様のお役に立ってみせます!」

「お役立ちです!」


 私だってまだまだ整理が追い付いてないし、シャニロッテさんの提案は実にありがたい。ミラリア教団のみんなと一緒になり、図書館がある方角へと案内される。

 みんなもカーダイスさんの死で思うところがあるみたいだけど、気丈に振る舞ってくれる姿は心から頼もしい。本当は休んでほしいけど、裏にエステナ教団がチラつくと私も待ってるだけとはいかない。


 ――過去に色々あったからこそ、早々に事態解明へと動きたい。もうフューティ姉ちゃんみたいに手遅れな結末だけは見たくない。


「それにしても、みんなは大丈夫なの? 私やシード卿って、エステナ教団からは目をつけられてる。スーサイドにもエステナ教団が出てきたし、一緒にいると迷惑じゃない?」

「迷惑とは思いませんの。何より、わたくし達はミラリア教団! エステナ教団や女神エステナが出てきても、崇めるべきはミラリア様ですの!」

「……嬉しいんだけど、無理はしないでほしい。今回はサークル活動と違い、事態が大きくなってくる」


 とはいえ、ミラリア教団をこれ以上巻き込んで良いものかとも考えてる。だって、相手は本物の教団だもん。

 ミラリア教団はあくまでサークルだし、これ以上関わるのは危険が勝ってしまう。だけども、シャニロッテさん達は関係ないとばかりに案内を率先してくれる。

 私にとっては、友達のシャニロッテさんやミラリア教団がこれ以上危険に巻き込まれるのも嫌だ。




「そもそも、わたくし達はお友達ですの! お友達のミラリア様が困っていたら、手を差し伸べてこそですの!」

「ミラリア様に比べれば未熟ですが、何かしら役に立てると思ってます。あんなポッと出の神様より、ミラリア様を信じます」

「尊敬はしてますけど、それ以上にお友達を助けます!」

「お友達です!」


「……うん。みんな、ありがとう」




 ただ、シャニロッテさん達の厚意を無下にすることもできない。かけてくれる言葉の一つ一つが温かい。

 これが友達との友情。私も少しずつ理解できてきた。

今回は不穏な影も多いが、同時に味方も多い。

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