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少女は魔剣と共に楽園を目指す  作者: コーヒー微糖派
母の想いと魔法の都
307/503

その王子、教団代表にして

宿敵レパス王子までもがスーサイドに登場。

「ディストールのレパス王子……とな。以前から少し話を伺ってはおりましたが、現在はエステナ教団の代表もされておると?」

「ええ。紆余曲折があって、僕もエスターシャ神聖国とエステナ教団には強い繋がりがあってね。女神エステナを顕在させる件についても、全面的にバックアップさせてもらってる」

「となると……あの仮面に触角の女性は本当に女神エステナじゃと?」

「あくまで依り代という形ではあるが、本人がいると思って構わないさ」


 エステナ教団代表として姿を見せたのは、私からエスカぺ村やフューティ姉ちゃんを奪った張本人。かつて細切れに斬られたはずのレパス王子だ。

 コルタ学長達にはニコニコ笑顔で応対してるけど、私にはその裏にある本性が透けて見える。女神エステナと称される女の人を紹介するように話を進めるけど、まるでいい予感がしない。


 ――この人は身も心も怪物だ。リースト司祭と並び立つと、さっきみんなを助けてくれたことさえも胡散臭く思えてしまう。


「学生や教員を含む皆に語らせてもらう。これがエステナ教団が崇め奉る女神エステナの力だ。彼女がいれば、苦痛から逃れることだってできる。死の瞬間でさえ、苦しまずに逝くことができる。これを機に、女神エステナを崇めたまえ。人は誰しも、苦しみから逃れて生きたいと願うものだろう?」

「こちらの広場にある台座にも、女神エステナの銅像を配置いたします。我々はただ、女神エステナの素晴らしさを世に広めたいだけなのですよ」

「た、確かにその力は儂も理解したし、助かりはするが……そうも勝手に話を進められては……」


 そんなレパス王子率いるエステナ教団の狙いだけど、言ってしまえば布教活動ってことなのかな? しかも、そのやり口はどこか強引。

 スーサイドの代表であるコルタ学長はタジタジなのに、お構いなしに話を進めていく。広場の中央には女神エステナの銅像まで用意して、スペリアス様の銅像があった位置へ新たに配置してくる。

 かつてエスカぺ村やフューティ姉ちゃんに酷いことをした人達が、私のお母さんであるスペリアス様が崇められてた場所で好き勝手してる。そう考えると、怒りさえも湧き上がってくる。


「急な話ではあるけど……アーシも確かに女神エステナに救われたし……」

「もしも女神エステナ様がいなかったら、僕達はどうなっていたことか……」

「カーダイス先輩は残念だったけど、彼女の最期も安らかなものにしてくれたし……」

「そうだろう、学生の諸君。君達は実際に女神エステナの力を体感し、その恩恵を身に受けた。……少しずつでも構わないさ。僕も崇める女神エステナを理解してくれたまえ」


 だけど、そんな事情は他の人達には関係ない。アーシさんを始めとした女神エステナに救われた学生が、声を揃えてその存在と力を認めている。

 複雑な気持ちになるけど、仕方ないと言えば仕方ない。だって、アーシさん達は実際に女神エステナの力を目の当たりにしたもん。

 今回エステナ教団がやってることにしたって、人助けの領域を出ない。むしろ、女神エステナを連れてこなければカーダイスさんの犠牲だけでは済まなかった。

 あの緑髪の女の人が本当に女神エステナかはまだ疑問だけど、今のところは信じることしか――




「……ッ」


「むう? 今、女神エステナが手を押さえて……黒いモヤが見えたような?」

「今のは……まさか? 俺にも少し覚えが……?」




 ――できないと考えてたら、遠目に見てた女神エステナの見せたわずかな違和感が目に映った。

 本当に一瞬だったけど、女神エステナの押さえた右手から溢れた黒い何か。女神エステナも声は出さないけど、まるで溢れる力を抑え込んでるように見えた。

 それは一緒に隠れてたシード卿にも確認できたらしく、私と同じように不思議そうな反応を示してる。いや、確証はなくても私よりその正体に勘付いたような反応だ。


 ――多分、シード卿はさっき見えた黒いモヤの正体に気付いてる。





「結局、あの後はエステナ教団がいいように話を進めてましたの。カーダイス先輩が亡くなったことも含め、授業も中止ですの。……どうにも、悲しさと混乱が入り混じりますの」

「シャニロッテさんも無理しないで。私はカーダイスさんについて詳しくないけど、詳しいシャニロッテさんなら思うことも多々あるはず。悲しんでも恥じゃない」

「……やはり、ミラリア様は慈愛に溢れてますの。女神エステナが現れても、敬う気持ちは変わりませんの」


 エステナ教団もいたので、足早に広場での騒動からも離脱。ミラリア教団の面々も悲愴な面持ちで、今後の予定が崩れたこと以上のショックが感じ取れる。

 無理もない。知り合いが死ぬのって、凄く心に堪える。少し顔を合わせた程度の私でも辛い。


【……なんだか、色々と急な話が出てきたな。こっちもこの後はどうする? エステナ教団がいたままじゃ、下手にスーサイドに滞在もできないだろ?】

「それはそうだけど、私も少し現状を整理したい。とりあえず、シード卿にはブレスレットを片方返そうと思う」

「別にミラリアが持ってて構わねえよ。どっちか片方は足に着けてアンクレットにでもすればいいさ」


 スーサイドには外からやって来た私達にしても、急に動いた事態のせいで少し混乱中。一つ一つ事態を整理する必要もある。

 とりあえず、ツギル兄ちゃんがクッツキ虫してたブレスレットはそのままシード卿の提案でアンクレットへ。あんまり意味はないけど、もらったものだから一応は身に着けておきたい。


「……それより、俺も俺で色々と気になってる。さっきの女神エステナを始めとした一件で、どうにも繋がりそうな話があるもんでな」

「繋がりそうな話……やっぱり、シード卿は何かに気付いてる?」

「その口ぶりだと、ミラリアも思うところがあるみてえだな。……おそらく、俺の考えてることと同じだ」


 そんなシード卿だけど、ブレスレットのことより気になることがあるのは明白だ。顔を見れば分かる。

 私も一番最初にもらったブレスレットを右足首に巻きつつ、シード卿と言葉を交える。やっぱり、一番気になってるのは女神エステナの存在だ。


 ――あの人が本当に女神エステナかどうかは別として、わずかに見せた黒いモヤには私も覚えがある。




「さっき女神エステナがわずかに見せた黒い影のようなもの……あれはおそらく、かつて俺に憑りついてた怪物と同じものだ。……闇瘴に近くも別物と言える『形なき自我』の怪物とな」

シードも感じた女神エステナの内に眠る力の正体。

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